《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第101話~薬を使うとき~
不審者が入り込んでいた件――。
蜥蜴人たちは、会議を行うことになった。浜辺に巨大な円盤型の岩が置かれていた。その岩の上で蜥蜴人たちが輪を囲んでいた。中央には葉っぱが敷かれており、族長であるフィーと騎士長であるティルが座していた。
「この会議の内容は、昨夜、セーコ殿とシラティウス殿のいる部屋に、不審者が現われたという件です」
と、ティルが切りだした。
巨大な岩に波が軽く打ちつけられている。
「見間違いということはありませんか? フィーは質問します」
フィーがそう尋ねてくる。
セイとシラティウスも会議の円のなかにまじっていた。見間違いだということはない――とセイが言う前に、ティルが口を開いた。
「いいや。見間違いということはないでしょう。不審なものが我が部族の中に混じっているのは間違いない。アムマイト襲撃のときもそうだ。何者かがアムマイトを呼び寄せる音を鳴らしていたのですから」
ふむ、たしかに――といった声がさざめいた。
ザバーン、とまた波が打ちつけてくる。
「はい」
と、挙手した者がいた。
セイのとなりに座るシラティウスだ。
「何かお気づきになられた点がありましたか」
と、ティルが問いかけた。
「昨夜、セイ……じゃなくて、セーコが見た少女というのはたぶん、私の義妹だと思う。シド・アライン。ドラゴンハンターで、私の命を狙ってる」
それを聞いて、なるほどとセイは得心がいった。言われてみれば、顔が似ていたように感じたのだ。
「その者は蜥蜴族なのですか?」
「違う。人族」
「ならば、人の姿をしているはず。すぐに見つけられると思うのですが……」
たしかにこの集落の人の姿をしている者は、セイとシラティウスぐらいだ。
「何か身を隠す特殊な魔法が、使えるのかもしれない」
と、シラティウスがつぶやいた。
ここまで探しても見つからないのだからな――またしても蜥蜴族の声がさざめいた。
「身を隠す特殊な魔法――か。そういった魔法に心当たりのある者は?」
ティルが周囲に問いかけた。
答える者はいなかった。
セイも印について精通しているわけではない。義妹のことなんだから、何か知らないのか――とシラティウスに小声で尋ねてみた。首を左右に振るだけだった。仕方ない。そもそも妹がいるということすら、知らなかったというのだ。
「カラダを透明にする。あるいは、姿形を変えることができる。そういった能力の持ち主が、まぎれ込んでいるのだと思われます」
そこで言葉を区切って、ティルは周囲の反応をうかがっていた。
言葉が続く。
「アムマイトを呼び寄せるあの特殊な音を鳴らせるのは、我ら蜥蜴族だけ。本来あの音は、蜥蜴族のメスがオスを呼び寄せるときの音です」
なるほど。
それでもともとが男性であるアムマイトが、呼び寄せられていたのだ。
「おそらく、不審者は我らと同じ、蜥蜴族の姿をしていると見て間違いはないでしょう。変装か、私たちとまるっきり同じ姿になれるような魔法なのでしょう」
同じ蜥蜴族――。
蜥蜴人たちは左右にいる者の顔を、怪訝に見つめていた。仲間内にたいする不信感がいっきに吹き上がった。
「あわててはいけません!」
と、ティルが一喝した。
混乱を招くことだけは避けなければいけない。「お前が怪しい」「いいやお前が怪しい」……と疑いあえば、仲間内で殺し合いになりかねない。蜥蜴人たちは重い沈黙にのまれた。海の音がザバーンと響く。
その静けさのなか、セイはひとつ閃いたことがあった。
(そう言えば……)
蜥蜴族の集落に来る前に、《セルヴィル薬店》に寄った。その際、布袋に入った薬剤をもらった。たしかあらゆる変装を解く薬だと言っていた。もともとセイの女装を暴くための薬として作られたそうだが、使えるかもしれない。
「あのー」
と、セイは切り出した。
ティルをはじめて、いっせいに蜥蜴人の視線がセイに向けられた。蜥蜴人は人間の顔と、かぶりものみたいな蜥蜴の顔がついている。いくつもの瞳を向けられているような気分だった。
「なんでしょうか」
とティルがうながした。
「ここにある薬があるんです。これはあらゆる変装をとく薬だそうなんです。この薬を1人ずつ食べてゆけば、仮に変装している者がいれば、見つけることができると思います」
たった一粒、口に含むだけで効果が表れる。
カールはそう言っていた。
「それは、セーコさまも食べるのでしょうか。とフィーは質問するのです」
フィーがジッとセイのことを見つめていた。
「え?」
「もちろん我ら蜥蜴人はセーコさまを信じています。助けてくださったこともあります。ですが、変装していないか調べるために、いちおうセーコさまも摂取するべきかと」
しまった、とセイは度をうしなった。
たしかにみんなに食べさせておいて、セイだけ食べないというのは理不尽だ。しかし、セイがこの薬をふくめば、男であると露見してしまう。
自分で自分の首をしめたようなものだ。
バカ、と隣にいたシラティウスが小さくつぶやいていた。
「私が先に、それをいただきましょう」
困惑しているセイの手から、ティルが薬を受け取った。
粒を一粒。躊躇なく口にふくんだ。
