剣と魔法の輪廻譚

にぃずな

生きるべき貴女は。

シュナside

「………ナ、…シュナ………」
心地良い風と、太陽の優しい温もり。
もう聞けるはずのない懐かしい声がして、恐る恐る眼を開ける。
そこにいたのは。
「やっと起きた!もう、シュナったら膝枕するとすぐに寝ちゃうんだから」
「………あはは、すいません。______姫様」
薄桃色の短い髪を揺らして、可憐に笑う彼女に、思わず目をとられる。
いつまで経っても枯れることのない恋心には、我ながら溜め息がでる。
「もう、シュナったら、膝枕したらすーぐ寝ちゃうんだから!」
「う、すいません……」
「良いけどさ、気持ちいいんだろうし」
自然と頬が緩む、でも、一切心は休まらない。
(この会話、何度目だろう)
私は、この先を知っている、変えようのない、最終的な結末を。
何を言っても、変わらない、どうにかしようと錯誤しても、変わらないのだ。

「…………姫様。少し良いですか?」

「どうしたの?シュナ」
「手を貸してくれませんか?」
「良いよ、はい」
何も知らず、疑わず、すんなり手を出してくる姫様。
私は、この悪夢の終わらせ方を知っている、これが、この夢の中での一番の最善ハッピーエンドを。
姫様の手に触れて、気絶させるための術式を起動する。



「……っう!?シュ、ナ……っ?」




「すいません、姫様。こうするしか、無いんです」
どさりと、姫様が力無くもたれ掛かってくる。
確かな温もりと、微かな呼吸、規則的な鼓動。
こんなことを、何で私がしなければならないのだろうか。
夢の中であれど、私が、_____最愛の人を殺さなければならないなんて。
でも、私がしなければ、更に惨い死を迎えさせてしまう。
それなら。

「ごめんなさい、ごめん、なさい…っ」

私は、懺悔しながら剣を抜いた。
サブマリアに、毎度こんなことをさせるのは気が引けるし、何より私が辛い、けど。
「これが、姫様の為なのです」
そして、_________心臓に突き立てた。
姫様は身動き一つせず、何も言わずに、息を引き取った。
残されたのは、胸部を真紅に染めた亡骸と、生暖かい血溜まり、やり場のない喪失感だった。



「………はぁ、はぁ……っ」
(寝落ちして、こんな残酷な夢を見るなんて、あんまりじゃないか……)
夢から覚めても、殺した感覚が抜けない。
鮮やかな鮮血の感触と、じわじわと冷えていく亡骸の感覚が。
身体中脂汗でベットリして気持ち悪いし、吐き気もする。
________何度も思う、こんなやり方じゃなくても、どうにか出来るのではないかと、どこかで思ってはいる。
でも、それで失敗して、殺されてしまったらと思うと、嫌でしかたがなくて。
それなら、自ら終止符を打ってあげることが、姫様に与えれる唯一の慈悲だと、思っているから。


私は夢を見る度殺める、何度だって。泣かさないように、悲しませないように。


「っう、おえ……っ、ぅ、ぇ…っ」
手洗いに駆け込んで、胃の内容物を胃酸で喉を焼きながら吐き出す。
ミフユが起きてしまわないように、ひたすらに嗚咽を押し殺す。
涙で視界が酷く歪む。
「ごめんなさい、ごめんなさい…っ」
不意に漏れた言葉は、吐瀉物と共に流れていく。
残るのは、胃酸の不快感と、未だに脳に焼き付く愛おしき人の亡骸と。
変わることのない、姫様が死んだ現実だ。


嗚呼、生きるべき貴女は、どうして死ななければならなかったのか。
考えても、結論にたどり着くことはない。納得のいく結論など無い。
だから、私はずっと悪夢を見続け、この手で彼女を殺し続ける。
これ以上、別の死に方など、させてはならない。
生きる結末が存在しないのなら、それ以外の死はいらない。
だって、そうだろう。


_______彼女が、死んで良い理由など、有りはしないのだから。

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