《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第102話~変装~
なんとも奇妙な光景だ。
波打ち際にある岩のうえで、蜥蜴人たちは輪を囲んでいる。そして、布服に詰められた粉末を口に運んでいっている。
1人、また1人。何事もなく終えていく。不審者が誰も出てこなければどうしようか……とセイは緊張していた。そのときはセイもこの薬を飲まなくては、シメシがつかない。
「これでこの場にいる者は全員、口にしましたかね」
と、ティルが一同を見回した。
蜥蜴人たちがいっせいにうなずいた。
結局、蜥蜴人に変装しているような人物は、誰も出て来なかったのだ。いや。1人だけ口にしていない者がいる。
「疑っているわけではありませんが、いちおう族長も」
ティルがそう言った。
「わかりました」
フィーは、布袋から粉末を一粒受け取った。しばらくそれを凝視していた。
「どうかしましたか?」
「いや。毒などではないか――とフィーは警戒しております」
「案ずることはありません。みんな口にしていたでしょう」
「わかりました」
フィーは薬を口に含んだ。別に何も起こらなかったようだ。布袋は蜥蜴人たちのあいだを一回りして、セイの手元に戻ってきた。また少しの粉末が残っていた。
「薬の効果がなかったか。あるいは、変装という私の考えが間違えていたのか」
つぶやくようにティルが言った。
刹那――。
蜥蜴族長であるフィーの輪郭が歪みはじめた。カラダが溶けてゆくかのようだ。
「おおっ」と蜥蜴人たちは弾かれたように飛びずさっていた。セイも咄嗟に手に槍を構えた。青々しい海を背景にして、フィーはまったく別の人間になっていた。シラティウスにそっくりの顔をした、灰色の髪の少女だ。
「君は……」
昨夜見た少女に違いなかった。
「その薬。ホントウに効果あったんだ。と、シドは驚嘆を言葉にします」
物静かな口調はフィーのときのままだが、シラティウスによく似ている。
「ドラゴンハンターのシド・アラインか」
「そう」
「蜥蜴族長に化けてたのか」
「肯定」
シドはうなずくと、腰にたずさえていたダガーを抜いた。霧に薄められた陽光を受けて、刃がにぶくかがやいていた。
敵意を感じる。だが、シドから発せられる敵意はどうやらセイではなくて、シラティウスに向けられているようだ。そのシラティウスは、どことなく眠たげな目をして無防備にたたずんでいる。
シラティウスはドラゴンになるという圧倒的なパワーを保持している。しかし、人の姿のまま戦っているところを見たことがない。
「貴様ッ。フィーをどこへやった!」
と、シドに向かってティルが駆けた。
蜥蜴人はチカラが強い。
目にもとまらぬ疾駆であった。
ティルが佩いていた剣を抜いた。シドに切りかかる。
上段に振り上げられた刀剣が、シドめがけて振り下ろされるかと思った。しかし、ピクリとティルの動きがとまった。ティルの腹部にシドのダガーが突き刺さっていた。
「お、おのれ……」
「隙だらけ。チカラだけではどうにもならない。シドはそう忠告します」
ティルさまッ――とまわりの蜥蜴人が声をあげた。
ティルは蜥蜴族騎士長だと聞いている。剣の腕前はかなりのものだったのだろう。怪力に頼った剣だったのかもしれない。それでも、シドの咄嗟の対応は見事だった。生半可な強さではない。
「狙いはなんだ?」
セイが問う。
「ひとつは蜥蜴族の持つ〝封印〟。しかし、それはもう手に入れた」
「そうか」
蜥蜴族長のフィーに化けていたということは、フィーはすでに死んでいるのだろう。フィーだと思って接していたのは、シド・アラインが化けていた存在だったのだ。
〝封印〟を狙っていたということは、神の図書館を目的とする組織の者だろう。
「もうひとつの狙いは、シラティウス・チロの抹殺」
セイはシラティウスをかばうように前に出た。
「腹違いの姉妹なんだってな」
「ドラゴンは私のパパを寝取った。ドラゴンを憎む。だから、私はドラゴンハンターになった。あなたもドラゴンになっているところを、私は見ている」
「だろうな」
蜥蜴族の地に下りたとき、偶然にも蜥蜴族長のフィーと出会った。あんな偶然があるわけがない。
おそらくドラゴンになっているところを見られていたのだ。それで接近してきたのだろう。この様子では、セイの素性が男だということも知られていそうだ。
「蜥蜴人を巻き込みたくはない。場所を変えよう」
「了解。とシドはうなずきます」
シドは話のわかる相手のようだ。ティルに治癒魔法をかける時間をくれた。ティルを治療したあと、シラティウスとセイとシドの3人は、入江へと移動した。敵意をむき出しに襲ってくるという感じはしなかった。
