《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第94話~消えていた蜥蜴姫~
どういう状況でフィーと出会ったのか。ティルにそう尋ねられたので、答えることにしたのだが、この説明が非常に難しい。
まずドラゴンになって飛んでいたということは、隠さなければならない。そして、ティルと出会ったのはマッタクの偶然なのだ。フィーがあの場所で何をしていたのかも定かではない。
「奇妙な話ですね」
セイがフィーを見つけた状況を話し終えると、ティルはそう言って首をかしげた。
ティルはさっきから何度も、その桜色の尻尾を左右に揺らしては、首をかしげている。首をかしげるたびに、かぶりものみたいな蜥蜴の着ぐるみが一緒に揺れる。
「たしかに奇妙な出会い方ではありました」
「いや。そうではないのです。フィーのことです。我らが族長であるフィー姫は、数日前から行方をくらましていたのですよ」
「行方不明ってことですか?」
「ええ」
「それは自発的にどこかへ行ってたのですか? それとも誰かに誘拐されていたとか?」
「何もわからないのです。ただフィーは姿をくらましており、我ら蜥蜴族は懸命に捜索したのです」
「それでも見つからなかった?」
「ええ」
と、ティルはうなずいて、その場に座り込んだ。「どうぞ、腰かけてください」とティルが言った。葉っぱの上にセイも座った。
「オレは人族なので、蜥蜴族の習性などに関してはあまり詳しくないのですが、1人でフラッとどこかへ行ったりするようなことは、珍しいのですか?」
セイはそう尋ねた。
「もちろん、蜥蜴族も単独で行動することはあります。しかし、フィーはああ見えて族長なのです。どんなときでも護衛がついております。1人で姿をくらますというのは、信じられないことです」
「フィー姫の護衛というのは?」
「私、蜥蜴族騎士長のティ・ティルが常に、フィーのそばに付き添っておりました」
「どういう状況で、フィー姫は姿を消したんですか?」
セイがそう尋ねると、ティルが言うのを躊躇うように目を泳がせた。それもそうだ。たった今やって来たような部外者に言うようなことではない。セイも深入りしすぎた質問だったなと恥じた。
「いや。あなたのことは信用しても良い、とニヤ・ノ・レから手紙を受け取っています。話を聞いてもらいましょう」
暗殺者からニヤのことを守ったそうですね――とティルはそう言って、表情をやわらげた。たいしたことではないと謙遜したが、少し打ち解けたような雰囲気になった。
「別に隠すようなことでもありません。フィーがいなくなったのは、ある日の明け方のことです。この藁ぶき屋根で私とフィーは寝食をともにしているのですが、朝起きたら、いなくなっていたのです」
ここで寝泊りしていたのか――と、あらためてセイは室内を見渡した。
だからといって、何か新しい発見があったわけではない。相変わらず魚臭いことを、再確認した。あとは床に敷かれている葉っぱが意外と心地よいというぐらいだ。
「いなくなったことに気づいて、蜥蜴族みんなでフィー姫のことを探した――と?」
「はい。しかし、見つかりませんでした。それから数日が過ぎて、今日にいたるというわけです。いなくなってから正確には1週間といったところです」
そんな最中に、セイがフィーを連れて帰ったきたわけだ。
そりゃ不思議に思われても仕方がない。
「いなくなっているあいだ、何をしていたのかは、本人に聞くのがイチバン早いんじゃないですかね」
「別の者が今、訊いているのだが、どうやら覚えていないそうです」
「頭でも打ったんですかね」
「あるいは、何者かに記憶を消されたか……」
「記憶を?」
「この世には、実にさまざまな印がある。他人の記憶をイジるような印があったとしても、不思議なことではないです」
記憶を消すといっても、何か理由がないとそんなことはしない。どうも厄介なことに巻き込まれそうな予感がした。
「ひとつ、質問があるんですが」
と、セイは身を乗り出した。
足場に敷いてある葉っぱがこすれてガサガサと音をたてた。
「なんです?」
「ニヤからの手紙は、どうやって受け取ったんですか? その……蜥蜴族がどういう方法で、情報をヤリトリしてるのか知りたいんですけど」
ティルはよどみなく答えてくれた。
「獣人族とのヤリトリの際は、人間と鳥の混血である獣人が手紙を宅配してくれます。蜥蜴族のあいだでは、音でヤリトリするのが主流です」
ティルが試しにやってくれた。
ピュルピュルピュル……。
笛のような音が鳴った。
他の蜥蜴人がピロピロピロと答えていた。
「音でヤリトリできるというのは、便利ですね」
「それが何か?」
「たいしたことではないです。ありがとうございます」
別に隠すようなことでもないようだ。
蜥蜴族のあいだでも手紙でヤリトリしてるのかと尋ねたとき、フィーは知らないと答えていた。
それも記憶に何か障害があったせいだろうか?
