《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
104話~シラティウス編完結~
波によって削られた黒々とした岩の上――シラティウス・チロとシド・アラインは対峙している。
セイとしてはシラティウスの味方に入りたいところだが、シラティウスがそれを拒否した。因縁の対決に割って入るのも、無粋ではある。
万が一、シラティウスに何かあったときは、援護に入ろうと決めていた。が、シラティウスが人間を相手に遅れをとるとは思わなかった。シドの印は変装。戦闘向きの魔法ではない。
シラティウスが白銀のドラゴンへと化ける。相変わらずの荘厳さだ。カラダの白さは背景の海によく映えていた。
シドはブリオーを脱ぎ捨てた。どうやら内側にチェインメイルを忍ばせていたらしい。チェインメイルには大量のダガーがたずさえらえていた。シドはダガーを両手に構えると、白銀のドラゴンめがけて駆けた。
「セヤァァァッ」
シドの短剣がシラティウスの首に突き刺さった。
本来であれば、突き刺さっているはずだ。が、ドラゴンのウロコは、剣で傷つけられるほどヤワではないのだ。はじかれていた。
憎悪をブツけるかのようにシドは何度も、シラティウスに斬りかかる。しかし、斬るたびに弾かれていた。
シラティウスがシドのカラダをくわえた。かみ砕いてしまうのかと思った。そうではない。ゴミでも捨てるかのように、海へ投げ捨ててしまった。
圧倒的だ。
(そうだよな)
ドラゴンのチカラを手に入れた、セイにはわかる。
ドラゴンというのは、もともと人の領域にいる存在ではないのだ。マトモに戦かうどころか、傷ひとつ付けることすら難しい。
「くぅ」
と海の中からシドが這い上がってくる。
髪が濡れそぼって、カラダに張り付いていた。
あんまりにも圧倒的すぎて、シドのほうを応援したくなってくる。
「シドのママは、パパに捨てられて悲しんだんだ。それもただの人じゃない。ドラゴンなんかに奪われて」
シドはどうやら、自分の名を一人称に使う癖があるようだ。
シドがふたたび斬りかかる。
今度は足に狙いをつけたようだ。
シラティウスの足は白銀のウロコで隙間なくおおわれている。そしてそこには黒々とした巨大な爪が伸びている。シラティウスはしばらくジッとしていた。好きなように斬らせているようにも見えた。
不意にシラティウスが翼をはためかせた。
風圧によって、シドはゴロゴロと転がっていき、再び海のなかに落とされていた。
落とされてもまた、這い上がってくる。しかしついに体力が限界をむかえたのか、岸辺にもたれかかったまま動かなくなった。
健気というか、見ていて痛々しい。
見かねた。
「もうそろそろ、そのへんにしておいたらどうだ?」
と、セイがシドのことを引っ張り上げた。
敵ではあるのだが、今までのジリアル・タギールやマッシュ・ポトトのような禍々しい雰囲気はなかった。
「私はドラゴンハンター。ドラゴンは一匹残らず駆逐するのです」
「でも、相手になってないじゃないか」
「ウルサイのです。ドラゴンハンターは本来、チームを組んで準備を万端にととのえて挑むものなのです。一対一なのだから、多少は不利であることは仕方がない――とシドは弁解しておくのです」
「ムリするなって」
シラティウスは手加減していたのだろう。シドのカラダにはたいして傷はない。
「今日のところは見逃してやります。しかし、私は重要な情報を手に入れた。それはクロカミ・セーコがクロカミ・セイという男の変装だということです。〝英雄印〟を持つ者は、神の図書館への接続に邪魔になるのです。必ず抹殺させていただくのです」
シドはそう言うと、セイの腕の中から逃れた。
波打ち際に立つと、シドの背後にトビラが現われた。タギール・ジリアルやマッシュ・ポトトのときと同じだ。
撤退するときには、必ずそのトビラが出現していた。
「決戦のときは近づいている。首を洗って待っていろ――とシドは忠告しておきます」
シドはそう言い残すと、トビラの向こうに消えて言った。
今までと同じく、トビラが霧散した。
「行ったな」
「はい」
いつの間にか、人の姿に戻っていたシラティウスがうなずいた。あれがシラティウスの敵対者ということなのだろう。
しかし、今までとはすこしタイプが違う。タギール・ジリアルにしろ、マッシュ・ポトトにしろ、憎むべき敵と言えた。しかしシド・アラインに関してはどちらかというと、シラティウスのほうが憎まれている。
「大丈夫か?」
とセイはシラティウスに尋ねた。
「何が?」
シラティウスはあいかわらず無表情だ。
「傷ついたんじゃないかと思って」
「見ていた通り。私は無傷。シド・アラインのほうが、ケガはしていたと思う」
「そうじゃなくて、心のほうがさ」
どういう事情であれ、憎まれるというのは気持ちの良いものではない。
シラティウスは恍惚と笑った。
