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夏月太陽

79.無心道場


 現在、龍二くんが叔母さんに駄々をこねている。

「ねぇ、いいでしょ!?」
「だから、ダメなものはダ~メッ」

 なぜこんなことになったかと言うと、食事を終えて僕達が帰ってから何をするかを話しているときに、速人が新しいクエストがあるからやろうと提案したことが、ことの発端だった。

 まず、龍二くんが自分もやりたいと言ってきた。

 それを聞いていた叔母さんが、すかさずダメと言い、龍二くんがなんでダメなのと聞き返し、ダメなものはダメと叔母さんが言うのを押し問答のように繰り返して、現在に至ったわけなんだけど……

「龍りゅうくん(にいちゃん)も、なにか言ってよ!」
「えっ!? 僕!?」

 急に名指しで振られて驚く僕。

 なんて言ったらいいのか、言葉に詰まる。

「えっと……もうすぐ3時なんだけど……」
「あっ、本当だ! 龍二、行くよ!」
「やだっ! りゅうにいちゃんといっしょにゲームする!」
「じゃあ、龍くんが一緒に稽古してくれるなら、どお?」
「いくっ! りゅうにいちゃん、いこっ!」
「えっ? あっ、うん……」

 というわけで、僕は再び無心道場に行くことになった。

 速人と楓季と輝美は、クエストがやりたいらしく先に帰った。

 桃香は、僕の傍いに居ることは常に太陽が東から西へ動いているのと同義だから付いていくと言った。

 ストレートに“当たり前”と言えばいいのにと思ったけど、そこまで想ってくれているんだなと思い嬉しかったので、何も言わなかった。

 というか龍二くんは、なんで僕にそんなに懐いているんだろうか……。

 全く心当たりがない。


 ◆◇◆◇◆


 道場での龍二くんは、午前と違い普通に稽古に励んでいた。

 お義兄さんが面倒を見てくれている。

 まぁ、打倒“僕”ならお義兄さんが一番適任だし、道場で一番強いから安心して任せられる。

 僕はというと、また門下生の人達と試合をさせられた。

 結局、僕の圧勝だったけど……。

 その後、おふざけか本気かわからないけど、2対1をさせられた。

 もちろん、2対1の1は僕だ。

 ルールは、2本取られたら負け。二人の方は、一人一本ずつ。

 一本取られたら、取られた人が抜けるという感じだ。

 二人一気に打たれるのは面倒なので、試合が始まると同時に片方から一本を取り、1対1に持ち込むことにした。

 目論見通り、一人を脱落させることに成功し1対1に持ち込み、そこからは言わずもがな、僕が一本取って試合終了。

 高速拍手を繰り出す桃香以外、唖然としていた。

「龍さん、さすがです! 二人を相手に一本も取らせずに勝つなんて!」
「ありがとう」

 桃香に誉められると素直に嬉しい。

「それに比べて皆さんはなんですか? 勝てないからって2対1をさせてもらっておいて一本も取れずに負けるだなんて、それでも無心道場の門下生ですか?」

 あれ? 桃香、今、凄く煽ってない……? 気のせい?

 桃香の煽りを受けた門下生の人達、怒るどころか普通に落ち込んじゃってるんだけど……!?

「桃香、それ以上は言ったらダメだよ?」
「わかってますよ。ちょっとからかっただけです」

 からかっただけなのか……。

 完全に煽ってたと思うんだけどなぁ。

 面を被ってるからアレだけど、みんなが涙目になってるのが見えるんだよね。

 普通の煽ったときの反応と違うけど。

 この後、時間差で煽られた時の普通の反応を示した門下生達が再戦を申し込んできたので、受けることにした。

 結果は言わずもがな、僕の圧勝。

 そして、また再戦を申し込んできたので受けて、結果は僕の圧勝。

 また最近を申し込んできたので受けて僕の圧勝という、無限ループが始まった。

 結局、道場が終わる時間までずっとやらされるのだった。


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