《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第86話~アストランチア~
シラティウスがいなかった。身支度を整えてシラティウスを起こそうとした。フトンをめくると、ベッドの中には枕が詰め込まれていた。
「誰か何か聞いてます?」
フォルモルもキリアも知らないということだ。
「勝手にどこかに行くとは思えんが」
と、キリアはベッドの下を探していた。
そんなところにはいないだろう。キリアと違ってシラティウスの寝相は悪くもない。
「レフィール伯爵のところに戻ったのかしら?
と、フォルモルが首をかしげた。
セイはためしにレフィール伯爵と念話でヤリトリしてみた。レフィール伯爵は神の図書館について調べてくれている。忙しいようだったので、すぐに念話を切った。シラティウスは戻っていないし、仮に戻ったら連絡をくれるということだ。
「どこ行ったんですかね」
「もしかして、例のあれが来たのかしら」
フォルモルはスミレ色の髪に、手ぐしを通しながら言った。
「あれ、ってなんです?」
「ほら、気分が昂ぶると、ドラゴンになっちゃうヤツ」
シラティウスは怒ると、ドラゴンになって暴れる癖があるらしい。それを抑えるために、みずから地下牢に閉じこもっていた過去があるぐらいだ。
が――。
「暴れたにしては、痕跡はありませんけど」
ドラゴンになって暴れていたとしたら、いまごろ宿は吹き飛んでいるだろうし、都市にも被害をおよぼしているはずだ。宿は無事だし、何か騒ぎになっている様子もない。
「初潮が来てビックリしちゃったとか?」
フォルモルがとんでもないことを言う。
「変なことを言うなッ」
と、キリアが顔を赤くしていた。
「そのうち戻ってくるかもしれませんし、冒険者ギルドにでも行ってみますか。朝食も食べたいですし」
「そうね」
セイたちの1日は、冒険者ギルドによってはじまる。
冒険者ギルドで朝食をとって、何かクエストが舞い込んでいないかを調べるのが日課だ。早く蜥蜴族の様子を見に行きたい。だが、近隣の村の危険も無視はできない。なにより、クエストをこなせばお金になる。サファリアでは相変わらず硬貨がつかわれている。
冒険者ギルド。
入ると女たちがセイに群がってくる。
「セイさまは? いまどこにいらっしゃるのですか?」「早くお会いしたいです」「私たちがこんなに探してるのに見つからないなんて」……といった案配だ。
女たちの目には、今のセイは「セイの姉のセーコ」という形に映っている。間違えても男の姿は見せられない。色気という名の炎を吹き上げて、襲いかかってくるに違いない。
しかし、どうもここ数日、セイにたいして怪訝な目を向けてくる者がいる。髪の匂いをかいできたり、胸を触ってきたりする。正体が男であることが、バレかかっているような気がしないでもない。
「はーい。セーコ」
と、亜麻色のベリーショートの娘が慣れなれしく話しかけてきた。
ゴウス・エイン。セーコでいるときと同じぐらいの背丈だ。男になったときのセイに比べれば、すこし小さいぐらいだろう。髪が短いのでボーイッシュな雰囲気があるが、頬の肉付きや瞳のかがやきは女性のものだった。髪を長くしているが、男らしい雰囲気はキリアのほうが強い。
「どうも」
と、セイは警戒心をゆるめずに応じた。
エインは、《愛を求めるもの》のクランを率いるリーダーだった。冒険者の階級は《キングプロテア》に次ぐ《シャクナゲ級》。油断できない。なにせ、男を探し出すことを大義に掲げているクランだ。
「どうだい最近は?」
と肩を寄せてくる。女らしい丸みを帯びた肩が、コツンと接触する。
「どう――って言われても」
変わったことと言えば、エインがよく接してくるようになったことだ。服をめくろうとしたり、やたらカラダを触ってきたりする。
たぶん、男ではないかと疑われているのだ。
「私はこれから、朝食だけど、一緒にどうだい?」
セーコは私たちと一緒に食べるので、とフォルモルとキリアが、エインのことを押しのけた。
「いいじゃないか。一緒に飯を食うぐらい」
「だいたい、貴殿は失礼だ。セーコのカラダを勝手に触ったりして」
キリアが突っかかっている。
