地球にダンジョンがやってきたので、モンスター娘達とやりたい放題で世界最強冒険者になることを目指す

永遠ノ宮

液体は魔力剤だった件

 遭難して数時間。
 ダンジョン内は地球と別の時間が流れているのか、スマホのデジタル時計は十五時だが真っ暗で星が出ている。

 プラネタリウムを見ている感覚だ。
 練習施設とは言い、夜のダンジョンは危険だとテイナちゃんに言われ川岸で今は川魚を焼いている。


「ライターあって助かった。タバコ吸う人間は嫌がられるけど、役に立つ時もあるんだな」

「魔法を使わず火を発生させる謎の道具……興味深いですね」

「……使ってみる?」


 ライターと、その使い方を知らないモンスター娘テイナちゃん。
 俺はライターを投げて渡し、使い方を教える。


「この黒いところを強くカチッと押すと、火が出る」

「えーと……ここを──えいっ!」


 ──バキッ!
 嫌な音がした。テイナちゃんの手の中で、嫌な音がした。
 ライターが、粉砕するかの様な嫌な音がしっかりと。


「壊れた、かな?」

「うぅ……ごめんなさい。私、オークだから力が半端なく強いのでした……」

「家にいっぱいあるからいいよいいよ! それより、はい魚」

「ありがとうございます。地球は、どんなところですか?」


 地球はどんなところですか。
 その質問に答えるには、範囲が広すぎてどこからどこまでを答えてあげればいいのか分からない。
 もう少し、範囲を狭くして具体的に聞いてきてほしい。


「もう少し具体的に」

「どんな風景で、どんな人がいるんですか?」

「なるほど。では率直に夢を壊すかもしれないけど──縦長い建物で緑は失われ、朝日は俺の部屋に入らない。自然を壊している。一部都市では……そして人は腐っている。自分の利益しか考えず、人を上から下へと平気で突き落とす下劣さ極まる者ばかり」

「楽しいですか? そんな世界」


 おっと、まさかのど直球。そういうところ好きだ。
 良く言って別に。悪く言って──終わっている。
 まぁ、そんな中でサラリーマンをしている自分も自分だけどな。

 上の人にペコペコ頭下げて、馬鹿らしいにもほどがある。
 魔法でもあれば、いいんだがな。世界を一から変えてやれる。


「そうですか! 素直な人で、良かったです! ……それでその、胸の辺りが膨らんでいるんですけど何ですか?」


 丁度いい。聞いてみるか。
 俺は胸ポケットから注射セットを取り出し、液体も見せる。
 すると、テイナちゃんの頭の上に豆電球が飛び出たように見えた。


「ちょっと貸してもらっていいですか?」

「いいよ」

「……ペロッ」

「舐めて大丈夫なの!?」

「あ、やっぱりこれ魔力剤です。多分、デルヘイド社が作った物で、これを体内に流せば魔法が使えますよ? 冒険者と魔法使いは、同じ類に入るも、実は別物ですし──私は魔法が使えません」


 なるほど。
 デルヘイド社と言うのは聞いたことが無いが、それが魔力剤だと言われれば納得だ。
 なぜなら、このダンジョン自体が日本に存在しないどこかの異世界から繋がれたものだからだ。

 俺は注射セットを返してもらい、組み立てる。
 結構バラバラで、普通は液体を入れてこの押す……何とかってやつを入れるだけかと思っていたが最初からだった。

 針を恐る恐る刺し、液体を入れ、押すやつの先に黒いゴムの円盤みたいなのをつける。
 注射の部品をバラバラで名前覚えないからな。これが何と言うのか……全然分からない。
 そして完成。
 消毒液みたいなのを含んだコットンで刺す場所を消毒して──


