セブンスソード

奏せいや

72

 グランでは屋内、廊下では振り回すことができないためパーシヴァルと持ち替え此方に駆けつける。彼女を睨みつけパーシヴァルを振り上げた。

 彼女と目が合う。仰向けに倒れている此方は怯えた表情で俺を見上げていた。

「あ、あ……」

 今にも泣きそうで、大声を出せばそれだけで泣いてしまうんじゃないだろうか。それくらい彼女は怯えていた。

 彼女もセブンスソードの被害者なんだ。

 だけど、こいつは力也を殺した。

 背後では力也へ近づき声をかける二人の声が聞こえてくる。二人とも泣いていた。姿は見えなくてもその叫びで二人がどんな顔をしているのか分かる。

 こいつは俺の仲間を殺した。また誰か殺されるかもしれない。

 でも、彼女だって被害者なんだぞ? 

「…………」

 頭の中がこんがらがりそうだ。感情は怒りでどうにかなりそうなのに、頭の片隅では別のことを言っている。

「~~~~」

 どれが正しいかなんて、分からない。

 分かるのはこいつは力也を殺したこと。危険なやつなんだってこと。

 理性なんていらない。この時だけは、考える頭を捨てたかった。

「う、あああ!」

 勢いで誤魔化した。葛藤を。苦悩を。ぜんぶ置き去りにして。善悪も正誤もそんな境界を振り切って。

 俺は考えることを捨てた。

 そして、スパーダを振り下ろした。

 短い悲鳴が上がる。体からは血が吹き出して彼女は事切れていた。

 スパーダが手から離れ床に落ちる。その後、俺はその場に両膝をついた。

 両手を見つめる。自分の手じゃないくらい、俺の両手は振るえていた。

 殺した。……殺してしまった。

 相手は力也を殺したやつだった。敵だったんだ。仕方がなかった。

 でも、俺ははじめて人を殺した。

 暗澹(あんたん)とした思いに怒りも後悔も浮かばない。ただ気分が暗い。重苦しくて全身が泥にでもなったようだ。

 背後からは、香織のすすり泣く声が聞こえる。

 こんなことが、したかったわけじゃない。

 ただ、話がしたかっただけなのに。

 なのになんで。

 袋小路のような現実が俺に覆い被さる。もう、どうすればいいのか分からない。これからどうすればいいっていうんだよ。力也はもう死んでしまったんだぞ。

 その時だった。あることに気がついた。

 パーシヴァルが、光ってる……?

 刀身が光っていた。俺は手に取り顔に近づける。

 そういえば、こいつの能力。それはけっきょく分からなかった。発動したはずなのになにも起こらなかった。

 でも今はどうだ。さきほど俺は此方のスパーダも得て、今三本スパーダを持っている。

 三本になった時、発動できる能力があるのでは?

 もしかして、俺が死んだら世界が変わって目覚める現象、原因はまさかこれか? この能力を使えばまた世界をやり直せる?

 もしそうだとしてもきっと世界は変わっている。俺の知らない世界が出迎えるはずだ。

 だけど。

 それがどんな世界で、どんな困難があろうと俺は諦めない。

 こんな世界、何度だって否定してやる。

 いつの日か、全員で生き延びられる、そんな世界を手にするまでは。

 俺は、何度だって挑戦してやる!

 俺は背後へ振り向いた。そこには亡くなった力也を悼んでいる二人がいる。悲しんで、胸を痛めている。その姿は見ているだけで辛いが、だけど俺の気持ちを後押ししてくれた。

 待ってろよ、三人とも。絶対に救ってみせるからな。

 俺はパーシヴァルに視線を戻し、覚悟を決めた。

 神を冠する剣、パーシヴァル。それは聖杯を求めて旅に出た三騎士の一人の名前。旅は長く険しかった。多くの困難があった。だけど彼は諦めなかった。だから彼は手にしたんだ。

 探し求めていた答えを。

 俺だって諦めない。必ず手にして見せる。

 俺の答え、みんなで生き延びる未来を。

「応えろ」

 希望を。祈りを。俺は己のスパーダに願う。

「神剣、パーシヴァル!」

 こんな世界を変えるために。

 絶対に、みんなで生き延びるんだ。

 この、セブンスソードから。

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