VRMMO生活は思ってたよりもおもしろい
76.予定変更で無心道場へ
次の日、叔母さんから電話で『龍二は道場に行かせるから、今日のゲームはパスでよろしくね』と言われた。
そう言えば、この二日間、龍二くん道場にいってなかったな。
全然気づかなかった。
その事を速人(はやと)達に伝えると、それなら龍二くんの稽古風景が見たいと言い始めた。
言ったのは、主に速人と楓季(ふうき)。
一応、輝美(てるみ)も気になるらしく、「私も見てみたいわ」と言った。
桃香は、僕が良いなら良いと僕に丸投げしてきた。
この場合、多数決を取っても完全にこちらの負けなので、龍二くんの稽古風景を見に無心道場へ行くこととなった。
ただ、許可は取らないといけないと思ったので、桃香にお義兄さんに連絡してもらった。
桃香が電話を掛ける。
「……あっ、兄さん? 私だけど……えっ? ちょうど掛けるところだった? どうして? あぁ、うん、龍さんに代わるね」
えっ、そこで僕に代わるの? と思いつつ桃香のスマホを受け取って電話に出る。
「お電話代わりました。龍です」
『おいっ、龍っ、早く道場に来てくれ!』
代わってからのお義兄さんの一言目がそれだった。
唐突すぎてどういうことだかさっぱりだ。
「えっと……どういうことですか……?」
『来ればわかる! とにかく、早く来てくれ!』
そう言ってお義兄さんはプツッと電話を切った。
切迫してるのはわかったけど、一方的すぎて内容が全くわからなかった。
取り敢えず道場に行けばいいんだろうけど、さすがに要領を得ない。
僕が手に持った桃香のスマホを見るような形で考え事をしていると、桃香が心配そうに話し掛けてきた。
「龍さん? どうしたんですか? 兄が何か失礼なことでも言いましたか?」
「いや、それが……」
お義兄さんの要領を得ない一方的な突拍子もないお願いを桃香達に伝える。
「そうですか……兄はあとで痛い目に遭わせるとして、取り敢えず、道場に行ってみましょう」
そんなことをさらっと言う桃香。
ただ、その意見には賛成だったので、一応自分の剣道の用具を持って、速人達と共に無心道場へ向かった。
◆◇◆◇◆
無心道場に着くと、中から龍二くんの声らしき掛け声だけが響いていた。
どこか様子がおかしいと思った僕達が中へ入る。
そこで目に入ってきたものは、龍二くんが他の門下生達を一対多でボコボコに負かしているところだった。
最初その光景を見た時は自分の目を疑ったけど、目をゴシゴシしても目の前の光景は変わらなかった。
残念ながら現実のようだ……。
そう思ったところに、お義兄さんがやって来た。
「待ってたぞ! 早速だが早くお前の従弟を止めてくれ! 先生でも止められないんだ!」
「あちゃあ、ゲームできないのがそんなに堪えたのかな……」
現状を聞いた僕がボソッとそう呟く。
取り敢えず、止めるにしても生身だと万が一ということもあるため、ささっと胴着と袴に着替えて防具を着けた。
そして龍二くん達のところへ行き、声を掛ける。
「龍二くん!」
「えっ? あっ、りゅうにいちゃん! きてくれたの!?」
龍二くんが僕の呼び掛けに応じて動きを止めたことで、相手をさせられていた門下生の人達は、僕を見るなり「救世主だ……!」と息も絶え絶えに呟きながらその場に座り込む。
よく見たら先生も居るじゃん。
ともかく、こんなことをした理由を龍二くんに聞いてみた。
「なんでこんなことしたの?」
「だって、りゅうにいちゃんとゲームしたかったのに、できなかったんだもん……」
拗ねたように言う龍二くん。
そんな言い方されたら、許したくなるじゃないか。
「でもね、だからってこんなことをしていい理由にはならないんだよ? わかる?」
「……うん」
「じゃあ、何をするべきかわかるよね?」
コクンと頷いた龍二くんは、門下生達の方に向くと頭を下げて謝った。
「ごめんなさい……」
すると、門下生達はなぜか慌てて返事をする。
「いやいやっ、俺達としては良い稽古になったから気にしなくていいよ」
「そうそう、体力強化したかったし」
「これから毎日やってもいいぐらいだよな」
そんなことを言ってくれる門下生達。
有り難いことに、性格がひねくれている人はこの中には居なかった。
先生はと言うと、龍二くんに負けたショックからか壁に向かって落ち込んでいた。
取り敢えず、声を掛けてみる。
「あの……どうしてそんなに落ち込んでるんですか?」
「ん? あぁ、龍君か。いやなに、止めても聞かないなら物理でと思って勝負したはいいけど、小手と胴で2本取られて負けただけだ……落ち込んでなんかいない……はぁ……」
いや、声のトーンからして完全に落ち込んでますよね?
しかも言い終えた後、ため息ついてたし。
そんな先生は放置して、龍二くんに提案してみた。
「せっかくだし、僕と試合する?」
「うんっ、する!」
思ってた以上に即答だった。
「じゃあ、審判は俺がやるよ」
そう言ってきたのは、お義兄さんだった。
お願いしてもやらないと思ってたため少し驚いたというのは内緒だ。
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