メンタリスト

むらもんた

小村香織 2

 俺は香織の横顔を描きながら尋ねる。


「さっきの写真なんですけどまた選んでもらってもいいですか? 自分が審査員ならどれを選ぶか。なんとなくでもいいので」


「俺は3枚目の家族で写ってる写真かな。夕日に映る家族の影が俺は好きだな」


 マスターが腕組みをして、頷きながら答えた。


「私は……1枚目の母親と赤ちゃんの写真かな。女だからかな。凄く胸にくるものがある」


 そう話した香織の横顔は母性に溢れたような凄く優しい表情をしていた。


「二人共ありがとうございます。じゃあ今度のコンテストは香織さんが選んでくれた写真にしようかな。実は俺も気に入ってたんだ」


 香織の方を笑顔で見た。


「おい。俺の意見は無視かよ! 全く!」


 マスターが、プイっとして少しふてくされた。マスターにはこういう可愛さは全く求めていない。むしろ見たくなかった。


「無視した訳じゃなくて香織さんが選んでくれたやつは、本当に気に入ってたんだよ! うちさぁ、父親が小さい時に亡くなって、母親に1人で育ててもらったんだ。兄弟もいなくて……だからこの写真から伝わってくる母親の愛情が、凄く大きくて深いものなんだなって感じて。なんだろう……自分に少し重ねてるのかもしれないなぁ! まぁそれでお気に入りってわけ。他のももちろん気に入ってるんだけど、これは特別かな」


 香織を描く手を少し止めて、思い出にふけるように話した。






 コンテストに出す写真を悩んでいると言って選ばせた写真だが、実は今回の写真の質問も香織の情報を引き出す為に使った心理テストだった。
 自分が審査員ならどれを選びますか? この質問は単純にあなたは何を求めていますか? に置き換えることができる。


 1枚目の写真は母親から子供への愛情やその愛情を体全体で受け止めるといった写真だった。
 この写真が意味するものは深い愛情や甘える事などだ。


 次に2枚目の写真だが、若い青年3人が睨みながら銃口を向けている。そんな写真だった。
 日本において若い青年が銃を持つという事は非日常的な事で現実離れしている。
 この写真が意味するものは非日常的な事への刺激や知らない世界への欲求などだ。


 最後に3枚目の写真だが、川沿いの道を家族4人が仲睦まじく歩いている写真だった。兄弟や両親の表情は優しい表情で幸せなんだと伝わってくる。
 この写真が意味するものは誰もが幸せだと感じるようなオーソドックスな安心感や安定などである。




 その中で香織は1枚目の写真を選択した。普段はバリバリ仕事をこなし頼れるキャリアウーマンだが、香織が求めているものは深い愛情や、自分の弱さを見せれるような甘えられる場所であった。


 また自分の家族構成や情報なども相手によって瞬時に変えている。
 亜矢の時は父親が鬱病でその治療の為、心理学の勉強をしていると話したが、今回は香織が1枚目の絵を選んだこともあり、父親が亡くなっている設定にした。
 女手一つで育てられたと言えば1枚目の写真の深い愛情と共感でき、香織の警戒を少しでも取り除ける可能性があったからだ。 
 そして香織の絵を描かせてもらう事で自然と会話ができ、より多くの情報を聞き出す事が出来るのであった。






「そうだったんだね。あっ、私も兄弟いないんだぁ。そういうのもあって両親からは昔から厳しく育てられた記憶があるなぁ。だから私もこの写真に自分を重ねちゃったのかも。この写真の愛情みたいなものに凄く羨ましい気持ちになったの……だから選んじゃったのかな。
 でもさぁ、この写真本当によく撮れてるよね。他のもだけど外人がモデルになってる写真は海外で撮ったの?」


 狙い通り色々な情報を露わにしていく香織。


「香織さんも一人っ子なんだね。御両親から厳しく育てられたからかもしれないけど香織さんの凜としている姿はとても素敵ですよ。きっと職場でも沢山苦労してきたんですね。
 外人がモデルになっているものは全て海外で撮ってきたものです! 去年学生と一緒に海外にボランティア活動で行ったんです。その時に色々な国を周って撮ってきました。その国毎に人々の価値観や置かれている状況が全く違うので撮れるものも日本とは全く違いました。
 写真とは話変わりますけど内戦が続いてるような国で家族や恋人を亡くしている人達や、食料や衣類すらまともに手に入らないような国で、日々不安と戦っている人達を見てきて、自分が勉強している心理学でケアするべきなのはこういった人達じゃないのかなって強く感じました。
 ただ、母にこれ以上心配かけるのも気が引けてまだ何も相談できてないんですけどね」


 悩んでいる姿を見せながらも、しっかりと香織を見つめ、香織の絵を更に描き進めた。


「そういう経緯があったんだね。だからこんな凄い写真が撮れたんだぁ! 納得だよ。親御さんの事は気にかかるよね。これ以上心配かけたくないし、海外は危険がつきもので連絡を取るのも難しそうだしね。
 でも私からしたらやりたい事が明確にあるのは羨ましいな。私なんて新人からは愚痴ばっかり聞かされるし、上司からは嫌味を言われてばかりで、中々思う様に仕事できてないし、自分がやりたかった事すらなんだったか今じゃよくわからないよ」


 再び香織は愚痴をこぼし始めた。

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