セイは首をかしげた。
何はあともあれ、蜥蜴族長が戻ってきて良かった。それは良いのだが、セイの本来の目的はシラティウスの捜索だ。
「あのー」
依然、正面に座っているティルにそう切り出した。
「なんでしょうか?」
セイの前には焼き魚やら、フルーツが並べられることになった。族長を連れ戻してくれた感謝のしるしということだ。
「実は、ある人を探しにここに来たんですけど
「どのような人物だろうか?」
「人とドラゴンの混血? だと思うんですけど、人の姿をしているときは、白い髪の少女なんです。ドラゴンになっているときは、白いウロコのドラゴンで」
細かく人物像をつたえる必要はなかった。
すぐに理解をしめしてくれた。
「ああ。それなら、もしかすると《蜥蜴の入江》にいるドラゴンのことかもしれませんね」
「ドラゴンが来てるんですか?」
「ええ。蜥蜴族のあいだでも、あの白いドラゴンをどうしようかと話し合っていたところですよ。連れて帰ってくれるのなら、ありがたい。舟を出せずに困っていたのです」
「すみません。うちのシラティウスが迷惑をかけてるみたいで」
「なに、たいした実害は出ていないから、案ずることはありません。暴れている様子もないですし。しかし……」
ティルは思案にふけるかのように、アゴに手を当てていた。
「何か?」
シラティウスが、何か問題でも起こしたのではないかと思って緊張した。都市サファリアの双子にも大きな迷惑をかけている。
「いや、何か悲しいことでもあったのかもしれませんね。入江にたたずんでいて、寂しそうにしているものだから」
「そう――ですか」
シラティウスはセイたちになんの断りもなく、出て行ったのだ。何か理由があるのだろう。今のところ、シラティウスが拗ねるような理由は思い当たらない。
「良ければ、入江までは私が案内しましょう」
と、ティルが申し出てくれた。
まずドラゴンになって飛んでいたということは、隠さなければならない。そして、ティルと出会ったのはマッタクの偶然なのだ。フィーがあの場所で何をしていたのかも定かではない。
「奇妙な話ですね」
セイがフィーを見つけた状況を話し終えると、ティルはそう言って首をかしげた。
ティルはさっきから何度も、その桜色の尻尾を左右に揺らしては、首をかしげている。首をかしげるたびに、かぶりものみたいな蜥蜴の着ぐるみが一緒に揺れる。
「たしかに奇妙な出会い方ではありました」
「いや。そうではないのです。フィーのことです。我らが族長であるフィー姫は、数日前から行方をくらましていたのですよ」
「行方不明ってことですか?」
「ええ」
「それは自発的にどこかへ行ってたのですか? それとも誰かに誘拐されていたとか?」
「何もわからないのです。ただフィーは姿をくらましており、我ら蜥蜴族は懸命に捜索したのです」
「それでも見つからなかった?」
「ええ」
と、ティルはうなずいて、その場に座り込んだ。「どうぞ、腰かけてください」とティルが言った。葉っぱの上にセイも座った。
「オレは人族なので、蜥蜴族の習性などに関してはあまり詳しくないのですが、1人でフラッとどこかへ行ったりするようなことは、珍しいのですか?」
セイはそう尋ねた。
「もちろん、蜥蜴族も単独で行動することはあります。しかし、フィーはああ見えて族長なのです。どんなときでも護衛がついております。1人で姿をくらますというのは、信じられないことです」
「フィー姫の護衛というのは?」
「私、蜥蜴族騎士長のティ・ティルが常に、フィーのそばに付き添っておりました」
「どういう状況で、フィー姫は姿を消したんですか?」
セイがそう尋ねると、ティルが言うのを躊躇うように目を泳がせた。それもそうだ。たった今やって来たような部外者に言うようなことではない。セイも深入りしすぎた質問だったなと恥じた。
「いや。あなたのことは信用しても良い、とニヤ・ノ・レから手紙を受け取っています。話を聞いてもらいましょう」
暗殺者からニヤのことを守ったそうですね――とティルはそう言って、表情をやわらげた。たいしたことではないと謙遜したが、少し打ち解けたような雰囲気になった。
「別に隠すようなことでもありません。フィーがいなくなったのは、ある日の明け方のことです。この藁ぶき屋根で私とフィーは寝食をともにしているのですが、朝起きたら、いなくなっていたのです」
