翼を灼かれたイカロス

Amenbo

2話 衝突

〜アダマンテ帝国 国境付近上空〜

    その日の天気は快晴、風もほぼなく体調も万全だった。仲間の先鋭たちも、いくつかの小隊に分かれ、快速にスピードを上げて戦地へと向かっていた。


しかし、あと少しで国境にさしかかろうとしたところでいきなり味方から通信が入った。


「…ハーデ…ザッザ…が…ザーッ…ツーー…」

「んん?どうした!何があったんだ!」

レインは通信デバイスを手に取り、説明を求めた。

「ザッ…逃げ…ッツーーー」

その時前方に、一瞬黒い機体が見えた。

一機、二機、いや、もっとたくさんいる。太陽の光を受けて黒く照り輝く禍々しい飛行艇…何度も戦闘を行ってきたレインには、見覚えがある。

「まさか!嘘だろ!ハーデルファムの艦隊か!?やつらの中にも俺たちと同じような部隊があるっているのか!!」

そして、その黒の機体群は、一直線にレインたちのもとに突っ込んでくる。普通なら距離をとってミサイルなどを用いた戦闘となる。しかし、先方にそのつもりはないようだ。

「なんだこいつら!なんで兵装を使わないんだ!これじゃ、これじゃまるで人間ミサイルじゃないか!!」

次の瞬間、焦るレインの目の前に黒の機体が迫っていた。

「くそ!オーラ障壁展開!間に合え!!!」

しかし、レインの努力もむなしく2つの機体は空中で激突し……空はまばゆい光で包まれた。

だが、その光は機体の爆発によるもほではなかった。当時のパイロットたちは皆、口を揃えてその時のことをこう語った。

「空が裂けたんだ」
 
その時、空に浮かんでいた飛行艇は1つ残らず撃墜されていた。
正しくは、なぜだかはわからないがひとりでに落ちていったのだという。

そして、レインの飛行艇も激突した敵国の飛行艇も地上に堕ちた。
くるくると旋回しながら、煙は尾を引き、やがて墜落した。

墜落した地点は帝国の東部の密林だった。
蓄積された機体の熱と爆発によって地上の森林は燃え盛っていたが、レインは激突の衝撃で気を失っていただけらしく、なんとか一命をとりとめていた。

