ファイブレジェンドシリーズ第二部「グランドシェルト~君主の記憶」

秋飛

プロローグ1

 ――私は、あの日とんでもない過ちを冒した。


 二千三十二年十一月八日。香川県、高松市。午後四時。
 ――ハァ……。嫌だな。
 私は、学校からの帰り道を夕日に照らされながら商店街のアーケードの中をとぼとぼと歩いていた。
 数歩歩いていては立ち止まり、ため息をつく。そしてまた歩き出す。
 私の帰り道はいつからか、こういう感じで憂鬱になっていた。
 理由は簡単だ。家に帰りたくないのだ。何故かは理由がいくつかあるが、とにかく家に帰りたくないのだ。
 だから、駅から出て、このアーケードにさしかかる度に家がすぐそこにあると思うと、憂鬱で足が前に進まない。誰か一緒に帰る人がいたら少しは楽なのかもしれないが、学校から徒歩一分の所にバス停がある。ほとんどはそこのバスで帰るか、もしくは、自転車で帰るのが一般的なのだ。わざわざ徒歩三十分掛けて駅に向かう人はそういない。
 じゃあ、なんで私がわざわざ電車を使って帰っているかというと、ここが私の体力の範囲内で家から一番遠い駅だからだ。
 まあ、電車を使って帰ってる生徒も少なからずはいるが、私が下りる駅で下車する生徒は私を含め一人しかいない。その一人は今年、四月にで島根から高校に上がると同時に、引っ越してきたばかりなのだが、昔からがあり、私の唯一の親友だ。だけど、皮肉な事に人柄もあってその親友は生徒会役員でいつも帰りが遅い。
 一緒に帰りたいのだが、私の通っている学校は部活をしていたらどんなに帰りが遅くなってもなにも文句は言われない……、のだが、私は帰宅部だ。部活をしていない生徒が、放課後、十分以降に校内で目撃されたらこっぴどく叱られる。
 部活に入ると言うても考えたが、それはそれで面倒臭いので止めた。親友が生徒会の仕事を終えるまで学校の近くでまとうにも回りには何もない。だからこうして一人で憂鬱に浸りながら帰っているのだ。
 ――ハァ……。今日もあの家に帰るのか……。
 私はまた立ち止まり、今日何度目か分からないため息をつく。
 爽やかな風が前から吹いてきたので、思わず前を向くと、百メートルくらい先を歩いている。この辺では見かけない五歳程だろうか小さな少女が目に止まった。
 目に入ったのでもなく、見かけたのでもない。目に止まったのだ。露地に入っていく少女を私は無意識のうちに跡を付けるようにして追いかけていた。今でも、どうしてあんな事をしたか分からない。ただ少女にこの世界の物とは違う何かを感じたのは間違いない。だが、今思えばそれが大きな間違いであった。
 不思議な魅力の少女を追いかけてしばらく行くと、小さな神社に入って行く少女を見たので、思わず慌てて近くを電柱の影に隠れる。
 小さな神社というは鳥居を潜り数歩行くとすぐに、賽銭箱と社があるだけの本当に小さなもので、コレを神社とよんでいいのか些か疑問だが、そんな事はおいといて、そんな作りだから、ここからでも十分に少女が何をしているのか見ることが出来るのだ。
 それにしてもこの少女はいったい何の為にこんな人気のない神社で何をするのか。普通に考えたらお参りであろうが、私はそうとは思わない。とくに理由はなかったが、そう私の直感が囁いたのだ。
 次の瞬間、私の直感は確信に変わる。
 少女は不意に後ろを振り返り周囲を一瞥し、社の方へ向き直る。少女は口元に笑みを浮かべたように見えた。すると、少女は地面から二センチほど浮かび上がった。いや、浮かんでるのでは無くのだ。
 今まで気にしてはなかったから気付かなかっただけか、隠していたのかどっちかは分からないが、目を凝らしてよく見ると、少女の背中には透明な四枚の翅があるのを視認出来る。
 翅は静止しているように見えるが、恐らく目で追えないほど速く羽ばたいて飛んでるのであろう。
 その光景も驚きだが、次の瞬間には更なる驚きで上書きされる。
 どこからともなくまっ黒の渦が飛んでる少女の前に現れたその光景に思わず声を上げそうになったが咄嗟に口を手に当てこらえた。
 ――なに?あの黒いの……。
 私が驚愕していると少女はなんの迷いもなくその渦入るとすぐに渦は収縮していく。
 躊躇いもしたが、私はあの渦の先に行くと何かが変えられる、そんな気がして気が付いたら渦に向かって走っていっていた。
 収縮していく渦は人一人がかろうじて通れる大きさにまで小さくなっている。
 それでも私は足を止めずに渦に飛び込んだ。
 渦に飛び込むと徐々に全身から力が抜けていき、奥に引きずり込まれる感覚だけがある。渦の中は真っ暗でなにも見えない。その先に小さな青い光が輝いているので、どこかには繋がっているという確信でき、少し肩から力が抜ける。
 そして最後の力振り絞り、おそらく私はもう二度とこの世界に戻って来ることがないであろうあの世界を目に焼き付けるべく体を回転する。
 すると、私のすぐ後ろにもう一人いることに気づいた。咄嗟に顔を確認した。私は驚き目を見開いた。その人物は唯一の親友だったからだ。
 ――いったいどうして……。
 私は頭がパニックなりつつ、兎にも角にも、親友の名前を呼ぼうとしたが、それも虚しく私の記憶はそこで途切れてしまった。

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