転生ウジ虫野郎の毒使い

キムチ

変わらぬ現実

言っている事がすぐに理解が出来た為にその現状の異常性がよく分かる。

これは集団拉致とかそういう奴ではないスピリチュアル的な何からしい。

「ふざけるな!!」と教会の末端で誰かが怒鳴った。当たり前だ誰しもが思う事だろう。

口笛を吹きながら神と名乗った少年はそれに応対した。
「ごめんねぇ、これは決定事項であって変える事は出来ないんだよねぇ。」

勝手に呼び出して化物と戦えだとか理不尽過ぎる。
当然、納得行く筈も無く先程の少年が「いい加減にしろ!!俺はやらない。」と拒否を続けた。

「助けて!!」とか「返して!!」とか耳を裂くような女子の声に体調が悪くなりかけた。

教会の中は叫び声でいっぱいになった時痺れを切らしたのか少年が口を開いた。

「決定事項だと言ったよね?僕。何?君達死にたいの?」

その言葉は身を硬直させた。これが恐らく殺意と言う奴なのだろう。黒板を爪を立てて切り裂いた時のような悪寒、俺達にはもう逃げると言う選択肢は無いようだ。

静まり返った教会の中すっと一本の手が上がった。

「質問良いか?さっき化物と戦えと言ったが俺達は得物を扱った事の無い言わば素人だ。そんな俺達が何で呼び出されたんだ?」

あの殺意を前にしてここまで流暢に話せるなんて、相当なものだ。恐怖してる感じも全く無い。

「うん、良い質問だね説明しよう。君達が呼び出された理由は適当つまり深い意味は無い、そして百年周期で僕達は他の世界から人間を連れてくる。他世界からこの世界に召喚される人間には『恩寵__アバル__』と言われる特別な能力を授かる事が出来るんだ、それが目的。詳細は君達のポケットに入ってるカードを見てね!」

ヒロを合わせた36人全員がポケットを弄った。中には丁度クレジットカード位のカードにすらすらとアバルとやらの能力が描かれている。

(能力: 打たれ強い ……何だそりゃ…。

そういえば昔生徒全員が失踪した未解決事件があった気がする。

「なる程、この力を使えば貴様も殺せると言う事だな?神。」

「ははは…やってみろよ#人間__ゴミ__#。」

皆が状況を飲み込めない中男は少年に牽制まで入れる。相当な強者だろう。

「おい、アキラ……俺は先に出る、クラスの事は頼んだ。」

そう言い残し数人を引き連れて教会の外へと歩いて行く。

「君面白いね、何ていうの?」

「アスマ、城戸アスマ……。」

❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖

第一陣が飛び出して数十分が過ぎた。徐々に皆が落ち着きを取り戻した。それには、藤沼アキラと言う男の力が大きいだろう。

高校時代の記憶が殆ど無いヒロですら覚えていた。藤沼アキラはクラスの中心人物だった男で品行方正、成績優秀、スポーツ万能といった絵に描いた様な優等生皆が付いてくのも理解が出来る。

「まずはどうしようか決めようか。」と話を切り出した。どうするかどうかをクラスの連中と話し合い意見を交換したりしながらの会話が始まった。

ヒロはその姿を片隅でボーッと見ている事しかできなかった。

「あっれぇ、まさかそこにいるのは豚足君じゃあ無いかぁ!!」

過去の恐怖がぶり返す。人を小馬鹿にした様な口振り、俺を地獄のそこに落とした張本人 須藤 マサヤだ。

あの地獄の日々あれから人を避け続けた。延々と人に笑われる悪夢、二度と会いたくなかった。

「音信不通だったから、死んだのかと思ったぜへへへ!」


何か返さなきゃ……また殴られる……

「う、う、うん……そ、その…体調が…悪くて…。」

今言える限りの精一杯の嘘を付いた。

「そうかそうか、と言う事は今日からパシリ復活な。」

なんと返せば良いのかが分からない。この沈黙の時間が恐ろしい、そんな時だった。、

「やめないか!!」と声がした。藤沼アキラがテクテクとこちらに歩いてきた。

バツが悪い様にマサヤはチッと舌打ちをつき向こうへ消えていった。

「君、よねくら君だよね、久し振り。」


「あ、ええっと…はい、ありがとうございます。」

きっとこの時の礼は自分が劣っていると気付いた時の無意識のものだろう。

「元の世界に帰る為に、君にも力を貸してほしいんだ。」

(きっとこれは哀れみなのだろう、弱者に手を差し伸べるかのような哀れみ

「僕達はこれからこの教会を出て冒険に出る。君も僕に付いてきてくれないかい?」

ニコリと笑みを浮かべながらヒロに手を差し伸べた。ヒロの中にある複雑な感情が膨れ上がって穴が開いた。

(誰が付いてくかよ……

「だ、誰が付いてくかよ。」

自分の感情が言葉に出ていた事に気が付いたのはそれから数秒経っての事だ。

アキラは思いもしない返答に場は沈み帰った。

「す、すまないと思ってる。マサヤ君がした事は許される事じゃあない、彼に変わって僕が頭謝る。」

「何、他人面してんだよ!!お前等傍観者含めてイジメが完成すんだよ」

そんな事じゃない、俺が言いたかったのはそんな事じゃ無い。



「お前が頭下げた程度で水に流せるわけがない、俺は今でもお前らが嘲笑う様な目で見下されている夢を見ては怯え続けた.」

何もしなかったのは自分も同じ事だろ、結果逃げへと走った。

「お前等、なんか全員クソだ!!俺の前から消えて無くなれ!!」



割れたゴムボールの様に放つ言葉に制御が聞かなかった。そして、それ等は全てを言い切った後に萎んだ。

気が付いた時にはヒロは素に戻っていた。

「あ…いや……」

「すまない。」
そう言い残してアキラはクラスメイトを連れて教会の外へ連れて行った。

大きな教会に一人ヒロが腰をついた。大きな脱力感と共に一分前の自分を呪った。

僕は何か勘違いをしていた様だ。

違う世界に行ったら何か変わるかもしれないと期待を抱いた。

僕はこの世界でも一人ぼっちだ。

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