前世をめぐる物語

ノベルバユーザー271935

第1話 冒険の始まり

 視界がぼやけている。視点もぶれているのがわかる。
 そう思いながらふらふらしつつ、額の汗を拭い、砂漠を彷徨っているのは、たれた黒髪が特徴の青年エースである。


 彼はかれこれ2日間も砂漠を彷徨っていた。持ってきていた水は遠くの前になくなり、なんとか生き続けていた水分の多い食糧もついに切れた。要するに絶望的な状況である。


 そんな中、さらに追い打ちをかけるように、目の前から迫ってきているのは巨大なサソリではないか。いくら疲れ切っていても目の前から明らかな殺意を持ったサソリが迫ってきていたら本能が働き逃げ出すものだ。


 エースは一気に意識を覚醒し、振り返ると大声を出しながら一目散に逃げ出した。


 「ウォォォーーーーー!!」すべての力を振り絞り全力で逃げるエース。そんなエースを食糧とでも思ったのかサソリの目がキラーンと光った気がしたかと思うと、ズドドドッ!と足音が一際大きくなった気がした。


 迫ってくる足音に死を感じながら、エースは心の中で「どうして俺がこんな目に…」と思いながら必死に走る。走りに走った。


 そして…目の前から砂漠の風景が消えた。


 否、エースが急にできた巨大な穴に落ちたのだ。エースが状況を把握した時にはすでに、いや、落ちた瞬間からもう遅かった。


 「ウワァァーーー!?」


 叫びを上げながら落ちるエース。砂漠をさすらう人のようにと思って買ったマントがバタバタバタッ!と音を立てながら、その中で灼熱の太陽のある空を見ながらエースは再び、「どうして俺が…」と小さな声でつぶやいた。




ーーー時は数ヶ月前に遡るーーーーー
 少し開いたカーテンの隙間から覗く太陽がベッドで寝ている青年を照らす。まぶしさに少しうめきながら、むくりと体を起こして大きな伸びをした。乱れた黒髪をポリポリと搔きながらベッドを降りてカーテンを勢いよく開いた。


 目前に広がる村の景色と空は素晴らしいほど平和を象徴していた。うん、今日もいつも通りの朝だ。と思いながら、ゆっくりと階段に向かって降りていった。


 階段降りてすぐ左を見ると食卓のイスの一つでウトウトしている老人はおじいちゃんだ。そんなおじいちゃんとは逆に忙しそうに台所で家事をしているおばあちゃんだ。


 おばあちゃんはエースに気がつくと「おはようエース。早く顔洗ってきな。ご飯はもうできてるよ。」というと食卓に朝ごはんを並べている。エースは「おはよう。」と返すと顔を洗いに洗面所に向かった。顔を洗っていると鳥のさえずりがピピッと聞こえてきた。本当に平和である。


 顔を洗って食卓に戻るとじいちゃんが起きていた。「おはよう。」と言うと、おじいちゃんはプルプルと弱々しく震える手を上げながら、「おっ…はっ…ょぅ」と弱々しく返事をした。
 じいちゃんはとても体が弱い、といっても昔は外で駆け回る普通の子で病気というわけでもない。単に年なのである。ばあちゃんと同じ70歳代にしてはとても弱々しいいつも死んでるのか?と心配しているがこれが普通の状態らしい。


 俺もじいちゃんの隣に座り朝食を食べ始めた。ウインナーのようなもの。目玉焼き、フランスパンもどきと普通のものである。
 それらを速攻で平らげ、今日も仕事に行く。この村はみんなで協力し合って生活していて木の伐採の仕事を定期的に回している。今は俺の当番だ。


 玄関の斧を持って「行ってきます。」と一言言って扉を開けると涼しいそよ風が吹いた。そんな普通の変わらない毎日を送っているような俺だが一つ誰にも話していない秘密がある。


 それは…俺が…前世の記憶を持っていることだ。
 今でも覚えている。ふと目を開けると大人たちがたっていてあり得ないことに高校生ぐらいの俺の体を持ち上げたのだ。
 俺は心底びっくりして、「なぬ?こやつら化け物かっ!?」と思っていた。少し落ち着いて話そうにも思うとおりに声が出せず
 「あー。」とか「う゛ー。」とかしかいえず、少し不安に思った。もしかしたら何か病気になってしまったのか、としかしその考えはすぐに吹き飛ばされた。


