住む世界の違うみんなへ

クロム

始まりが始まりました

  ー異世界ー


 それはゲーム、小説、アニメなどに出てくる現実とはかけ離れた世界のこと。
  主人公はその世界においてとんでもない力を発揮し、英雄譚えいゆうたんを築いていく。

 いわゆるオタクと呼ばれる人達からすれば、自分が異世界へ向かう想像を何度もしたことであろう。


 一度だけでいいから行ってみたい。
 壮大な冒険をしてみたい。


 「ここ……どこだ?」

 そして今、ある一人の人間がその夢を叶えた。


 「よ〜し! 今夜こそは!」
 そう言って、飯田俊いいだしゅんは勢いよくベッドにもぐりこんだ。

 なぜ、この少年はこれほどまでに気合いが入っているのか。

 その答えは簡単だ。
 「待ってろよー夢の異世界ファンタジー!!  英雄様が今行くぜーー!!」


 そう、彼は変態なのだ。


 全ては中学時代。部活を引退し、空虚感が漂う中3の2学期の事。
 興味本位で買ってみた異世界モノのラノベにどハマりし、以来あらゆる異世界モノのラノベを買いあさるようになった。
 そして、生活の中で


 〜もし自分が異世界転生したら〜


 なんて事を常に考えるようになり、気づけば異世界への行き方を検索するほどになってしまった。

 そして、数ある方法(うさんくさいものばかりの)中で一番やりやすい方法を見つけたのである。


 それが、
  幽体離脱を利用したワープ
            である。


 肉体と精神。この二つの全く性質の異なるものを引き剥がし、自分は精神体となって物質世界から精神世界へとワープし、そこを経由して別世界に向かうというものだ。

 この方法を知ってから、毎日このやり方を実践している。
 だが、全くできる気配のないまま時間が過ぎ、今は高校二年生の冬。
 もうすぐ受験生という時期にも関わらず、俊は自分との戦いに没頭していた。
 そして今日も、戦況はかんばしくない。


 「う〜んおっかしいなぁ。自分が一番リラックスできる場所がいいって言うから就寝のタイミングを選んだけど、ここ以外にリラックスできる場所はもう試したんだよなぁ。」

 俊も変態ではあるがバカではない。
 学校の苦手な科目の授業中。
 休日の漫画喫茶。入浴中。
 俊なりにリラックスできる場所を考えて実践したのだが、結果はご想像通り、何も起きなかった。

 「まぁ焦らずゆっくりやるか。まだ深夜1時だ。日が昇るまでやってやるぜ!!」
 

 こうして今日も、通算何日目か分からない戦いに挑むのだった。
 
 

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