セブンスソード

奏せいや

28

「残りの一本を見つけないと。だから、私は行けない。逃げるなら聖治君たちだけでお願い。私はここに残る。そして、最後の一本を探してみせる」

 なぜその二本を探すのかその理由は分からないけれど、彼女はその残りの一本を探している。それが彼女が戦う理由。そのために彼女は命を賭ける覚悟でここにいるんだ。

 それはすごいと思う。でも!

「そんなの駄目だ!」

 彼女が語る覚悟を湧き上がる感情が塞ぐ。

「それで君にもしものことがあったら? 死ぬかもしれないんだぞ?」

 わがままだって分かってる。でも、危険過ぎる。セブンスソードは七人の殺し合い。それに一人で挑むなんて。

「でも、これはしなければならないことなの」

 沙城さんが俺を見上げる。その瞳は力強かった。

「どんな理由だよ、命をかけてまでするなんて」
「…………」
「言えないのか?」
「…………」
「それは、俺が忘れてるからか?」

 昨日沙城さんは俺に思い出してと言った。本来なら俺が知っていなくちゃいけないことを俺は忘れているというならば言っても混乱するだけかもしれない。

「うん」
「そうか」

 彼女は俯き理由までは答えてくれなかった。その反応に俺も目線が下がる。きっと、俺が悪いんだよな。

 でも、やっぱり彼女には考え直して欲しい。

「君にも事情があることは分かった。きっと、俺が聞いても理解できないほど君は大きなものを背負ってここに来たんだと思う。でも、それでも俺たちと一緒に来てくれ。君と一緒にいたいんだよ!」
「聖治君」

 分かる、分かるんだよ。彼女だって必死なんだって。じゃないと戦うなんて選択を誰ができる? 自分の命まで賭けて行おうとする人にどうこう言える資格なんて俺にはない。せいぜい十六年、いや、それ以下しか生きたことがないガキの言い分だよ。

 でも、でもだ!

「君にはいろいろ教えてもらった。君がいなければ俺や星都、力也もそうだ、なにがなんだか分からないまま殺されてただろう。君がいたおかげで俺たちは全部じゃないが受け入れられてる。なにより! 君には一度助けてもらった。命を救ってもらったんだ。そんな君が傷つくかもしれないなんて嫌なんだよ。だから一緒に逃げよう。君が傷つく必要なんてない」

 それが俺の嘘偽りのない本音だった。

 彼女にだってセブンスソードなんて戦いに参加して欲しくない。昨日会ったばかりだが彼女はすでに俺の中で大切な人になっている。そんな人が危険な道を進もうとしていたら止めるだろう、普通。それがわがままだとしても。そうしたくなる。

 俺の叫ぶような訴えに、彼女は目を逸らした。

「そんなこと、言わないでよ……。迷っちゃうじゃんか」
「沙城さん」

 そのつぶやきに、つい名前を呼んでしまう。

 彼女だって本当なら殺し合いなんてしたくない。それが垣間見えた。

 彼女は俺から離れるとまだ青い空を見上げる。つられて見てみれば初夏の白い雲が流れていた。

「平和だよね、この世界って」
「え」

 彼女は空を見上げ続ける。

「ニュースを見れば交通事故とか政治の話とか、海外じゃ移民の問題とか紛争とか世界平和とはいかないかもしれないけど、日々をこんなにも穏やかな気持ちで過ごせるなんて。学校のみんな、みんな笑ってる。生活に不安や恐怖なんてない、自由で、生きてることが喜びなんだって見てて分かる」

 俺の位置からは彼女の横顔が見える。その表情はうっすらと笑っていた。ただ、彼女の雰囲気はどこか儚い。

「それって、とても幸せなことなんだよ?」

 いたずらっぽく笑い、俺に視線を寄せる。

「沙城さんは、違うのか?」

 聞くと彼女の笑みに陰が差した。

「私は、怖いんだ。毎日が怖かった。日々が苦痛だった。生きることが恐怖だった」
「…………」
「でもね」

 そう言って沙城さんが俺に振り返る。

 なんでだろう。その時の彼女は、まるで俺が希望の光のように温かな笑みで見つめていた。

「私のそばには、いつだって大切な人がいた。世界中の誰よりも。だから、私は生きてこれたんだ」

 彼女は笑ってそんなことを言う。
 俺には、その真意が分からない。

「……平和って、いいよね」

 彼女は、寂しそうに笑っていた。

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