《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
123話~3つの封印~
足の指の一本一本が大きく膨らんでゆく。爪が長く伸びていく。脚部も同じように膨れ上がって黒い鎧のようなウロコが生えてくる。上体が前傾姿勢になってゆく。歯が伸びて凶暴なキバへと化けてゆく。自分の肉体がドラゴンになっているのだが、感覚としては重厚な鎧をまとっているようだ。
「ピチョ……ピチョ……」
と、黒い粘液が、ドラゴンになったセイに近づいてくる。
よろめくように近づいてきたのだが、不意に濁流のように襲いかかってきた。人の大きさであれば呑み込まれていたかもしれない。
ドラゴンの大きさでは呑まれる心配はなかった。前身を覆う黒々としたウロコは、粘液を受け流して行く。
キリアとロロナのことをつかんでいる、粘液野郎に食らいついた。マッシュ・ポトトだった存在なのだろう。マッシュの脚部と胴体だけは残っている。キリアとロロナをつかんでいた粘液を切り離すことに成功した。
キリアとロロナの2人を傷つけないようにつかんで、セイは飛びあがった。冒険者ギルドの屋根の上にのぼって、人の姿に戻った。キリアもロロナも息はしていた。
(良かった)
死んでない。
〝治療印〟で、すぐに2人のケガを治した。
「セイか」
先に目を覚ましたのは、キリアだった。
「良かった。死んじゃったかと思いましたよ」
「マッシュのことを殺したのだ。仕留めたと思ったのだが……」
「事情はわかってます」
「そうか」
冒険者ギルドの屋根の上からは、城壁の外の風景もよく見えた。頑強な城壁を前に、モンスターは攻めあぐねているようだ。しかし、怖ろしいものが見えた。タギールやマッシュと同じような黒い粘液があった。
それも、入道雲のような大きさのバケモノだった。
「あれは……」
おそらくあれが聞いていた魔王サタンだ。神の図書館から放たれたのだろう。
ふん、とキリアは小さく笑った。
「まるでこの世の終わりだな」
「ですね」
不意にキリアはセイのことを抱きしめてきた。そして、唇を重ねてきた。熱くてやわらかい感触が、セイの唇に押し当てられた。
「キリア?」
ビックリした。唇を押し当てられた瞬間に、カラダの芯から何もかも溶かされてしまうような感覚に陥った。
「この世の終わりなら、貴殿とキスでもしておかないと損だからな」
キリアは照れ臭そうに頬を赤らめてそう言った。
それもそうかもな――とセイは思った。
どうせ、何もかも終わってしまうなら、欲望のままに動くというのもありかもしれない。これまでよくガンバってきた。我ながらそう思う。このままキリアを押し倒してしまおうかと思ったとき――そんなセイの思いを嘲笑うかのように、黒い粘液が追いかけてきた。
「しつこいヤツだ」
槍で粘液を突こうとした。
が、一本の刀剣が、セイの眼前でひらめいた。まるで揺らめく炎のような刀剣――フランベルジュ――。
「久しぶりだな。クロカミ・セイ」
セイの前にかしずいたのは、美しいプラチナブロンドの髪の女だった。スタイルの良いそのフォルムを、セイはよく覚えている。
イティカ・ルブミラルだ。
もと冒険者ギルドのギルド長だ。
「イティカさん。どうしてここに?」
「旅から戻ってまいった。雑念を振り払おうと思って旅をしていたが、片時もあなたのことを忘れたことはない。あの夜の羞恥が、私の心に刻まれて拭えない」
あの夜――というのは、セイがイティカの印をもらったときのことだろう。
「イティカさんの魔法。役に立ちましたよ」
「良かった」
「それにしても、よく都市の中に入って来られましたね」
「抜け道を使ったのだ」
「そうでしたか」
「しかしどうやら良いタイミングで戻って来られたようだ。セイに土産を持ってきた」
イティカはそう言うと、巨大な布袋を渡してきた。
「これは?」
「旅の途中に司教座都市カテミラルダに寄ってきた。おそらく役立つだろうと思う」
布袋の中を確認した。
入っていたのは――。
エルフの生首。
獣の尻尾。
蜥蜴族の手だった。
