セブンスソード
57
荒廃した世界を歩き続けていく。人のいない町。空虚で希薄な世界。
俺たちは廃墟となったテナントの隅に腰を下ろしていた。コンクリートの床と空っぽの棚、辺りに散らばったなにかの破片。でもやつらの気配はない。心休まる時なんてないけれど歩き続けた体にはうれしい空間だ。
『大丈夫か?』
隣に座る香織にそっと声を掛ける。食べ物は見つけられなかった。それに体力的にもたいへんなはずだ。
『うん。大丈夫だよ』
だけど、彼女は気丈にも笑顔を浮かべる。俺に心配をかけたくないんだろう。彼女の笑みは無理しているのが分かった。
『……ごめん』
なんとかして見つけたかった。なんでもいいから食べさせてあげたかった。それが叶えられず申し訳ない。
『謝らないで。聖治君が謝ることなんて一つもないよ』
『でも』
『そうでしょ?』
俺は言うけれど、なおも香織は笑顔で言ってくる。
『うん、そうだな』
そう言われては違うとは言えず、小さく笑う。
『私こそ、ごめんね』
『ん? なぜだ?』
彼女が謝る理由が分からず素で声が出る。
『聖治君が私のために頑張ってくれてる。なのに、私はなにもできてないなって』
『そんな』
俺は正面を彼女に向け肩に手を置いた。
『それこそ香織が気にすることじゃない。俺がしたくてしてることだ』
『それを言うなら、私のこの気持ちだって同じだよ』
彼女は俺の顔に向けそう言った後下を向いてしまった。顔は見えなくなるが声から辛そうなのが伝わってくる。
『聖治君のそばにいたい。でも、聖治君の重しにはなりたくないよ……』
『香織』
なんでそんなこと。俺はそんな風に思ったことなんて一度もない。
『香織。俺は君が重しだと思ったことなんて一度もない。むしろ救われてる。こうして俺のそばにいてくれて何度心が救われたか』
『それは!』
香織は振り向き俺の顔を見る。彼女は泣きそうな顔をしていて、そして、悲しそうに表情を歪ませる。
『それは、私だって同じだよ。聖治君がいたから今まで生きてこれた』
彼女の言葉に、俺の胸が熱くなっていくのが分かった。
俺も、香織も、互いがなにより大切なんだ。相手のことを自分のこと以上に心配してしまう。それくらい、大切なんだ。
俺は香織の肩に置いていた手を放し、彼女の手を掴んだ。
『ずっと一緒にいよう』
『うん』
『約束だからな?』
『うん!』
俺たちは並んで座り、彼女の頭が肩に寄りかかってくる。繋いだ手の平から彼女の温かさを感じる。
彼女を感じるすべてが、俺の生き甲斐だった。これだけで、この世界でも生きていくんだと思える。
彼女の髪が頬に当たるのがくすぐったい。
静かな時間が過ぎていく。人類が敗北し、地上はやつらが跋扈する地獄に変わったなんて思えないくらい、ここは静かだ。
『私たち以外にも、人はいるのかな』
『どうだろうな』
彼女のつぶやきに俺もつぶやく。
『こういう時、携帯があれば便利なんだけどね』
『衛星は落とされ発電所は壊されちゃったけどな』
『もしまだ使えたら、聖治君は話したい人いる?』
『んー……』
『まさか私以外に女が!』
『あのなあ』
そのたくましい想像力には頭が下がるがもっと違う方向に向けてくれ。
話したい相手、か。聞かれても、どうだろうな。欲しいとは思うのに、なぜかパッとは浮かばない。俺は誰と話がしたいんだろう。
『そっか、そうだよね。お父さんやお母さん、クラスのみんな。全員、いなくなちゃったもんね』
答えはなかなか浮かばない。その理由を香織が代弁してくれた。
そう。連絡手段があったって、今更かける相手もいない。
みんな死んでしまった。それを知っている。無知が罪なら既知は罰ってか。知っているから夢を見ることもできない。辛い現実を押しつけられるだけだ。
『じゃあさ』
そこで香織は声を明るくして言ってきた。
