『理外の無才者』〜不利すぎる状況でおれは強くなる〜

アルエスくん@DeusVtuber

勇者編 第五話 バッドアナライズ

勇者編 第五話 バッドアナライズ
 
 
 
 「さて、どうしよう、おれの未来はいろいろヤバそうだ……。せめてここが本当に異世界ならおれに力があれば、なんとかできるかもしれない。でもそんな都合のいい力なんかおれにはないんだ。」
 
 目の前では、次々とクラスメイトたちが5人のシスターたちの前にならんで行っている。
 
 「なんとかするには、おれに今できることしか期待はできない……!どんな原理で鑑定され、どんな原理で表示されるのか分からない以上、自分のステータスが悪いことを隠し通すことはできないんだ。ステータスがバレた上で、なんとかしなきゃいけない。
 おれに今ある手札は……『自分の口による説得』、『勇者として選ばれた者たちのクラスメイトという地位』、そしてこれは期待しないほうがいいが、『クラスメイトたちで味方をしてくれる一部の人たち』。これだけでこの状況を生き延びるしかない。
 ラノベとかでは、召喚された主人公が、『極端な技術の持ち主』だったり、『あとで覚醒する才能の持ち主』だったりするが、おれには身の上一つで放り出されて、生き延びる自信もないし、才能は今から鑑定するだろうからわかるだろうし、それで才能すらも悪かったら、あとは口だけでなんとかするしかない。でも、相手の性格によって対応は変わる……。おれはまだこの世界でよく知ってる人は誰もいない……。だから、おれがよく知るクラスメイトを味方につけることがおれの考えうる一番の突破口だ。強力なギフトを持っている勇者を必要として召喚したんだから、勇者の考えもある程度は尊重してくれる……はずだ……。相手が理不尽でなければ……。
 やれることはやって、それでできなければ諦めるしかない。さて、ほんとにどうしよう?最悪だ……。」
 
 そんなこんなで、最悪のシナリオを考えつき、どうにかしようと思案していると、一人のクラスメイトの女性が近づいてきた。クラス委員長だ。水樹と違って優しい性格なんだけど……あんまり関わってないから、名前は分からない。
 
「そこでなに暗い顔しているの?えっと、あれ?誰だっけ?クラスメイトは全員覚えているはずなんだけどなぁ?」
 
「おれもおれの名前が思い出せない。あんたの名前は?」
 
「あれ、君自身が自分の名前を覚えてないの?変だね。そして私のことをおぼえてくれてないのかぁ。」
 
「クラス委員長だろ。でも、あんまり話とかしないから、名前を覚えてないだけだ。」
 
「なんだ、名前を忘れていただけか。私は『風花』。あれ?名字はなんだっけ?ステータスにも名前しか書いてなかったしなぁ。他にも、クラスメイトたちの名字を思い出せないなぁ?異世界に来た影響なのかもね。」
 
 そこで、おれは一つの疑問を思い出した。
だから聞いてみよう。
「なんでお前らは冷静なんだ?普通、知らないところに突然来たら、誰でも驚くと思うのに、クラスメイトの全員や担任も、全然パニックになってない。おれは性格からして、パニックにはならないだろうけどな。」
 
 おれの疑問に風花は少し黙ったあと、口を開き、
「あれ?異世界に召喚されたときに女神って名乗る人に会わなかった?白い空間で、目の前に綺麗な金髪の女性が立っていて、『あなたたちの力が必要です。無承諾で召喚することを今ここで謝っておきます。すいません。』って言って、それでこの建物に召喚されたんだよ。他のみんなも会ったらしいんだけど、君は会ってないのかな?」
 
「ああ、会ってないな。会ったとしても、記憶にない。それにおれは勇者が持つと言われているギフトを何一つ持ってない。あれ?とすると、おれは『自動翻訳』のギフトを持ってないのに、なんでこの世界の人間の言葉がわかるんだ?」
 
 また、新たな疑問が湧いてきてしまったが、その時、法王が近づいてきた。
 
「君たち、他の人はもうすでに測り終えてしまったよ。君たちもシスターの前に行ってはくれんかの?」
 
「あの、実は、私の隣にいるこの男の子が、自分の名前を覚えてないし、私も忘れていて、しかもこの子は、『自動翻訳』のギフトを持ってないようです。」
 
 おいぃぃぃ、あっさりと風花にバラされたぞ!悪気はないんだろうし、この法王は優しそうだけど、国王とやらがテンプレのような悪い王様だったらどうするんだよ。
 
「なんと!では、私の言葉も理解できてなかったのかね?でも、レベルシステムについて語ったあと、私に質問してきたのもこの男の子であったはずだ。なぜ私たちの言葉がわかるんだ?君、少しギフトについて調べるから、鑑定のオーブの前まで来てくれ。」
 
