剣と魔法の輪廻譚

にぃずな

盾を貫く悪魔の手

「死ねぇぇえええええええっ!!《幼を蝕む蛇毒ヴェノミネーナ》アアアアァァ!!」
物騒な台詞を叫びながら、毒で形作られた蛇を放ってくる。
「宣言通り、超低火力で捩じ伏せるっ!《フレイム》!」
一般からすれば、少しの火傷を負わせるぐらい、弱魔法。
しかし、この程度の魔法でもで魔力調整、精度、放出速度を意識するだけでも、上級魔法《ヘルフレイム》と同等か、それ以上の火力を出せる。
毒蛇を貫き、盾の人にまで魔法は及ぶ。
「なっ……ぐ、ぬぅ……!」
(流石に防がれるか、けど)
《ソニックファイア》
無言の追撃。
火力は、中級魔法《フレイムランス》を勝り、速度は、音速にまで至る。
「はやっ…がっ!?」
衝撃が盾を突き抜け、大きくノックバックさせる。
壁に激突するも、壁がが砕けるほどの威力はなかったようだ。
更に追い撃ちをかける。
《アクアスラッシュ》
水刃が空を駆ける。
「こんなところで、負けれるかよぉ!!《神光の四ツ葉ディオライト=クローヴァー》ッ!!!」
《エアロ》
空砲が水刃を追い越し、四ツ葉の盾に直撃する。
盾は呆気なく壊れ、衝撃が盾を突き抜ける。
風圧に負け、パリィする。
水刃が腹部を一線する。
「づぁ″……ッ!?」
鮮血が滲む。
苦しそうにしながらも、盾の人は此方を睨み付けてくる。
「ふざげんな″……何が、最低火力だぁ……!!」
「残念な話するけど、今の魔法で減った魔力はね……」
聞いただけではハッタリじみている宣言。
しかし、相手からしたらそれは、絶望を僅かであれど感じさせる宣言だ。
「1割、いや、0.1も減ってないんだよねぇ」
盾の人は、目を見開きながらも、どうにか反発してきた。
「はぁ!?んなの、ハッタリだろぉ!そうじゃなきゃ、あんな火力だせるか…」
「あれは、全部初級魔法。《フレイム》《ソニックファイア》《アクアスラッシュ》《エアロ》だよ」
「はぁ!?そんなわけないだろうが!嘘つくんじゃねぇ……!」
「それなら、証明しなよ。あれが初級魔法じゃないってね」
「ぐっ、それ、は……」
下を向き、無言になっている。
神光の四ツ葉ディオライト=クローヴァー》を初級魔法で破れた理由は、四ツ葉の中心の接点を狙って《エアロ》を直撃させたからだ。
「づっ、負けれるかよ…、負けてたまるかぁぁ!!俺はぁ、勇者なんだぞぉ!!こンナん……でぇ……やらレ、テェ………」
(……様子が…)
盾の人から多大な魔力が漏れている。
それも、あのときの違和感の原因。
「『タマルカヨオオオオオォォォォッ!!!!』」
どす黒い霧が周囲を包み始める。
「『《殺戮の悪魔ジェノサイド=デヴィル》ゥゥゥゥ!!!』」
殺戮の悪魔ジェノサイド=デヴィル》とは、悪魔と契約したものが使える、己の体の自由を明け渡す魔法で合図のようなものだ。
魔力源は、契約者本人と悪魔で融合していて、身体能力は本人の限界を超えても上昇させることが出来る。
壊れる前に解除しなければならないが、解除するには、悪魔本体を撃破しなければいけない。
幸い、契約者は盾の人だ。
まぁまぁはもつだろう。
それでも僅かなタイムリミットを無駄にするわけにはいかない。
コロス…ゼッタイニィ……ッ!!「死にたくない……っ、誰か…助けて…くれぇ……」
殺意と悲鳴が聞こえてくる。
(正直、他人事だから殺しても良いんだけど…)
「多創…ッ!」
「盾…さん…!」
「……盾」
(不覚にも……)
他の勇者が気の毒に感じてしまった。
(なら、尚更)
現実の苦さ、理不尽さを、周囲にも、勇者だって、人であるから、まだ未熟で弱いことを周知させてやる。
「…………後は私がやるので、皆は避難を」
「ミフユ!?何を言っている…っ!?」
「安心してください、ハルマ先生。別に殺しはしませんから」