「ぜんぜん、むしろ楽しかった。次に会ったときは、もうちょっといたぶってあげるつもり」
「そ、そうか」
大人しそうな無垢な少女に見えて、その実、内にはサディスティックな魂をひめている。これがシラティウスという少女なのだった。
セイとしてはシラティウスの味方に入りたいところだが、シラティウスがそれを拒否した。因縁の対決に割って入るのも、無粋ではある。
万が一、シラティウスに何かあったときは、援護に入ろうと決めていた。が、シラティウスが人間を相手に遅れをとるとは思わなかった。シドの印は変装。戦闘向きの魔法ではない。
シラティウスが白銀のドラゴンへと化ける。相変わらずの荘厳さだ。カラダの白さは背景の海によく映えていた。
シドはブリオーを脱ぎ捨てた。どうやら内側にチェインメイルを忍ばせていたらしい。チェインメイルには大量のダガーがたずさえらえていた。シドはダガーを両手に構えると、白銀のドラゴンめがけて駆けた。
「セヤァァァッ」
シドの短剣がシラティウスの首に突き刺さった。
本来であれば、突き刺さっているはずだ。が、ドラゴンのウロコは、剣で傷つけられるほどヤワではないのだ。はじかれていた。
憎悪をブツけるかのようにシドは何度も、シラティウスに斬りかかる。しかし、斬るたびに弾かれていた。
シラティウスがシドのカラダをくわえた。かみ砕いてしまうのかと思った。そうではない。ゴミでも捨てるかのように、海へ投げ捨ててしまった。
圧倒的だ。
(そうだよな)
ドラゴンのチカラを手に入れた、セイにはわかる。
ドラゴンというのは、もともと人の領域にいる存在ではないのだ。マトモに戦かうどころか、傷ひとつ付けることすら難しい。
「くぅ」
と海の中からシドが這い上がってくる。
髪が濡れそぼって、カラダに張り付いていた。
あんまりにも圧倒的すぎて、シドのほうを応援したくなってくる。
「シドのママは、パパに捨てられて悲しんだんだ。それもただの人じゃない。ドラゴンなんかに奪われて」
シドはどうやら、自分の名を一人称に使う癖があるようだ。
シドがふたたび斬りかかる。
今度は足に狙いをつけたようだ。
シラティウスの足は白銀のウロコで隙間なくおおわれている。そしてそこには黒々とした巨大な爪が伸びている。シラティウスはしばらくジッとしていた。好きなように斬らせているようにも見えた。
不意にシラティウスが翼をはためかせた。
風圧によって、シドはゴロゴロと転がっていき、再び海のなかに落とされていた。
落とされてもまた、這い上がってくる。しかしついに体力が限界をむかえたのか、岸辺にもたれかかったまま動かなくなった。
健気というか、見ていて痛々しい。
見かねた。
「もうそろそろ、そのへんにしておいたらどうだ?」
と、セイがシドのことを引っ張り上げた。
敵ではあるのだが、今までのジリアル・タギールやマッシュ・ポトトのような禍々しい雰囲気はなかった。
「私はドラゴンハンター。ドラゴンは一匹残らず駆逐するのです」
「でも、相手になってないじゃないか」
「ウルサイのです。ドラゴンハンターは本来、チームを組んで準備を万端にととのえて挑むものなのです。一対一なのだから、多少は不利であることは仕方がない――とシドは弁解しておくのです」
「ムリするなって」
シラティウスは手加減していたのだろう。シドのカラダにはたいして傷はない。
「今日のところは見逃してやります。しかし、私は重要な情報を手に入れた。それはクロカミ・セーコがクロカミ・セイという男の変装だということです。〝英雄印〟を持つ者は、神の図書館への接続に邪魔になるのです。必ず抹殺させていただくのです」
シドはそう言うと、セイの腕の中から逃れた。
波打ち際に立つと、シドの背後にトビラが現われた。タギール・ジリアルやマッシュ・ポトトのときと同じだ。
撤退するときには、必ずそのトビラが出現していた。
「決戦のときは近づいている。首を洗って待っていろ――とシドは忠告しておきます」
シドはそう言い残すと、トビラの向こうに消えて言った。
今までと同じく、トビラが霧散した。
「行ったな」
「はい」
いつの間にか、人の姿に戻っていたシラティウスがうなずいた。あれがシラティウスの敵対者ということなのだろう。
しかし、今までとはすこしタイプが違う。タギール・ジリアルにしろ、マッシュ・ポトトにしろ、憎むべき敵と言えた。しかしシド・アラインに関してはどちらかというと、シラティウスのほうが憎まれている。
「大丈夫か?」
とセイはシラティウスに尋ねた。
「何が?」
シラティウスはあいかわらず無表情だ。
「傷ついたんじゃないかと思って」
「見ていた通り。私は無傷。シド・アラインのほうが、ケガはしていたと思う」
「そうじゃなくて、心のほうがさ」
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