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77.龍二くんとの試合
お義兄さんの審判のもと、僕と龍二くんで試合をすることになった。
ルールは、龍二くんが自信満々に一本勝負がいいと言ったので、一本勝負。
それから、龍二くんと対峙し、竹刀を構える。
さっきは動いてたから見れなかったけど、目の前で構える龍二くんの構えや姿勢は、堂々としていて隙がない。
お義兄さんの開始の合図と共にお互い掛け声を出しながら、前へ出たりさがったりして相手の出方を見る。
僕の方は、それに加えて、偶に龍二くんの竹刀を抑えてみたり素早く攻めてみたりして、龍二くんがどう出るかをみた。
それに対し龍二くんは、竹刀を抑えられれば自分の竹刀を反対側へ回して常に中心を取るようにし、素早く攻められれば打たれないようにしながら間合いを詰めてつばぜり合いと、臨機応変に迅速に対処してきた。
もうこんなに動けるようになってるなんて、本当に僕を越えるんじゃなかろうか。
そう思えてくる。
しばらく攻め合いが続き、その間、道場内は静まり返り緊張感が走る。
そんな中、龍二くんが仕掛けてきた。
龍二くんは、僕の竹刀を中心を取りつつ抑えながら攻め入り、龍二くんが打てる距離まで入ってから面を打ってきた。
約竹刀一本分の距離ではあったけど、僕は龍二くんの竹刀が僕の頭の上まで上がった瞬間に、体捌きをしつつ龍二くんの竹刀と僕の面の間に自分の竹刀を通し、龍二くんの胴を打った。
龍二くんは身長が僕の腰辺りまでなので、変なところを打たないように、少し腰を落としながら打った。
パシーンッと僕の打った胴の音と僕の「胴ォォォォォ!」という掛け声が道場内に響く。
そして、龍二くんから見て左側を抜けて振り返って残心を取るまでに、お義兄さんの「胴あり!」という声が聞こえた。
僕が一本取ったことに、一際拍手をしている人が居るのが気になってそちらをチラッと見ると、桃香が目をキラキラさせながら高速で拍手しているのが目に入った。
あれは、いつも僕の試合を観に来てくれてた時の顔と仕草だ……。
試合が終わって自分の高校が場所取りした観覧席に戻ると、当たり前のように桃香が居てあの顔で誉めてくれた。
その時は決まって他の部員から、付き合ってるのかとかもうキスとかしたのかとか色々と聞かれたりからかわれたりした。
もちろんその時は付き合っていないので、否定していたけど、今ではそうなっているのが笑えない。
いや、桃香と付き合えるのは嬉しいけど、部員が知ったら更にからかわれるだろうなというのが笑えない。
そんな回想をしつつ、龍二くんと対峙した場所まで戻る。
僕と龍二くんが対峙して構えると、お義兄さんが「勝負あり」と言う。
それを聞いた僕と龍二くんは、竹刀を納めて6歩さがって「ありがとうございました」と言って礼をする。
それを終えた途端、タタタッと龍二くんが駆け寄ってきた。
「やっぱり、りゅうにいちゃんはつよいね! ぜんぜんあたらなかったもん」
「ありがとう。それにしても龍二くん、物凄く上手くなったね。吃驚(びっくり)したよ」
「うんっ、ぼく、りゅうにいちゃんをこえるためにがんばったもん!」
そう言って面の金具越しに龍二くんスマイルを見せてくる。
頑張ってるのは試合をしてみてわかった。
「でも、あの面は僕の隙を突けてなかったから、もっと相手の隙を作る練習をしないとダメだね」
「うんっ、わかった!」
僕の指摘に元気よく返事をする龍二くん。
僕を越えるのも時間の問題だと思った試合だった。
そうこうしていると、桃香があの顔をしながらやってきた。
「龍さん、さすがですっ! あの至近距離の面を抜き胴で返すなんて! しかも、相手が小柄ということを考えて少し腰を落とす配慮まで! 本当に、さすがですっ!」
桃香も地味に凄いんだよね……。
今のセリフって、僕の動きを事細かに見てないと言えないし……。
どれだけ動体視力がいいんだろうか。
「剣道やってないのに、よくそんなにわかるね」
「何を言ってるんですか、当たり前ですよ? 龍さんが剣道をしているから勉強したんです」
「えっ、お義兄さん居るのに?」
「龍さんを知る前はただ観に行って応援してただけですし、剣道に興味なかったんですよ? 龍さんが剣道を教えてくれたと言っても過言ではないです!」
言外にお義兄さんの剣道に魅力が無かったと、お義兄さんの心に傷を付けていく桃香。
もうやめてっ、お義兄さんのライフはもうゼロよ!
そう思いながらチラッとお義兄さんの方を見ると、聞いていたのか雷に打たれたような顔をして固まっていた。
本当にライフがゼロになってた……。
まぁ、いいか。その内復活するだろう。
そう思った僕は、見なかったことにして桃香と龍二くんと共に皆のところへ行くことにした。
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