翼を灼かれたイカロス

Amenbo

プロローグ〜終わりで始まり〜


     機体の操縦席はいつもひんやりとしていて、静かだった。
備え付けられた黒い革張りの座席に座って操縦桿を握っていると、なんだか不思議と気分が穏やかになる。

「やっぱり、ここだけが僕の居場所なんだ」
自分自身に言い聞かせるよう、そうにつぶやいた。

その時は、機体に搭乗してからと言うもの変に感覚が研ぎ澄まされていたのを覚えている。
  
  しかしその日、僕の、いや、僕らの機体は、一機残らず墜落した。

そして二度と、僕はその操縦席に座ることはなかった。




ーー人類が神々すら滅ぼした、とされるこの世界では、ほとんどの人々は皆、ある特殊な力を持っていた。
その力の名は《オーラ》
この世界における、人々の基本ステータスとなる能力である。

それは人体を薄い膜のような状態で覆っており、ほとんどの場合、肉眼では見えないほど微弱なものとされていて、かつては特に何の意味もない力であると思われていた。
 

しかしある時、ひょんなことから、《オーラ》の操作を応用することで様々なデバイスを容易に動すことができるという技術が生まれた。


この改革によって人々は「発電」や「燃料」、「肉体労働」などと言う前時代的ものを、ほとんど必要としなくなっていた。

こうして、乗り物の運転や、書籍、通信、物品の売り買いから何から何まで、人々はこの技術に頼りきりになってしまったのだ。

 しかし…これほど便利な《オーラ》ではあるが、やはり力には差が生じてしまっていた。
才能に富むものもいれば、その逆も然り。世の常である。
     
    《オーラ》の量や質、扱いに富むもの達は、政府から優遇され、生まれた瞬間から将来を約束される。
反対に、《オーラ》が貧弱なもの達はいかなるデバイス機能の恩恵も受けられない。すなわち、役立たずのレッテルを貼られ、差別され、蔑まれるのだ。


無力なもの達は誰にも気付かれず泥水をすすって死んでゆく。人生に絶望した彼らは何を望むでもなく、ただ涙を飲んでそう自分に言い聞かせていた。

そう、この日までは。



ーその日、空が裂けた。

裂け目からまばゆい光があふれ出し村を、街を、国を、大陸を、包み込んだ。

その日は、ある2つの大国が存亡をかけた大戦争の真っ只中だった。

 《オーラ》によって動く機兵や戦車は鉄くずと化した。
空を駆ける飛空挺はすべてが地に堕ちた。

いかなる技術も0に還った。すべてが無意味に、無慈悲に、平等な光に灼かれた。

そして…戦争は終わった。







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