前世をめぐる物語

ノベルバユーザー271935

第3話 シーカ

 洞窟内にシーンと沈黙が漂う。ついさっきまで死闘を繰り広げていたとは思えない程だ。そんな中女性が声をかけてきた。


 「ありがとう。助かったわ」


 それだけ。エースは「エエーッ!、なんかあっさりしすぎじゃね?あんたの訳の分からん要求にのって、しかも一人で戦って助けて。それでそれだけかよ。さっき戦闘中めっちゃハキハキしてたじゃねえかー」と心の中で盛大につっこんだ。


 しかし、心の声が聞こえたのか女性はこちらをジト目でにらんでいる。エースは一瞬、あいつ、心でも読めるのか?と思ったが次の瞬間、エースを纏っていた赤いオーラが消える。それと同時に激しい倦怠感が襲ってきた。思わず座り込むエース。


 ドサッと音のする方を見ると、女性も倒れていた。エースは少し驚いたが、しっかり呼吸はしているようで、体が呼吸に合わせて動いている。恐らく戦いの緊張で疲れていたんだろう。ほっとして、「少し休憩かな」と思ったその時…


 ゴゴゴゴッ!とすさまじい音とともに帰りの通路の道が岩で埋もれてしまった。砂煙が少し舞う。
 エースは「やばい」と思った。木を切るぐらいは分けないが、さすがにあの岩を動かすことはできない。外からの助けを待ってもいいがこの祠は森の奥にある上に、年に4回ある祭りの時ぐらいしか人が通らない。


 エースは必死に考えた。「俺を心配した村の人がさがしに来てくれる可能性はあるが今はまだ早朝だし夕方くらいまでは『どっかほっつき歩いてんだろ』とか思って来なさそう出し、そもそも来たところであの岩をどかせるかどうか、あーあ、絶望的だなぁ」と諦めかけたそのとき、急に意識が遠のいていく。「なんだ。くそ」と思ったときには、完全に意識飛んでいた。


 目を覚ますとそこは砂漠だった。エースは一瞬なぜ?と思ったがすぐに思い出した。
 そういえば、今は放浪の旅の途中だった。ついさっき砂漠の町ガロンで旅人っぽいマントを買って、砂漠に入ってそれから……。
 少し記憶があいまいなものの、そんなことは気にせず歩くエース。
 もう結構歩いているのだろう。周りは見渡すばかりの砂漠で方位もしっかりしない、それなのにまっすぐあるく。


 生来、「なるようになる」がモットーであるエースはとても気楽な奴だった。


 しかし、砂漠の中、さすがに限界が近づいてきた。


 視界がぼやけている。視点もぶれているのがわかる。
 そう思いながらふらふらしつつ、額の汗を拭う。


 今日で砂漠を歩いて2日目だ。。持ってきていた水は遠くの前になくなり、なんとか生き続けていた水分の多い食糧もついに切れた。要するに絶望的な状況である。


 そんな中、さらに追い打ちをかけるように、目の前から迫ってきているのは巨大なサソリではないか。いくら疲れ切っていても目の前から明らかな殺意を持ったサソリが迫ってきていたら本能が働き逃げ出すものだ。


 エースは一気に意識を覚醒し、振り返ると大声を出しながら一目散に逃げ出した。


 「ウォォォーーーーー!!」すべての力を振り絞り全力で逃げるエース。そんなエースを食糧とでも思ったのかサソリの目がキラーンと光った気がしたかと思うと、ズドドドッ!と足音が一際大きくなった気がした。


 迫ってくる足音に死を感じながら、エースは心の中で「どうして俺がこんな目に…」と思いながら必死に走る。走りに走った。


 そして…目の前から砂漠の風景が消えた。


 否、エースが急にできた巨大な穴に落ちたのだ。エースが状況を把握した時にはすでに、いや、落ちた瞬間からもう遅かった。


 「ウワァァーーー!?」


 叫びを上げながら落ちるエース。砂漠をさすらう人のようにと思って買ったマントがバタバタバタッ!と音を立てながら、その中で灼熱の太陽のある空を見ながらエースは再び、「どうして俺が…」と小さな声でつぶやいた。