「…んぐっ!悪運だけは強いみたいだな僕は…。にしても酷いざまだ…。」

レインの乗っていた飛行艇はバラバラに砕け散り燃えていた。
全身は多くの火傷と裂傷があったが、それでも生きていたのは奇跡と言えるだろう。

「オーラの障壁がギリギリ間に合ったってところか…。とりあえず、本部に連絡を…」



その時飛行艇の近くに人影があった。

その人影は凄まじい速度でレインに迫り、ナイフをレインの首筋にあてがった。

「くくく!アダマンテ帝国の兵士め、生きていたか!悪運の強いやつだ!」

「ぐっ…!」

顔に大きな傷のある、目つきの悪い黒髪の青年だった。
彼自身もかなりの深手を負っているようで、息も絶え絶えだ。

「俺は名はシステォ。ハーデルファムのシステォ・ネメシスだ。さて、あんたの名前はなんだ?」

システォは不気味に歪んだ笑顔で尋ねる。
すべてのものを偽物でツギハギにしたようなそんな人工的な笑顔だった。

「…レイン、スタフォード…」

周りの状況を確認しながらゆっくりと答えた。
周りは一面燃え盛る木々だ。
あまり長居すれば二人とも死にかねない…どうすれば逃げ切れるか…

「くくく…そーかそーか。んじゃレインさんよ?死にたくないなら今からする質問に答えろ。」

システォという青年は顔は笑っているように見せているが、ナイフを突きつける手は一切緩んでいない。
そしてその真っ黒な目はまるで、深淵のようだった。

「“扉”が開いた原因は、お前らか??」

「は?扉?」

レインはすっとんきょうな声を上げる。

「扉って、飛行艇の?」

「すっとぼけんじゃねぇ!じゃなきゃなんでてめぇだけまだ《オーラ》を纏ってるのに俺の《オーラ》は消失してんだ!!説明がつかねぇだろ!」

システォは唾を散らしながらレインにわけのわからない怒りの矛先を向けている。

「《オーラ》が使えない?どうゆうことだ!?それに扉ってのはなんだ?お前は、ハーデルファムは、一体何を知ってるんだ!」

全く意味のわからない単語と事実にレインは混乱していた。
《オーラ》が消える…そんなはずはない。《オーラ》は人々が生まれた時から存在する不滅の、力…

そういえば、あれ?《オーラ》ってのは、いつ、どのタイミングで人類に発現したんだ…?

「質問してんのはこっちだ!立場を忘れてんじゃねぇぞマヌケ!」

青年は一層強くナイフを突きつけた。レインの首から一筋の血が流れる。

「……お前、本当に何もしらねぇのか?嘘だろ?“扉”が開いたせいで、おそらくだが、光に飲まれた俺たちも、そして今も戦っている同胞も、国民も!皆オーラを失ってるんだよ!答えろ!なぜ今日なんだ!」

もはやシステォは絶叫と言っていい喋り方だった。

「ちょっと待ってくれ!だからなんでだ!なんでそう言い切れる!それに、それならなんで僕には《オーラ》が使えるんだ!?」


「俺も詳しいことはしらねぇよ!だが、俺から《オーラ》が消えちまってるのは確かだし、どのデバイスも使えねぇ。それに、光を浴びた他の飛空挺の奴らが全員墜落してくのを見たんだよ!真っ逆さまにな!」


「光?なんだそれは!僕はそんなもの見てないぞ!嘘をつくな!」

仲間が全員墜落だ?
もし搭乗している時に、仮にいきなり《オーラ》が使えなくなったら…
きっと真っ逆さまだ。そんなの、みんな即死に決まっている…
けど、そんなこと…ありえないだろう?

「なるほど……そういうことか。お前らはなんも知らなかったんだな…気の毒に。そして、なんの偶然かしらねぇが、お前だけは光の影響を受けなかった、てわけだ。よし!ご苦労レインくん!何も知らないなら、もういい。お前は用済みだ」

青年の瞳は黒く光り、ニヤリと笑った。口からは不気味なほどに白い歯が見えた。

「待て!やめろ!!!!」

レインは《オーラ》を右腕に集中させた。

訓練の成果を出す時だ。

腕に刃を形成して牽制、距離を取る!そこから、一騎打ちだ!






(((ドカン!!)))






背後の機体が鈍い音とともに、赤と黄色の閃光を放ちながら爆発した。



「クソ!機体内にオーラがまだ残ってたのか!」


システォと名乗った青年は爆風に煽られ、数メートル飛び、森林の大木に体を打ち付けられて動かなくなった。

レインも、その灼熱に身を焼かれ、爆風とともに飛散した数多の破片がその体につき刺さった。

「んぐぁぁぁ!!目に!目に破片が!!」

機体の鋭利な部品がレインの両目に深々と刺さったのだ。

「あぁあああぁぁぁあぁぁぁあぁぁ!!!!がぐぁああぁあぁぁぁああ!!!!」

目はパイロットにとって命だ。しかし、この破片は深々と刺さっている。もはや痛みで単純な思考もできないでいた。

不幸なことに、現状、逃げ出すことも不可能となってしまった。



そして、痛みに悶えながら苦しむレインは、いつしかまた気を失い、死へと近づいていった。



「父さん…母さん…仇は取れなかった…ごめん、ごめん…よ…」









気絶した彼の内側で燃える《オーラ》の炎達は、次第にねじれるように混ざり、色を鮮やかに変えながらそのうち全身を覆った。














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