逆転した世界で楽しんでやる!

ノベルバユーザー273307

今度こそ学校へ行こう。

 扉を開け、少し錆びついた自転車をひいて公道へ出る。中学のはじめに乗ったきりだが体はまだ自転車の乗り方を覚えているらしい。国道を少し行きそこから県道へ入ると、ようやくこれから通う西山高等学校が見えてきた。
 学校に近ずくに連れて同じようなブレザーの制服が増えてくる。
 自転車置き場にそれを自転車を置き、多少錆びついて抜きにくくなった鍵を無理やり引っこ抜いて昇降口へと向かう。


 「えーと、靴は……あった、1-Cか」
 よし、クラスと出席番号はわかった。あとはクラスの場所だけだ。この学校、制服のネクタイの色分けで学年がわかるのだが、一人だけ違う学年へ行くと違和感がすごいのだ。そんなことにならないためにもぜひとも間違えないようにしたい。というか校内案内図はどこだ。百合姉に聞いておけばよかった。


 「えと、あの。どうしたんですか?」
 校内案内図を探してあちこちうろうろしながらうーん、うーんとうなっていると、後ろから声が聞こえた。先ほどから誰あの子、声掛けなってと聞こえてきていたのだ。元ひきこもりの聴覚を舐めるんじゃない。一キロ先のそよ風の音すら聞き逃さないぜ。しかしこの顔。こちらではとても美形に見れれるらしい。僕にはわからないが。ソースは百合姉。夜遅くに一人でリビングにいるなーと思っていたら「はぁ、最近みー君性格丸くなったし、美形だから弟じゃなかったらなー」と一人つぶやいていた。弟くんはそれを歓迎するぜ! むしろ姉だからイイ!! 姉と弟の禁断の関係……バッチ来いだ。
 声がする方を見ると、そこにはセミロングの少女がいた。ネクタイは僕と同じ赤。同学年だ。


 「あー、教室の位置がわからないんだ。案内図も見当たらないし」
 「え? でも入学から一週間たってますよ? さすがに覚えるんじゃ……」
 「その一週間学校へきてはいないのだ」
 「え? もしかして七峰君?」
 「ハッ! なぜ名乗っていないのに名前を!?」
 こ、こいつエスパーか!
 「あ、えと、同じクラスで隣りの席だったから来てなかったから不思議だなーって思ってて」
 「なんだ、同じクラスか。ちょうどいいや、教室まで案内してくれないかな?」
 と、教室まで案内してもらうことにした。


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 扉を開け教室内に入る。中では数人で集まり、しゃべっているグループがいくつかあり、一番大きい声で話しているのが上位グループなのだろう。男子のグループは一つしかなく、七人程度だったが野郎の事はどうでもいいだろう。先ほど案内してもらった子(ひいらぎさんだったか)の席の隣らしいので柊さんが座るまで待つ。こうすれば誰かの席に間違えて座るという恥ずかしい真似はしないで済むのだ。おお、一番窓側の後ろから二番目だ。
 ちらほらと生徒が増えてきて幾人かがこちらをチラチラとみてきている。
 生徒数名がこちらを話しかけたそうにチラチラ見ています。話しかけますか? 《はい・いいえ》
 待て! 待つんだ七峰 命! 登校早々女の子に話しかけていては軽い男だと思われかねん! そう! ここは得物ををまつイモガイのようにせねば!!
 澄ました顔で鞄の中身を入れ替えるが内心いつ話しかけてくるかと思っていたのだが誰もHRまでに話しかけてはこなかった。この意気地なし!


 「はーい、HR始めますよー」
 と、間延びした声が聞こえてくる。と、男の先生が入ってきた。あ、教壇の段差でこけかけた。前の世界なら少しドジで胸の大きい女性がするジョブのドジ教師だがこちらではやはり男性がするのだろう。前の世界の価値観があるせいか野太い声でそんなことを言われると寒気がする。すると、僕に気づいたのか小さくあっ、と声を上げ、


 「七峰君、やっと登校ですかー。一週間何していたんですー?」
 と、非常にまずい質問をしてきた。これはヤヴァイ。元とはいえ引きこもりなのがバレてしまってはこれからのリア充生活に支障をきたす。これだけは言ってはならぬ。言い訳を考えなくては。えーと、えーと。


 「えっと、風邪ひいて寝込んでました」
 「一週間もですか!? 体の方は大丈夫なんです? 風邪ならちゃんと連絡してください。心配してんですよ?」
 よし、うまく騙せた。しかし、いくら野太い声のドジ男教師とはいえ心配そうな顔をしている担任をみると少し罪悪感が生まれてくる。男なので少しだけだが。べ、別に罪悪感なんで感じてないんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!


 「えと、余裕をもって一日しっかり休んだので大丈夫ですよ」
 「そうですかー。あ、自己紹介してなかったですねー。先生は須々木すすき 正義まさよしですー。須々木先生でも、正義先生でもいいですよー」
 と、聞いてもいない自己紹介を終え、漸く僕は解放された。須々木先生はHRを再開させ手際良く連絡や出席などを済ませていた。と、後ろにいた男子生徒が、


 「よう、体大丈夫か?」
 「え、ああ、大丈夫だよ。体力なくて風邪がながびいただけだし」
 「そうか、よかったな。俺、後前うしろまえ 琉斗りゅうとだ。琉斗って呼んでくれ。よろしくなっ」
  野郎の友人は求めていないんだが。ん? そういえばリア充って現実リアルが充実している人のことを指す事であり、彼女がいるかどうかではなかった気がする。そうか、じゃあ男友達を作ってもリア充なのか。いいことに気づいた。


 「七峰 命。よろしく。命って呼んで」
 そういって、後ろなんだか前なんだかわからない彼の差し出した右手を握った。






 そんなこんなで昼休み。現在僕は三年生である百合姉の教室に向かっている。場所はまた柊さんに教えてもらった。琉斗から昼を一緒に食べないかと誘われたが先約があると断った。最初の昼くらいは野郎とではなく女の子と食べたいものだ。教室の前で一人三年の先輩が立っていたので確認してみる。


 「あの、ここって七峰先輩のクラスですか?」
 「ん? そうだが。呼べばいいか?」
 そう言って彼女は教室を覗きながら、


 「おーい、百合子。百合子に一年生が用があるんだってさー。しかも男子」
 すると、ええ!? という百合姉の声とおまっ、いつの間に一年生捕まえたんだよ! と、仲のよさそうな声が聞こえた。
 僕は先輩にお礼を言い、そのまま教室へと入って行く。いくつか視線が僕に刺さるがリア充とはそういう生き物であるのだ。いいんだ…これでいいんだ…。


 「みー君!?」
 百合姉が立ち上がり驚きの声を上げる。ふむ、これはラノベで見たアレをやってみるか。僕は弁当を顔の高さまで持ち上げ、


 「百合姉と一緒にお昼食べようと思って。邪魔だったかな?」
 そういいながら僕はえへへ、とこの三日間練習した笑顔を解き放った。ところどころから天使だ…という声がきこえる。こうかは、ばつぐんだ! 
 一人洗面所の鏡の前で練習したのだ。鏡に映る笑顔の自分を見て何こいつイテーなと思いつつ。最初はまるで悪の組織の幹部並みの邪悪な笑みしか浮かべる事しかできなかったが、練習の成果か百合姉の友人が顔を真っ赤にするまでになっている。フフフ、堕ちたな。

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