剣と魔法の輪廻譚

にぃずな

《バッド=セイント》

「じゃあね、おちびちゃん、私はお仲間さんを仕留めてくるわ」
「ま、て」
「待つわけないでしょう」
軽快な足音を廊下に響かせながら、スピカは駆けていった。
体が思うように動かない、持ち上がらない。
私は、追いかけなければいけないのに。
「動け、動けよ……っ」
動けば動くほどに、体から血が抜けていく。
血溜まりが大きくなっていく。
(私は、所詮、こんなもん)
慢心なんてしていなかった、侮ってもいなかった。
単に、私がスピカに劣っていただけ、それだけ。
「何が、転生者だ、何が、強いだ」
普段、私はチートを持っているわけでもないのに、強いと調子に乗っていた。
そんなもの、あっさり砕かれて当然だ、きっと、その報いだ。
因果応報。
他者を普段侮っていたから、こうなった。
私のせいで………せいで、テルトが死ぬ……?
そんなこと、あって良いわけがない、あってはならない。
そんなの、絶対に、ダメ。
それなら、どうすれば?
弱者である私は、どうすれば勝てる?
「そんなこと、決まってる」
自分の身を滅ぼしてでも、感情の全てを失ってでも、全てを賭して___。

「殺す、まで」

だから。
「私に、もう一度、だけ」
誰かを救う、ちからを下さい。
願って、貰えないなら、掴み取るまでだけど。

テルトside

(ごめん、主___)

そう思って、目を閉じた。


____しかし、剣は振り下ろされなかった。


「また、あんた!?私の邪魔をしないで!!」
「は、しないわけ、ないでしょ?」
「ちっ、死に損ないがっ!!」
目の前には、血だらけの女と、___主。
「あ、るじ……?」
「テルト、もう、大丈夫」
女の剣を弾き、私の近に寄ってくる主。
そして、私は抱き寄せられた。
血の臭いと、少し漂う、異質な魔力。
それはやがて、竜巻のように渦巻き、私と主を包み込む。
「______《_______》」
すると、主が小声で何かを呟く。
それが魔法の詠唱であったことだけしかわからない。
(なんて……言ったんだ……ろう?)
そう思ったつかの間だった。

急速に集束し、変異していく魔力。
私の傷を急速に癒していく。

バサッと、重たい羽音。


舞い散る_______純白の羽と、黒い鱗。


主の頭には________白い羽飾りと、漆黒の巻き角。




「殺らせない、誰にも」



重く響く、壁に何度も反響しているような主の声。
普段の優しくて、覇気のある、でも、どこか普段と違う威厳を感じさせる声で。
曇りない、はっきりとした声で。


「守るんだ、今度こそ、私のちからで」

ミフユside

私は、重たい足取りで廊下を走り抜ける。
治癒している暇なんてない、ただ、今すぐ。
「待ってて、テルト……っ」
(今すぐ、早く、助けに行くから)
強くそう願っているのに、それとは真逆に、漏れる自分の声は弱々しい。
何度も転けそうになりながら駆け抜ける。
そして、ようやく。
(見つけた…っ!)
「テル……トっ!?」
見えた光景は、残酷なもので、痛々しい。
血肉、臓器の破片が道を描き、その先には___ぼろぼろになって膝をついているテルトと、今、目の前で命を取らんとするスピカの姿。
「っ!?」
無言の雄叫びを吐き出して、刹那の瞬間を駆ける。
白銀剣を振り抜く。
そして、スピカの振るった剣を、寸前で受け止めた。
「また、あんた!?私の邪魔をしないで!!」
その言葉に絞り出すように返答する。
「は、しないわけ、ないでしょ?」
「ちっ、死に損ないがっ!!」
そんな私の台詞に苛立ったスピカが舌打ちしながら、さらに力を込めてくる。
それに頑張って耐え、弾き返す。
「あ、るじ…?」
掠れた声を漏らすテルトの方に駆け寄り、声をかける。
「テルト、もう、大丈夫」
そして、半ば強引にテルトを抱き寄せる。
何故か、私の中に異質な魔力が渦巻き始める。
不快なものではない、微かに熱を持ったもので。
その魔力は私とテルトの周囲を包み、渦巻く。
(何でだろう、今なら、出来る、気がする)
全く知らない魔法の詠唱が脳裏に弾ける。
知らない、でも、知ってる。
この魔法は、きっと自分を少しだけでも滅ぼしてしまうだろう。
でも、そんなこと、どうでもいい。
今、テルトのことを守れる力ならば、何であってもいい。
その、脳裏に弾けた詠唱を、噛み締めるように唱える。
決意を込めて、力を込めて。





「_______《愚者の神聖バッド=セイント》」






背中を異質な二つの魔力が駆け抜け、迸る。
頭が焼けるように熱くなる。
しかし、体内に確かな力が漲る。


(これなら、いける)


私は、手の平に魔力を集束させる。
その魔力は剣となり、盾となり、治癒ヒールとなる。
私は、確かな決意を込めて、言葉を紡ぐ。
強がりでもない、侮りでもない。
自分の全てを出しきるための、戒めの鎖であり誓いの言葉を。





「殺らせない、誰にも」








「今度こそ、守るんだ、私のちからで」

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