《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする

執筆用bot E-021番 

第94話~消えていた蜥蜴姫~

 どういう状況でフィーと出会ったのか。ティルにそう尋ねられたので、答えることにしたのだが、この説明が非常に難しい。



 まずドラゴンになって飛んでいたということは、隠さなければならない。そして、ティルと出会ったのはマッタクの偶然なのだ。フィーがあの場所で何をしていたのかも定かではない。



「奇妙な話ですね」
 セイがフィーを見つけた状況を話し終えると、ティルはそう言って首をかしげた。



 ティルはさっきから何度も、その桜色の尻尾を左右に揺らしては、首をかしげている。首をかしげるたびに、かぶりものみたいな蜥蜴の着ぐるみが一緒に揺れる。



「たしかに奇妙な出会い方ではありました」



「いや。そうではないのです。フィーのことです。我らが族長であるフィー姫は、数日前から行方をくらましていたのですよ」



「行方不明ってことですか?」
「ええ」



「それは自発的にどこかへ行ってたのですか? それとも誰かに誘拐されていたとか?」



「何もわからないのです。ただフィーは姿をくらましており、我ら蜥蜴族は懸命に捜索したのです」



「それでも見つからなかった?」



「ええ」
 と、ティルはうなずいて、その場に座り込んだ。「どうぞ、腰かけてください」とティルが言った。葉っぱの上にセイも座った。



「オレは人族なので、蜥蜴族の習性などに関してはあまり詳しくないのですが、1人でフラッとどこかへ行ったりするようなことは、珍しいのですか?」



 セイはそう尋ねた。



「もちろん、蜥蜴族も単独で行動することはあります。しかし、フィーはああ見えて族長なのです。どんなときでも護衛がついております。1人で姿をくらますというのは、信じられないことです」



「フィー姫の護衛というのは?」



「私、蜥蜴族騎士長のティ・ティルが常に、フィーのそばに付き添っておりました」



「どういう状況で、フィー姫は姿を消したんですか?」



 セイがそう尋ねると、ティルが言うのを躊躇うように目を泳がせた。それもそうだ。たった今やって来たような部外者に言うようなことではない。セイも深入りしすぎた質問だったなと恥じた。



「いや。あなたのことは信用しても良い、とニヤ・ノ・レから手紙を受け取っています。話を聞いてもらいましょう」



 暗殺者からニヤのことを守ったそうですね――とティルはそう言って、表情をやわらげた。たいしたことではないと謙遜けんそんしたが、少し打ち解けたような雰囲気になった。



「別に隠すようなことでもありません。フィーがいなくなったのは、ある日の明け方のことです。この藁ぶき屋根で私とフィーは寝食をともにしているのですが、朝起きたら、いなくなっていたのです」



 ここで寝泊りしていたのか――と、あらためてセイは室内を見渡した。



 だからといって、何か新しい発見があったわけではない。相変わらず魚臭いことを、再確認した。あとは床に敷かれている葉っぱが意外と心地よいというぐらいだ。



「いなくなったことに気づいて、蜥蜴族みんなでフィー姫のことを探した――と?」



「はい。しかし、見つかりませんでした。それから数日が過ぎて、今日にいたるというわけです。いなくなってから正確には1週間といったところです」



 そんな最中に、セイがフィーを連れて帰ったきたわけだ。
 そりゃ不思議に思われても仕方がない。



「いなくなっているあいだ、何をしていたのかは、本人に聞くのがイチバン早いんじゃないですかね」



「別の者が今、訊いているのだが、どうやら覚えていないそうです」



「頭でも打ったんですかね」
「あるいは、何者かに記憶を消されたか……」



「記憶を?」



「この世には、実にさまざまな印がある。他人の記憶をイジるような印があったとしても、不思議なことではないです」



 記憶を消すといっても、何か理由がないとそんなことはしない。どうも厄介なことに巻き込まれそうな予感がした。



「ひとつ、質問があるんですが」
 と、セイは身を乗り出した。



 足場に敷いてある葉っぱがこすれてガサガサと音をたてた。



「なんです?」



「ニヤからの手紙は、どうやって受け取ったんですか? その……蜥蜴族がどういう方法で、情報をヤリトリしてるのか知りたいんですけど」



 ティルはよどみなく答えてくれた。



「獣人族とのヤリトリの際は、人間と鳥の混血である獣人が手紙を宅配してくれます。蜥蜴族のあいだでは、音でヤリトリするのが主流です」



 ティルが試しにやってくれた。



 ピュルピュルピュル……。
 笛のような音が鳴った。
 他の蜥蜴人がピロピロピロと答えていた。



「音でヤリトリできるというのは、便利ですね」



「それが何か?」



「たいしたことではないです。ありがとうございます」



 別に隠すようなことでもないようだ。



 蜥蜴族のあいだでも手紙でヤリトリしてるのかと尋ねたとき、フィーは知らないと答えていた。



 それも記憶に何か障害があったせいだろうか?



 セイは首をかしげた。



 何はあともあれ、蜥蜴族長が戻ってきて良かった。それは良いのだが、セイの本来の目的はシラティウスの捜索だ。



「あのー」
 依然、正面に座っているティルにそう切り出した。



「なんでしょうか?」



 セイの前には焼き魚やら、フルーツが並べられることになった。族長を連れ戻してくれた感謝のしるしということだ。



「実は、ある人を探しにここに来たんですけど
「どのような人物だろうか?」



「人とドラゴンの混血? だと思うんですけど、人の姿をしているときは、白い髪の少女なんです。ドラゴンになっているときは、白いウロコのドラゴンで」



 細かく人物像をつたえる必要はなかった。
 すぐに理解をしめしてくれた。



「ああ。それなら、もしかすると《蜥蜴の入江》にいるドラゴンのことかもしれませんね」



「ドラゴンが来てるんですか?」



「ええ。蜥蜴族のあいだでも、あの白いドラゴンをどうしようかと話し合っていたところですよ。連れて帰ってくれるのなら、ありがたい。舟を出せずに困っていたのです」



「すみません。うちのシラティウスが迷惑をかけてるみたいで」



「なに、たいした実害は出ていないから、案ずることはありません。暴れている様子もないですし。しかし……」



 ティルは思案にふけるかのように、アゴに手を当てていた。



「何か?」



 シラティウスが、何か問題でも起こしたのではないかと思って緊張した。都市サファリアの双子にも大きな迷惑をかけている。



「いや、何か悲しいことでもあったのかもしれませんね。入江にたたずんでいて、寂しそうにしているものだから」



「そう――ですか」



 シラティウスはセイたちになんの断りもなく、出て行ったのだ。何か理由があるのだろう。今のところ、シラティウスがねるような理由は思い当たらない。



「良ければ、入江までは私が案内しましょう」
 と、ティルが申し出てくれた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品