波打ち際にある岩のうえで、蜥蜴人たちは輪を囲んでいる。そして、布服に詰められた粉末を口に運んでいっている。
1人、また1人。何事もなく終えていく。不審者が誰も出てこなければどうしようか……とセイは緊張していた。そのときはセイもこの薬を飲まなくては、シメシがつかない。
「これでこの場にいる者は全員、口にしましたかね」
と、ティルが一同を見回した。
蜥蜴人たちがいっせいにうなずいた。
結局、蜥蜴人に変装しているような人物は、誰も出て来なかったのだ。いや。1人だけ口にしていない者がいる。
「疑っているわけではありませんが、いちおう族長も」
ティルがそう言った。
「わかりました」
フィーは、布袋から粉末を一粒受け取った。しばらくそれを凝視していた。
「どうかしましたか?」
「いや。毒などではないか――とフィーは警戒しております」
「案ずることはありません。みんな口にしていたでしょう」
「わかりました」
フィーは薬を口に含んだ。別に何も起こらなかったようだ。布袋は蜥蜴人たちのあいだを一回りして、セイの手元に戻ってきた。また少しの粉末が残っていた。
「薬の効果がなかったか。あるいは、変装という私の考えが間違えていたのか」
つぶやくようにティルが言った。
刹那――。
蜥蜴族長であるフィーの輪郭が歪みはじめた。カラダが溶けてゆくかのようだ。
「おおっ」と蜥蜴人たちは弾かれたように飛びずさっていた。セイも咄嗟に手に槍を構えた。青々しい海を背景にして、フィーはまったく別の人間になっていた。シラティウスにそっくりの顔をした、灰色の髪の少女だ。
「君は……」
昨夜見た少女に違いなかった。
「その薬。ホントウに効果あったんだ。と、シドは驚嘆を言葉にします」
物静かな口調はフィーのときのままだが、シラティウスによく似ている。
「ドラゴンハンターのシド・アラインか」
「そう」
「蜥蜴族長に化けてたのか」
「肯定」
シドはうなずくと、腰にたずさえていたダガーを抜いた。霧に薄められた陽光を受けて、刃がにぶくかがやいていた。
敵意を感じる。だが、シドから発せられる敵意はどうやらセイではなくて、シラティウスに向けられているようだ。そのシラティウスは、どことなく眠たげな目をして無防備にたたずんでいる。
シラティウスはドラゴンになるという圧倒的なパワーを保持している。しかし、人の姿のまま戦っているところを見たことがない。
「貴様ッ。フィーをどこへやった!」
と、シドに向かってティルが駆けた。
蜥蜴人はチカラが強い。
目にもとまらぬ疾駆であった。
ティルが佩いていた剣を抜いた。シドに切りかかる。
上段に振り上げられた刀剣が、シドめがけて振り下ろされるかと思った。しかし、ピクリとティルの動きがとまった。ティルの腹部にシドのダガーが突き刺さっていた。
「お、おのれ……」
「隙だらけ。チカラだけではどうにもならない。シドはそう忠告します」
ティルさまッ――とまわりの蜥蜴人が声をあげた。
ティルは蜥蜴族騎士長だと聞いている。剣の腕前はかなりのものだったのだろう。怪力に頼った剣だったのかもしれない。それでも、シドの咄嗟の対応は見事だった。生半可な強さではない。
「狙いはなんだ?」
セイが問う。
「ひとつは蜥蜴族の持つ〝封印〟。しかし、それはもう手に入れた」
「そうか」
蜥蜴族長のフィーに化けていたということは、フィーはすでに死んでいるのだろう。フィーだと思って接していたのは、シド・アラインが化けていた存在だったのだ。
〝封印〟を狙っていたということは、神の図書館を目的とする組織の者だろう。
「もうひとつの狙いは、シラティウス・チロの抹殺」
セイはシラティウスをかばうように前に出た。
「腹違いの姉妹なんだってな」
「ドラゴンは私のパパを寝取った。ドラゴンを憎む。だから、私はドラゴンハンターになった。あなたもドラゴンになっているところを、私は見ている」
「だろうな」
蜥蜴族の地に下りたとき、偶然にも蜥蜴族長のフィーと出会った。あんな偶然があるわけがない。
おそらくドラゴンになっているところを見られていたのだ。それで接近してきたのだろう。この様子では、セイの素性が男だということも知られていそうだ。
「蜥蜴人を巻き込みたくはない。場所を変えよう」
「了解。とシドはうなずきます」
シドは話のわかる相手のようだ。ティルに治癒魔法をかける時間をくれた。ティルを治療したあと、シラティウスとセイとシドの3人は、入江へと移動した。敵意をむき出しに襲ってくるという感じはしなかった。
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