「これを……イテッ! 適当に刺していいのかこれ!?」


 超絶適当に、ぶっ刺した。
 そして魔力剤を入れていく。
 そして半分で止めて抜く。セットに入っている、またまた消毒液を含んだコットンで拭く。

 注射を反対に傾けて液を針方向から逆に溜め、針を取り替える。
 そして針も消毒してあげる。
 これ、俺の時忘れてた。
 そしてテイナちゃんの白い肌、右手の二の腕を消毒して刺す。


「痛くない……お上手ですね! けど、どうして全て入れないんですか?」

「半分半分。魔法が使えないってテイナちゃん言っただろ? あの時、少し顔が残念そうにしていたから半分だ!」

「豪さん……良い人ですね。ありがとうございます」


 こうして、俺とモンスター娘テイナちゃんは魔法が使える様になった──はずなん多分。
 これが魔力剤なら間違いなく。でも半信半疑なんだよこれまた。


 ※※※


 一気に冷えてきたダンジョンと言うか、もうほぼジャングル。
 テイナちゃんに上着を掛けてあげ、俺は焚き火をさらに燃やす。
 狼でも来たら、戦うことになるからな。

 今頃もしかしたら、ダンジョンの存在がニュースになっていて、全国民の注目を集める物になっているかも知れない。
 そんな中で俺はスマホを使えない。電波か届かないから、ニュースが見れないのだ。


「地球にダンジョンが来た。もしこれが世界各地で、もしかしたら国連が関係していて! なんだったら、地球が面白く変わる一歩なのかもしれないのにな。……寒々」

「豪さん、私上着大丈夫です。モンスターは風邪を引かないですし、寒いのを我慢するだけなんで……」

「ダメダメ! 女の子が寒いのに、男が温まるなんて考えられない。ほらちゃんと着てて着てて
 !」

「どうしてそこまで優しくしてくれるんですか? モンスターにもなるんですよ、遭難の張本人ですよ?」


 思った以上に、遭難ってサバイバル感あって楽しいから気にしていないんだけどね。


「楽しいから気にしてないよ! テイナちゃんこそ、若いのに突き合わせてごめんね」

「この業界に足を踏み込んだのは十歳。モンスターになったのは十五歳。それからは、歳をとるスピードが遅くなって今は十八歳です。七年もここにいるのに……多分ですけど」

「モンスターに変わらず、そのままの容姿で日常生活はできるんだよね?」


 当たり前の質問を俺はしてみる。
 てか今このテイナちゃんの容姿が、それを証明しているみたいなものなのだが。


「はい、できますけど……」

「じゃあ、ダンジョン終わったら地上に出てみる? 確かに、人間関係は腐っていると言ってもいいほどに残念な場合が多いけど、東京は楽しいところばっかだから……ここに囚われているのも辛いでしょ?」

「いい……いいん、ですか。私が──外に出ても、いいんですか!?」

「いい! だからここをまずは出ようか。明日の朝にでも動き出せば問題はないだろうし──」


 ──バキッ。
 その時、ことは動いた。その時じゃない、今だよ今。
 何俺カッコイイこと言ってんの!? 今の木の枝が折れる音って定番だろ!? モンスター来たよこれ!


「グルルルル……!」
「グロロロロ……!」


 統一しろ、鳴き声を統一してくれ!
 モンスターと言うよりかは、複数の狼が茂みから威嚇をしていると言ったほうが自然だ。
 川の水位は上がり、ここから向こう岸に行けないことはないが危険だ。いや、それどころか向こう岸には既に狼がいるではないか。

 挟まれた。そしてピンチだ。
 魔法が使えたとして、どう使う? スマホの犬しつけ用超音波とかの方が有効か?


「豪さん……怖いです……!」

「俺も怖い! すんごくこれ怖い!」

「どうするんですか!?」

「何か魔法知らないか!? それで何とかしてみるとか!」

「知ってます。狼を一撃で脳殺できる魔法。でもあれは二人で……唇を……重ねて──その……」


 何この状況で照れてるの!?


「き、き……キスをして魔力をぶつけ合って超音波を出すんです必殺の!」

「やるしかねーだろうそれおおおおおお!」

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