おのおのには印が刻まれてる。
「まさか……」
「俗に〝封印〟と言われるものだ。しかし持主が死んでいる以上は、効果を発揮しない。セイならば――あなたならば、この能力を生かすことが出来るはずだ」
黒い粘液が迫ってくる。
イティカはふたたび剣で、粘液を斬り払った。
「助かります」
あまりナめたいようなシロモノではないが、印を見つけ次第にナめろ、とレフィール伯爵から言われている。素早くナめとった。
「ピチョ……ピチョ……」
と、黒い粘液が、ドラゴンになったセイに近づいてくる。
よろめくように近づいてきたのだが、不意に濁流のように襲いかかってきた。人の大きさであれば呑み込まれていたかもしれない。
ドラゴンの大きさでは呑まれる心配はなかった。前身を覆う黒々としたウロコは、粘液を受け流して行く。
キリアとロロナのことをつかんでいる、粘液野郎に食らいついた。マッシュ・ポトトだった存在なのだろう。マッシュの脚部と胴体だけは残っている。キリアとロロナをつかんでいた粘液を切り離すことに成功した。
キリアとロロナの2人を傷つけないようにつかんで、セイは飛びあがった。冒険者ギルドの屋根の上にのぼって、人の姿に戻った。キリアもロロナも息はしていた。
(良かった)
死んでない。
〝治療印〟で、すぐに2人のケガを治した。
「セイか」
先に目を覚ましたのは、キリアだった。
「良かった。死んじゃったかと思いましたよ」
「マッシュのことを殺したのだ。仕留めたと思ったのだが……」
「事情はわかってます」
「そうか」
冒険者ギルドの屋根の上からは、城壁の外の風景もよく見えた。頑強な城壁を前に、モンスターは攻めあぐねているようだ。しかし、怖ろしいものが見えた。タギールやマッシュと同じような黒い粘液があった。
それも、入道雲のような大きさのバケモノだった。
「あれは……」
おそらくあれが聞いていた魔王サタンだ。神の図書館から放たれたのだろう。
ふん、とキリアは小さく笑った。
「まるでこの世の終わりだな」
「ですね」
不意にキリアはセイのことを抱きしめてきた。そして、唇を重ねてきた。熱くてやわらかい感触が、セイの唇に押し当てられた。
「キリア?」
ビックリした。唇を押し当てられた瞬間に、カラダの芯から何もかも溶かされてしまうような感覚に陥った。
「この世の終わりなら、貴殿とキスでもしておかないと損だからな」
キリアは照れ臭そうに頬を赤らめてそう言った。
それもそうかもな――とセイは思った。
どうせ、何もかも終わってしまうなら、欲望のままに動くというのもありかもしれない。これまでよくガンバってきた。我ながらそう思う。このままキリアを押し倒してしまおうかと思ったとき――そんなセイの思いを嘲笑うかのように、黒い粘液が追いかけてきた。
「しつこいヤツだ」
槍で粘液を突こうとした。
が、一本の刀剣が、セイの眼前でひらめいた。まるで揺らめく炎のような刀剣――フランベルジュ――。
「久しぶりだな。クロカミ・セイ」
セイの前にかしずいたのは、美しいプラチナブロンドの髪の女だった。スタイルの良いそのフォルムを、セイはよく覚えている。
イティカ・ルブミラルだ。
もと冒険者ギルドのギルド長だ。
「イティカさん。どうしてここに?」
「旅から戻ってまいった。雑念を振り払おうと思って旅をしていたが、片時もあなたのことを忘れたことはない。あの夜の羞恥が、私の心に刻まれて拭えない」
あの夜――というのは、セイがイティカの印をもらったときのことだろう。
「イティカさんの魔法。役に立ちましたよ」
「良かった」
「それにしても、よく都市の中に入って来られましたね」
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「そうでしたか」
「しかしどうやら良いタイミングで戻って来られたようだ。セイに土産を持ってきた」
イティカはそう言うと、巨大な布袋を渡してきた。
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