 「ありがとうエース。私の元に生まれてくれて。」そんな優しい言葉が俺にかけられた。ものすごく優しい女性の言葉で本能的にそれが母親の声だとわかった。


 それと同時に俺は赤ちゃんになったんだと理解した。
 正直すごく驚いたし、混乱した。しかし、その優しい言葉で感謝の言葉をかけられると自然と落ち着いていった。そしてそのまま意識を閉ざした。


 そして次に目を覚ましたときにはすでに3歳になっていた。一瞬タイムスリップか?とかあのまま昏睡状態だったのかと思ったがそういうわけでもなく、今このときから物心についたようだった。こんな感じなんだ。と不思議に思っていると家に母親がいないことに気づいた。父親もだ。5歳になって言葉を理解して話せるようになったから、おばあちゃんに聞いてみると、両親は、俺が物心つく前に事故で亡くなったらしく、おじいちゃんとおばあちゃんが育てていると伝えられた。(実際には5歳児にわかるように、また気遣うように天国に行ったとか、遠いところに行ったなどオブラートに包んでいた。)


 全く話もしなかったし、そもそも俺を生んでくれた親は元々いたわけで、特に悲しくなるとかはなかったが少し残念ではあった。


 そして10歳なったある日、俺はあることに気づいた。今まで気づかなかったのがばかなくらいのことを…


 前世の記憶はあるとわかるがそれが全く思い出せないのだ。
 つまり、前世の記憶があるとはわかるがその内容が全く思い出せないのだ。地名はおろか自分の元の名前さえも。さすがに不思議で仕方なかった。思えば生まれた直後自我があったのにその後3歳まで自我がなかったというのも不思議な話だ。


 まぁ焦ってもしかたないかと思い、そもそも生まれ変わりが特別なんだから不思議に決まってると思うことにして気にしないようにした。そうして今までこの世界で生きてきた。


 あと、この世界には、魔法がある。初めて見せてもらったのがおばあちゃんの人形を動かす魔法だ。最初は手品かなんかだろうと思っていたが、なんとおばあちゃんがほかの部屋に行って、その後寝るまでずっと踊りを踊っていたのだ。さらに極めつけは、おなじみの空飛ぶほうきだ魔女の◯急便のように空をとびながら荷物を届けているのだから驚きだ。そして魔法があると知ってとてもわくわくした。それとともに前世はオタクの類だったのか?とか思いながら、いつか魔法を使おうと思った。


 そうやっていろんなことを思い出しているうちに、村の出入り口に到着した。門番のトニーが「最近魔物が増えてるみたいだから気をつけろよ。」と忠告をくれた。俺は「ありがとう。」と言いながら村の外に出た。


 ちなみに基本的に魔物が村に入ってくることはない。何でも国の方針ですべての市町村には魔物よけの結界が張ってあるのだとか、いやはやこれまたたいそうなことである。


 魔物といってもこの俺の住むジェネ村の付近には弱い魔物しか出て来ず、それもどいつもこいつもペットにできるほどだ。かといって余裕は禁物だが。


 などと思いながら、ちょうどいい感じの木を見つけ、早速伐採に取りかかった。村の奴らは小さい頃から薪を割ったり伐採を手伝ったりで全員力が強い俺も例外ではなくある程度の木なら一人でも十分だ。


 そうして木を切っていくこと数時間そろそろもどるかと思ったときふと祠のことが思い至った。


 祠とはジェネ村に伝わる伝説で何でも大昔の伝説の勇者が剣を封印したとか、してないとか…いろんな噂が立っている。一応神社のようなもので参詣に来る人も居るので俺もせっかくだし、と思い祠に向かった。祠に向かって歩いていくと川が流れているその川で手でも洗うかと近づいていくと川の近くに誰か倒れているのが見えた。


 「ん?」と不思議になって近づき声をかけた。


 「あのー大丈夫ですかー。」よく見てみると女性で少し泥などで汚れてはいるがきれいな白髪だった。顔も整っていて吸い込まれそうな魅力があった。


 頭を腕で抱えて軽く頭をたたくと「んっ。」とうめき声を上げるとうっすらと目を開いた。きれいな黄金の瞳。目があった瞬間その瞳と目が合い思わず見とれていると、女が「逃げ…て…っ」と苦しそうに言った。思わず「え?」と答えたのと魔物が飛び出してきたのは同時だった。


 

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