変化は――なかった。
蜥蜴人たちは、会議を行うことになった。浜辺に巨大な円盤型の岩が置かれていた。その岩の上で蜥蜴人たちが輪を囲んでいた。中央には葉っぱが敷かれており、族長であるフィーと騎士長であるティルが座していた。
「この会議の内容は、昨夜、セーコ殿とシラティウス殿のいる部屋に、不審者が現われたという件です」
と、ティルが切りだした。
巨大な岩に波が軽く打ちつけられている。
「見間違いということはありませんか? フィーは質問します」
フィーがそう尋ねてくる。
セイとシラティウスも会議の円のなかにまじっていた。見間違いだということはない――とセイが言う前に、ティルが口を開いた。
「いいや。見間違いということはないでしょう。不審なものが我が部族の中に混じっているのは間違いない。アムマイト襲撃のときもそうだ。何者かがアムマイトを呼び寄せる音を鳴らしていたのですから」
ふむ、たしかに――といった声がさざめいた。
ザバーン、とまた波が打ちつけてくる。
「はい」
と、挙手した者がいた。
セイのとなりに座るシラティウスだ。
「何かお気づきになられた点がありましたか」
と、ティルが問いかけた。
「昨夜、セイ……じゃなくて、セーコが見た少女というのはたぶん、私の義妹だと思う。シド・アライン。ドラゴンハンターで、私の命を狙ってる」
それを聞いて、なるほどとセイは得心がいった。言われてみれば、顔が似ていたように感じたのだ。
「その者は蜥蜴族なのですか?」
「違う。人族」
「ならば、人の姿をしているはず。すぐに見つけられると思うのですが……」
たしかにこの集落の人の姿をしている者は、セイとシラティウスぐらいだ。
「何か身を隠す特殊な魔法が、使えるのかもしれない」
と、シラティウスがつぶやいた。
ここまで探しても見つからないのだからな――またしても蜥蜴族の声がさざめいた。
「身を隠す特殊な魔法――か。そういった魔法に心当たりのある者は?」
ティルが周囲に問いかけた。
答える者はいなかった。
セイも印について精通しているわけではない。義妹のことなんだから、何か知らないのか――とシラティウスに小声で尋ねてみた。首を左右に振るだけだった。仕方ない。そもそも妹がいるということすら、知らなかったというのだ。
「カラダを透明にする。あるいは、姿形を変えることができる。そういった能力の持ち主が、まぎれ込んでいるのだと思われます」
そこで言葉を区切って、ティルは周囲の反応をうかがっていた。
言葉が続く。
「アムマイトを呼び寄せるあの特殊な音を鳴らせるのは、我ら蜥蜴族だけ。本来あの音は、蜥蜴族のメスがオスを呼び寄せるときの音です」
なるほど。
それでもともとが男性であるアムマイトが、呼び寄せられていたのだ。
「おそらく、不審者は我らと同じ、蜥蜴族の姿をしていると見て間違いはないでしょう。変装か、私たちとまるっきり同じ姿になれるような魔法なのでしょう」
同じ蜥蜴族――。
蜥蜴人たちは左右にいる者の顔を、怪訝に見つめていた。仲間内にたいする不信感がいっきに吹き上がった。
「あわててはいけません!」
と、ティルが一喝した。
混乱を招くことだけは避けなければいけない。「お前が怪しい」「いいやお前が怪しい」……と疑いあえば、仲間内で殺し合いになりかねない。蜥蜴人たちは重い沈黙にのまれた。海の音がザバーンと響く。
その静けさのなか、セイはひとつ閃いたことがあった。
(そう言えば……)
蜥蜴族の集落に来る前に、《セルヴィル薬店》に寄った。その際、布袋に入った薬剤をもらった。たしかあらゆる変装を解く薬だと言っていた。もともとセイの女装を暴くための薬として作られたそうだが、使えるかもしれない。
「あのー」
と、セイは切り出した。
ティルをはじめて、いっせいに蜥蜴人の視線がセイに向けられた。蜥蜴人は人間の顔と、かぶりものみたいな蜥蜴の顔がついている。いくつもの瞳を向けられているような気分だった。
「なんでしょうか」
とティルがうながした。
「ここにある薬があるんです。これはあらゆる変装をとく薬だそうなんです。この薬を1人ずつ食べてゆけば、仮に変装している者がいれば、見つけることができると思います」
たった一粒、口に含むだけで効果が表れる。
カールはそう言っていた。
「それは、セーコさまも食べるのでしょうか。とフィーは質問するのです」
フィーがジッとセイのことを見つめていた。
「え?」
「もちろん我ら蜥蜴人はセーコさまを信じています。助けてくださったこともあります。ですが、変装していないか調べるために、いちおうセーコさまも摂取するべきかと」
しまった、とセイは度をうしなった。
たしかにみんなに食べさせておいて、セイだけ食べないというのは理不尽だ。しかし、セイがこの薬をふくめば、男であると露見してしまう。
自分で自分の首をしめたようなものだ。
バカ、と隣にいたシラティウスが小さくつぶやいていた。
「私が先に、それをいただきましょう」
困惑しているセイの手から、ティルが薬を受け取った。
粒を一粒。躊躇なく口にふくんだ。
変化は――なかった。
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