 「どうして俺がー!!」そんなことを叫びながら起き上がるエース。周りを見渡すと祠の洞窟の前だ。いつの間にか外に出てきていたらしい。
 先ほどまでの恐ろしいことが夢だったのかと少しほっとする。
 空を見る限り時間はあまりたっていないようだ。少し寝ていた間に倦怠感もなくなっていた。そういえば……と思い周りを見渡すと少し離れた川のそばで女性が倒れていた。すぐに駆け寄って揺すってみたり声をかけたりするが反応がない。まだ熟睡中のようだ。


 とりあえず、女性をおいていくこともできず、何とかおんぶをすると村に向かって歩き始める。その道中でいろんなことを考えていた。
 「そういえば急に出てきたあの剣、赤いオーラとともに消えていたな。剣を持つ前のあの謎の声もわからないし、そもそも何でこの女性はあそこで倒れていて、直後にあんな魔物が出てきたんだ?この近くにはあんな強い魔物は生息していないしゴブリン自体もっと大陸の中央に行かないといないはずだ。まぁ、ごちゃごちゃ考えてもしかたないし、とりあえずこの女性が起きてからいろいろ聞いてみるか。それにしてもあの魔物を一瞬で倒す俺って、実は最強?」なんてことを考えていると、村が見えてきた。


 村に近づいていくとこちらに気づいたのかトニーが近づいてきて言った。


 「おう、遅かったなエー……ってええっ!お前誰だよその子」


 まぁそうなるよな、とかおもいつつエースは「詳しいことは後だとりあえずベッドまで運びたいんだ。手伝ってくれ」
 そう言うと、トニーは「わかった。とりあえず一番近いアンの家に寝かさせてもらおう。確か部屋が一つ余っていたはずだ」そう言うとすぐにかけだして近くにある民家のドアを勢いよくたたいている。
 すると「うるさいわねーいったい何なのよ。トニー」と言いながら、中から赤いロングヘアーの女が出てきた。すぐにトニーが説明する。すると「事情は分かったはとりあえず入りなさい」といわれ、ついていくとそのまま寝室まで通された。


 「ここは父さん部屋で今は誰も使っていないから」ベッドを軽く整えながら、そう言った。
 エースはそっとおんぶしていた女性をベッドに寝かせると、アンに言われてリビングに行くことになった。食卓に4つある椅子にそれぞれ腰をかけると、「さて、何があったのかしら」とアンに説明を促された。
 エースは木の伐採中に女性を見つけ、その後魔物に襲われて不思議な力で撃退したことを伝えた。


 アンは「なるほど」とつぶやく。次はトニーが聞いてきた。
 「このあたりでゴブリンが出たのかそれも特殊な奴か。他には何かなかったのか?」
 エースは剣と謎の声のことを伝えると、ふたりとも知らないという風に首をかしげている。」そのとき、「あのー、」と声が聞こえて来た。3人はびくりとして声の方を向くと寝かした女性がいた。
 アンが「あら、起きたのね。少し待っていてちょうだい」と言うと四人分のお茶を用意して持ってきた。「さぁ座って」とアンが女性に言うと女性はゆっくり座った。そしてアンが話し掛けた。


 「私はアンここはジェネ村よ。混乱しているかもしれないけどあなたの名前を教えてくれない?」とクラスのぼっちの子に話しかけるように言うと、女性は、
 「私の……名前……」と呟くと「わか…らない」と答える。


 俺たちは驚きに顔を見合わせた。まさかの記憶喪失かどうするよと目で会話していると、女性が、


 「名前…わかんないけど……私は故郷で祠の守りをしていた…」と答えた。エースは考えた。
 「祠って言ったらついさっき行った他にもあと6つある『世界の祠』のことだよな。ってことは故郷の場所はある程度わかるが……」そのときアンが言った。「とりあえずあなたの正体は分からないけど敵ではないと分かったわ。でも名前がないと不便ねぇ」と言ってなにやら考え出していきなり「シーカ」と呟いた。
 「シーカ。それがあなたの名前。どお?思い出すまでの暫定ってことで」またこいつは勝手に何を、とエースが思っていると女性は、


 「シーカ……うん、嬉しい……ありがとう」と受け入れた。
 それでいいのかよ、と心の中で突っ込みながら、まぁ嬉しそうだしいいか、とエースは「じゃあよろしくな、シーカ」と言うと
 シーカも「……よろしく」と言って返事を返した。





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