《ブレード》
「っ!?何だ、あの魔法は…」
すっかり忘れてたけど、まぁいい。
新しい魔法とか言って、誤魔化せば良いだけだし。
「《連創》」
《ブレード》が一本から二本、二本から四本と増えていく。
無数の剣は、空を踊るように舞い、悪魔へと迫る。
シネェェェェェェェッ!!「死にたくない…死にたくない…っ!!」
魔力の収束。
本体が顔を出す。
『「《ヘル=プロミネンス》ッ!!」』
《ブレード》が次々に薙ぎ払われていく。
破片が、光を反射し輝く。
(今だ)
私の転生8回目で磨かれた、我流抜刀術。
「_______《時突抜刀じとつばっとう=天跳あまとび》!」
速度は音速に達し、刃が歪んで見える。
ジェット機のような、ソニックブームが発生する。
《ヘル=プロミネンス》を完全に消滅させ、斬撃は悪魔まで到達する。
『コンナモンカト、オモウカァ?《ヘル=サイクロン》《ヘル=プラズマ》《エクリプス=プロミネンス》ァ!!』
(威力は、中級二つに、上級一つか)
この世界の常識なら、中級と上級を連続で放つには、そこそこな魔力量と技量が必要となるらしい。
(【悪魔の心臓】ねぇ……)
【悪魔の心臓】は、莫大な魔力を貯蔵し、ほぼオールタイムで魔力を生成し続けられる。
その上、《同時発動シンクロモーション》があるため、ああいうことが簡単に出来る。
それを、私は我流で潰す。
「《時突抜刀=昇刃しょうじん》!」
この世界で言う、中級剣術の《アッパースラッシュ》に近いモーションだが、威力は桁違い。
あっちが大木を両断なら、こっちは地を裂き、鉄を易々と断つ。
《ヘル=サイクロン》と《ヘル=プラズマ》を相殺する。
「次《時突抜刀=乱刀龍斬らんとうたつぎり》」
元の技なら、龍をも容易く斬れたが、かなり威力が落ちていた。
因みに、【時突抜刀術】は使用する魔力が違うから、威力に多少の差がある。
(それでも大分再現したんだけどなぁ…)
《エクリプス=プロミネンス》の勢いはある程度殺せたが。
『カカッ、ソンナモンカァ!ソノママヤケシネェェェッ!!』
(流石に、なめて掛かりすぎたか…)
何故なら。
「私はまだ、一割しか力をだしてない」
『ナニィ…?』
「言葉の通りだよ、《時突抜刀=_______」
息を深く吸い、鋭く斬り上げる。
「___月斬陽炎つきぎりかげろう》……っ!!」
(一割がダメなら、二割にするまで)
放たれた斬擊は、白銀の軌道を描く。
斬擊は歪み、本刃を捉えることが出来ない程だ。
『ガァ………ッ!!』
悪魔に直撃し、黒い血を吐き出す。
『クソッタレガァァァァァァッ!《ヘル=プロミネンス》!!』
放たれた獄炎は乱れていて、今にも散りそうである。
「自棄になって放った攻撃が通用すると思う?《時突抜刀=刃桜乱舞はおうらんぶ》」
桜の刃が宙を舞う。
炎は呆気なく散る。
刃は収束していき、悪魔へと迫る。
『ガァ……ッ!』
悪魔の本体が木端微塵になり、空気に溶ける。
盾の人の肉体は、力無く倒れる。
静かに剣を仕舞う。
「ふぅ、これで良し」
《スペルブレイク》
盾の人へ近づき、契約紋を消す。
「「「…………………」」」
勇者の人達が絶句しているが、まぁいいや。
「ミフユ、お前は一体……」
ハルマ先生が、少し恐れながら聞いてくる。
返事に迷うことなんて無い。
「一体って、ただの生徒ですよ」
そう、笑顔で応えた。


別に、転生者と応えても、大した事はないと思う。
でも、言ってしまえば今が僅かであれど変化してしまうと思う。
私は称えられたい訳じゃない。
普通に過ごしたいだけなのだから。
明かすのはいつか。
それまでは。
_______今の日常幸せを感じていたい。

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