俺たちは廃墟となったテナントの隅に腰を下ろしていた。コンクリートの床と空っぽの棚、辺りに散らばったなにかの破片。でもやつらの気配はない。心休まる時なんてないけれど歩き続けた体にはうれしい空間だ。
『大丈夫か?』
隣に座る香織にそっと声を掛ける。食べ物は見つけられなかった。それに体力的にもたいへんなはずだ。
『うん。大丈夫だよ』
だけど、彼女は気丈にも笑顔を浮かべる。俺に心配をかけたくないんだろう。彼女の笑みは無理しているのが分かった。
『……ごめん』
なんとかして見つけたかった。なんでもいいから食べさせてあげたかった。それが叶えられず申し訳ない。
『謝らないで。聖治君が謝ることなんて一つもないよ』
『でも』
『そうでしょ?』
俺は言うけれど、なおも香織は笑顔で言ってくる。
『うん、そうだな』
そう言われては違うとは言えず、小さく笑う。
『私こそ、ごめんね』
『ん? なぜだ?』
彼女が謝る理由が分からず素で声が出る。
『聖治君が私のために頑張ってくれてる。なのに、私はなにもできてないなって』
『そんな』
俺は正面を彼女に向け肩に手を置いた。
『それこそ香織が気にすることじゃない。俺がしたくてしてることだ』
『それを言うなら、私のこの気持ちだって同じだよ』
彼女は俺の顔に向けそう言った後下を向いてしまった。顔は見えなくなるが声から辛そうなのが伝わってくる。
『聖治君のそばにいたい。でも、聖治君の重しにはなりたくないよ……』
『香織』
なんでそんなこと。俺はそんな風に思ったことなんて一度もない。
『香織。俺は君が重しだと思ったことなんて一度もない。むしろ救われてる。こうして俺のそばにいてくれて何度心が救われたか』
『それは!』
香織は振り向き俺の顔を見る。彼女は泣きそうな顔をしていて、そして、悲しそうに表情を歪ませる。
『それは、私だって同じだよ。聖治君がいたから今まで生きてこれた』
彼女の言葉に、俺の胸が熱くなっていくのが分かった。
俺も、香織も、互いがなにより大切なんだ。相手のことを自分のこと以上に心配してしまう。それくらい、大切なんだ。
俺は香織の肩に置いていた手を放し、彼女の手を掴んだ。
『ずっと一緒にいよう』
『うん』
『約束だからな?』
『うん!』
俺たちは並んで座り、彼女の頭が肩に寄りかかってくる。繋いだ手の平から彼女の温かさを感じる。
彼女を感じるすべてが、俺の生き甲斐だった。これだけで、この世界でも生きていくんだと思える。
彼女の髪が頬に当たるのがくすぐったい。
静かな時間が過ぎていく。人類が敗北し、地上はやつらが跋扈する地獄に変わったなんて思えないくらい、ここは静かだ。
『私たち以外にも、人はいるのかな』
『どうだろうな』
彼女のつぶやきに俺もつぶやく。
『こういう時、携帯があれば便利なんだけどね』
『衛星は落とされ発電所は壊されちゃったけどな』
『もしまだ使えたら、聖治君は話したい人いる?』
『んー……』
『まさか私以外に女が!』
『あのなあ』
そのたくましい想像力には頭が下がるがもっと違う方向に向けてくれ。
話したい相手、か。聞かれても、どうだろうな。欲しいとは思うのに、なぜかパッとは浮かばない。俺は誰と話がしたいんだろう。
『そっか、そうだよね。お父さんやお母さん、クラスのみんな。全員、いなくなちゃったもんね』
答えはなかなか浮かばない。その理由を香織が代弁してくれた。
そう。連絡手段があったって、今更かける相手もいない。
みんな死んでしまった。それを知っている。無知が罪なら既知は罰ってか。知っているから夢を見ることもできない。辛い現実を押しつけられるだけだ。
『じゃあさ』
そこで香織は声を明るくして言ってきた。
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