セブンスソード

奏せいや

60

 俺たちが立たされている状況は苦しい。魔卿騎士団幹部という管理人、そして参加者であり積極的にセブンスソードを行う魔堂魔来名。戦うにしても逃げるにしても強敵が立ちふさがる。

 でも、まったくの無力というわけじゃない。俺は以前の世界での経験がある。この情報アドバンテージを上手く使えれば生き残れる道はきっとあるはずだ。

「まずはみんな自分のスパーダを確認してくれ。もしかしたら俺が知ってるのと違うかもしれない」

 俺のスパーダが同じだから星都たちのも同じだと思うが念のためだ。

 三人は順番にスパーダを出していき一喜一憂していた。香織もはしゃぐことはしなかったけど自分が出した時はさすがに声を出していたな。

 それで能力だが前と同じだった。星都は光帝剣エンデゥラス。力也は鉄塊王グラン。香織はディンドラン。

 この世界が以前の世界と違う点って、思えば俺と香織の立場が逆転していることくらいか。

 なら、他の出方を前もって対応できる。

 そこでチャイムが鳴った。重要なことだがずっとここにいるわけにはいかない。

「続きは放課後に話そう。時間に余裕がないとまともに話もできないだろう。その間各自考えをまとめておいてくれ。いろいろ混乱してるだろう」

 それで一旦の解散となった。香織は隣のクラスなので会う機会がなかったが星都や力也とはその後時間があれば話をした。内容はとりわけ以前の世界でのことだった。その時の俺たちを聞かれ気恥ずかしかったが話をした。それがずいぶん気に入ったようで俺は二人と打ち解けていった。

 それで放課後、俺たちは図書室に集まった。以前と同じだ。話をするならやはりここがいい。

「それで、今後についてだが」

 ここが図書室だというのもあるが、声を抑えて話す俺たちの雰囲気は固くなっている。明るい話じゃないが、するしかない。

「話すのは辛いが、俺たちはこの町から出ようとして、以前の世界では失敗した」
「俺たち全員殺された、か。なあ、本当なんだよな?」
「……本当だ」

 始める前から失敗したと告げられみなの顔も暗い。医者に余命を告げられるか、死刑判決を言われたのと変わらない絶望感がある。

「でも、それはあくまで俺が経験した以前の世界での出来事だ。この世界でもそうなると決まったわけじゃない」

 俺がなぜこの変わった世界で目を覚ましたのか、その原因は分からない。

 でも、あんな結末を変えるために生きるんだ。

「俺たちは、今度こそ生き延びる。失敗したけれど、この経験を活かしてみせる」

 俺の決意表明を聞いて三人とも顔を縦に振ってくれた。それを見て俺も頷く。

「俺なりに考えたが、以前に失敗した主な要因は二つだ」

 俺だってなにも考えていなかったわけじゃない。前回の反省をしていた。

「まず駅を利用したこと。ここは多くの人が使う。水戸市で暮らしている人なら誰だって分かる。だから待ち伏せするならここだ。あからさま過ぎた」

 あそこに魔来名が現れたのは偶然じゃないだろう。たぶん見張っていたに違いない。待ち伏せするなら水戸駅は本命だ、迂闊だったと言わざるを得ない。

「でも、それはロストスパーダっていうのを探すためだったんだろ? それはもういいのか?」

「ああ。彼女、もちろん以前の香織のことだが、ロストスパーダと呼ばれるそれを探すために俺たちは水戸駅を訪れた」

 そう言うと香織は曖昧な笑みを浮かべていた。

「でもその理由は分からないし俺自身もどうでもいい。みんなで生き残れればそれでいいんだ。それで二つ目だが」

 言いにくい。だが、これが俺の中で最大の理由だった。

「もう一つが、俺が戦わなかったことだ」

 目線が下がる。こうして無事な三人に言うのも変な話だが、俺の中であの悲劇はあったことで、三人を失った事実もぜんぶあったことなんだ。

 それをなかったことにしてはいけない。そう思うんだ。

「みんなにはなんのことか分からないだろうけれど、でも俺の気持ちを整理するためにも言わせてくれ。……ごめん。本当にすまなかった」

 そう言って三人に頭を下げた。

「俺が戦っていたら、なにか変わっていたかもしれない。もしかしたら魔来名を倒せてみんなで逃げ延びれていたかもしれない。……みんなが死んだのは、俺のせいだ」

 あの時の後悔はこの世界で目覚めてからも変わらない。

 自分のせいで三人が斬られたあの時は、本当に最悪の気分だった。

「別にいいぜ」
「え?」

 聞こえてきた声に顔を元に戻す。重くなっていた雰囲気にその声は明るかった。

 星都は小さな笑みを浮かべていた。

「前の話だろ? そんな実感もない話、気にするやつここにはいねえよ」
「うん。僕も気にしてないよ。だから聖治君元気出して」
「二人とも」

 そう言ってくれて表情が晴れていく。許されたんだと思えただけで、胸の奥にあった苦しさが流れていく。

「むしろ安心したかな。聖治君、真面目なんだね」

 香織も同じように俺に言ってくれた。

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