住む世界の違うみんなへ
どえらいことになりました
血まみれの少年は俊を睨みながら、新たな矢を構える。
「ちょちょ、ちょっと待って!  俺は何も関係なくて----」
「消えろ!」
だが、彼が今まさに矢を放とうとした瞬間、弓の弦が鈍い音と共に切れた。
「はあ……はあ……はあ……」
「あ、あの……信じてもらえないと思うけど、まず、俺は本当無関係の人間で、何というか、その〜……」
少年の攻撃手段が無くなったので、俊は必死に身の潔白を主張する。
だが、異世界転生など信じてくれるわけがない。だからといって、今の自分をどう説明すればいいか分からず、言葉が全く繋がらなかった。
「たまたま流れ着いちゃったって言うか……偶然の産物って言うか……とにかく!
俺にはこの世界のことも、この場所も、君達のことも全く知らないんだ!  どうかこれだけは信じて欲しい!  俺はこの状況に関しては無関係で……っておい!  ちょっ、大丈夫!?」
気づけば、少年はその場に倒れこんでしまっていた。
近づいてみると、外傷は小さな切り傷程度のものばかりだが、険しい表情を浮かべながら必死に息を吸いこんでいた。
「やっべすごい熱だ。どうすりゃいいんだこれ!?  考えろ、考えろ、考えろ。まずは安全で少しでも休める場所に……って言ってもここどこだ!? 」
全くもって土地勘のない俊には、もはやなす術はなかった。
「頼むぞ。こらえてくれよ。どうにかしてこの世界の人に出会えれば……ん?」
ふと空を見上げると、いくつもの光が輝いていた。
太陽はほとんど傾いていない。ということは星の光ではないだろう。気づけばいつのまにか光の数が無数に増えている。
「…………大きくなってる。」
いや違う。
近づいているのだ。無数の光が、俊の頭上から降ってきているのだ。
「っ!  やっばい!!」
俊が危険を感じた瞬間、
「こっちへ!」
と、俊を呼ぶ声がした。
声の方を向くと、茂みの中から顔だけを出した男がいた。
「何してる!  早く来るんだ!」
俊は走る。無我夢中で走る。生きるために走る。命を助けるために走る。
着弾まで、5  4  3  2  1  。
着弾の寸前、俊は茂みの中へッドスライディングした。
それと同時に、男の全体像が見えた。
肩幅はとても広く、腕や足は丸太のように太い。見るからに大男だ。
その大男は、険しい表情で両手を広げて前に突き出していた。
口元には、青色の石が大男の歯でがっちり挟まっている。
着弾後、瞬き以上の速さで光は爆発を起こし、俊の体が茂みに隠れ切った時には、茂みのそばまで爆風が来ていた。
巻き込まれる。
俊がそう確信した時、大男は思いっきり石を噛み砕いた。
そして両手の先に青色の光が生じ、爆風とぶつかる。
その瞬間、青色の光は広がり始め、茂みを覆い尽くした。
「ぐっ! うおおおおおおおおおお!!」
大男の雄叫びが、青色の光のドームの中で反響し、光は輝きを増していく。
あれから数十秒後、爆風は周りの木々を焼き尽くしていった。
だが、おさまった後に、隠れていた茂みや足元の草は全くの無傷だった。
次第に光のドームは薄くなり、消えていった。
「はあ……はあ……どうにか……切り抜けたな……」
「ありがとう。本当に助かった。あなたがいてくれなかったら、今ごろ俺もこいつも丸焦げだったよ」
俊は心からの感謝を送る。
だが、大男は息を整えると少年の顔を見ながら
「ったく、まさかこんなことになるなんてな。総大将の殿下でさえこんな有様とは……。まあ、命があるだけ貰い物か」
「…………は?  総大将?  殿下?」
「お前が何者かは知らんが、殿下を助けてくれたこと、感謝する。」
「いやいやいや待ってくれ!  彼は……」
「知らないのか?  このお方は、」
そしてこの大男は、言った。
「イグルド王国第三王子、反乱鎮圧軍総大将、アラード王子だ」
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