ここで寝泊りしていたのか――と、あらためてセイは室内を見渡した。
だからといって、何か新しい発見があったわけではない。相変わらず魚臭いことを、再確認した。あとは床に敷かれている葉っぱが意外と心地よいというぐらいだ。
「いなくなったことに気づいて、蜥蜴族みんなでフィー姫のことを探した――と?」
「はい。しかし、見つかりませんでした。それから数日が過ぎて、今日にいたるというわけです。いなくなってから正確には1週間といったところです」
そんな最中に、セイがフィーを連れて帰ったきたわけだ。
そりゃ不思議に思われても仕方がない。
「いなくなっているあいだ、何をしていたのかは、本人に聞くのがイチバン早いんじゃないですかね」
「別の者が今、訊いているのだが、どうやら覚えていないそうです」
「頭でも打ったんですかね」
「あるいは、何者かに記憶を消されたか……」
「記憶を?」
「この世には、実にさまざまな印がある。他人の記憶をイジるような印があったとしても、不思議なことではないです」
記憶を消すといっても、何か理由がないとそんなことはしない。どうも厄介なことに巻き込まれそうな予感がした。
「ひとつ、質問があるんですが」
と、セイは身を乗り出した。
足場に敷いてある葉っぱがこすれてガサガサと音をたてた。
「なんです?」
「ニヤからの手紙は、どうやって受け取ったんですか? その……蜥蜴族がどういう方法で、情報をヤリトリしてるのか知りたいんですけど」
ティルはよどみなく答えてくれた。
「獣人族とのヤリトリの際は、人間と鳥の混血である獣人が手紙を宅配してくれます。蜥蜴族のあいだでは、音でヤリトリするのが主流です」
ティルが試しにやってくれた。
ピュルピュルピュル……。
笛のような音が鳴った。
他の蜥蜴人がピロピロピロと答えていた。
「音でヤリトリできるというのは、便利ですね」
「それが何か?」
「たいしたことではないです。ありがとうございます」
別に隠すようなことでもないようだ。
蜥蜴族のあいだでも手紙でヤリトリしてるのかと尋ねたとき、フィーは知らないと答えていた。
それも記憶に何か障害があったせいだろうか?
セイは首をかしげた。
何はあともあれ、蜥蜴族長が戻ってきて良かった。それは良いのだが、セイの本来の目的はシラティウスの捜索だ。
「あのー」
依然、正面に座っているティルにそう切り出した。
「なんでしょうか?」
セイの前には焼き魚やら、フルーツが並べられることになった。族長を連れ戻してくれた感謝のしるしということだ。
「実は、ある人を探しにここに来たんですけど
「どのような人物だろうか?」
「人とドラゴンの混血? だと思うんですけど、人の姿をしているときは、白い髪の少女なんです。ドラゴンになっているときは、白いウロコのドラゴンで」
細かく人物像をつたえる必要はなかった。
すぐに理解をしめしてくれた。
「ああ。それなら、もしかすると《蜥蜴の入江》にいるドラゴンのことかもしれませんね」
「ドラゴンが来てるんですか?」
「ええ。蜥蜴族のあいだでも、あの白いドラゴンをどうしようかと話し合っていたところですよ。連れて帰ってくれるのなら、ありがたい。舟を出せずに困っていたのです」
「すみません。うちのシラティウスが迷惑をかけてるみたいで」
「なに、たいした実害は出ていないから、案ずることはありません。暴れている様子もないですし。しかし……」
ティルは思案にふけるかのように、アゴに手を当てていた。
「何か?」
シラティウスが、何か問題でも起こしたのではないかと思って緊張した。都市サファリアの双子にも大きな迷惑をかけている。
「いや、何か悲しいことでもあったのかもしれませんね。入江にたたずんでいて、寂しそうにしているものだから」
「そう――ですか」
シラティウスはセイたちになんの断りもなく、出て行ったのだ。何か理由があるのだろう。今のところ、シラティウスが拗ねるような理由は思い当たらない。
「良ければ、入江までは私が案内しましょう」
と、ティルが申し出てくれた。
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