「はぁ、わかりましたよ……。」
 
 おれは歩いていき、鑑定のオーブとやらを持つシスターの前に来た。
 
「では、鑑定のオーブに手をかざしてくれ。」
 
 鑑定のオーブに手をかざすと、
 
『発動『ジョブスキル『ギフト鑑定』』』
 
『発動『ジョブスキル『平均才能鑑定』』』
 
 2つのアナウンスがオーブの上に表示され、ステータスウィンドウと同じような窓が、オーブの前に表示された。
 
ーーーーーーーーーー
ギフト
 『レベル0の虜囚』
 あらゆるレベルが0に囚われる。
 『スキル自力取得禁止』
 あらゆるスキルの自力での取得が不可能になる。
 『男性機能喪失』
 男性としての、生殖行為などの機能を強制的に喪失する。これはギフトが消えても喪失したあとなので戻らない。
 『X・エスケイプ』
 ???
 
平均才能値 0
ーーーーーーーーーー
 
「バカなぁ!平均才能値が0じゃと!これはありえん!才能が0だと、人格を形成することすら出来ないというのに!それに、なんだこのギフトは!レベルを0にするギフトに、スキルを取得できなくするギフト、さらに男性の生殖行為などをなくすじゃとぉ!これがある意味一番の地獄かもしれんぞい!!!それに、最後のギフトはなんじゃ?このジョブ『鑑定士』に設定されているオーブのジョブスキルでもわからない効果とは、これはどうすればいいんじゃ。」
 
「えっと、騒いでるとこ申し訳ないんでけど、おれはどうなるんです?」
 
 これはやばいかもしれない。本格的に追放されるかもしれない。
「わからんのじゃ。翻訳できないくせにわしらの言葉がわかるし、才能がないのに人格を持っておるし、ただ、この世界では生きづらいことは間違いない。
 この世界には『HPシステム』という、ステータス値の一つがあるんじゃが、これは自分が受けてしまったダメージを瞬時に癒やす力があるんじゃ。これによって、相手のHPを0にするまで、血は流れず、痛みも感じず、傷ができても傷から緑色の光が溢れて、瞬時になくなるのでの。かなり死にやすいじゃろうの。」
 
「おれはこの世界じゃ死にやすいのか!?これはおれが一人で自立したとしても人生ハードモード確定じゃんか!?もし、追放されたとしても、追放されなかったとしても厳しいぞ!」
 
「追放?もしかして、このギフトのせいで追放されると思ったのかの?だとしたら、間違いじゃ。
 この国には名前がない。それはこの国が宗教で成り立っている唯一の『教国』だからじゃ。他に『教国』が存在しない、ゆえに周りの国からはそのまんま教国として認識されておる。だから、国王はおるが、それと対等な地位である『法王』という存在もおって、それがわしじゃ。
 それにこのギフトが『神々が君に与えた試練』なのかもしれん。ゆえに、神々を信仰するわしは、自分が法王となる際に『神々から与えられた制約』によって、君をどうこうはできないんじゃ。それに、君が勇者ではなくとも、勇者たちと何かしら関係があるので、勇者たちを敵に回さぬよう、国王も君を追放して、自ら死なせようとはしないじゃろう。多少の差別はあるかもしれんがの。そこは勘弁してほしい。」
 
「それはわかっている。少なくともこの世界では人は平等ではないからな。差別もあるだろう。追放される心配がなくなっただけでも安心だ。
 あんたの言っていることが本当だったらだけどな。おっと、あんたのことを疑っているわけじゃなくて、あんたが自分ではない国王のことを本当に理解できてるのかが心配だからな。想定はしておく。」
 
 ふぅ、よかった〜。追放されることはないらしい。でもハードモードは決定だよなぁ。
 
「他の者たちはもうすでに馬車乗り場へ移動しておる。君にシスターを一人付けるから、早くみんなのところへ行くのじゃ。頑張るんじゃぞい。」
 
「私がこの子を他の者たちへと合流させます。」
 
「おお、では頼んだぞい。」
 
「では、行きましょう、シスターさん。」
 
「はい、私の後ろについてきてください。」
 
 そして、おれと案内のシスターはこの『法王の間』を出ていった。
 
 
 
「はてさて、まさか『自動翻訳』のギフトを持っていなかったとは。この世界の言葉を理解できたということは、召喚された者たちは、日本語を話せるのじゃろう。この世界の言葉を理解できるのに、なぜ神々は勇者たちに『自動翻訳』や『絶対翻訳』のスキルをギフトに与えたのかの?まぁ、いずれわかるじゃろう。彼らに神々の祝福あれ……。」
 
 
 

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