他人にセーコと女性の名前で呼ばれるのは、くすぐったいものがある。服を着替えるときや排泄時なんかは、セイはいちいち男に戻っているぐらいだ。自分の胸を極力見ないようにもしている。
「女同士なんだし。問題ないよ」
と、エインが応酬していた。
フォルモルとキリアは、セイが他の女性と接することが気にくわないようなのだ。セイが他の女性と話をしていると、よくケンカになっている。それも「クロカミ・セーコが男なのではないか」――という疑惑のもとになっているのだろう。
いつからこの世界は、こんな桃色にただれてしまったのだろうかとセイはヘキエキした。
「じゃあ、一緒に食べましょうか」
と、セイが仲裁にはいった。
セイは、カルボナーラとトマトサラダを注文した。ギルドで働いているメイド姿の娘が運んできてくれる。
セイは朝からシッカリ食べるほうだ。都市サファリアを拠点にして良かったと思える1つは、料理が美味しいことだった。
「わかっちゃいないねー」
と、エインが言った。
フォルモルとキリアが、セイの左右を陣取っている。エインはセイの正面に座っていた。
「都市サファリアの冒険者ギルドの名物と言えば、出汁巻き卵なんだよ」
「出汁巻き卵?」
「私が奢ってやるから、食ってみなよ」
エインが注文してくれた。
出汁巻き卵が運ばれてくる。
たしかに形の整った卵だった。ナイフで切り分けてみると、中から出汁があふれ出てきた。
「ここの料理人は、出汁巻き卵をつくることだけは天下一品なんだよ。コツはイッサイ触らないことってさ」
「触らない?」
「そう。胴のフライパンで、こう、ポンポンと上手い案配にひっくり返すんだよ。だから、出汁が逃げない。味が凝縮される。ここでしか食えないシロモノだよ」
食べてみた。
「な、美味いだろ」
と、エインが同意を求めてくる。
たしかに美味しかった。甘い卵の味が口のなかでふくらんでいった。
「誰か何か聞いてます?」
フォルモルもキリアも知らないということだ。
「勝手にどこかに行くとは思えんが」
と、キリアはベッドの下を探していた。
そんなところにはいないだろう。キリアと違ってシラティウスの寝相は悪くもない。
「レフィール伯爵のところに戻ったのかしら?
と、フォルモルが首をかしげた。
セイはためしにレフィール伯爵と念話でヤリトリしてみた。レフィール伯爵は神の図書館について調べてくれている。忙しいようだったので、すぐに念話を切った。シラティウスは戻っていないし、仮に戻ったら連絡をくれるということだ。
「どこ行ったんですかね」
「もしかして、例のあれが来たのかしら」
フォルモルはスミレ色の髪に、手ぐしを通しながら言った。
「あれ、ってなんです?」
「ほら、気分が昂ぶると、ドラゴンになっちゃうヤツ」
シラティウスは怒ると、ドラゴンになって暴れる癖があるらしい。それを抑えるために、みずから地下牢に閉じこもっていた過去があるぐらいだ。
が――。
「暴れたにしては、痕跡はありませんけど」
ドラゴンになって暴れていたとしたら、いまごろ宿は吹き飛んでいるだろうし、都市にも被害をおよぼしているはずだ。宿は無事だし、何か騒ぎになっている様子もない。
「初潮が来てビックリしちゃったとか?」
フォルモルがとんでもないことを言う。
「変なことを言うなッ」
と、キリアが顔を赤くしていた。
「そのうち戻ってくるかもしれませんし、冒険者ギルドにでも行ってみますか。朝食も食べたいですし」
「そうね」
セイたちの1日は、冒険者ギルドによってはじまる。
冒険者ギルドで朝食をとって、何かクエストが舞い込んでいないかを調べるのが日課だ。早く蜥蜴族の様子を見に行きたい。だが、近隣の村の危険も無視はできない。なにより、クエストをこなせばお金になる。サファリアでは相変わらず硬貨がつかわれている。
冒険者ギルド。
入ると女たちがセイに群がってくる。
「セイさまは? いまどこにいらっしゃるのですか?」「早くお会いしたいです」「私たちがこんなに探してるのに見つからないなんて」……といった案配だ。
女たちの目には、今のセイは「セイの姉のセーコ」という形に映っている。間違えても男の姿は見せられない。色気という名の炎を吹き上げて、襲いかかってくるに違いない。
しかし、どうもここ数日、セイにたいして怪訝な目を向けてくる者がいる。髪の匂いをかいできたり、胸を触ってきたりする。正体が男であることが、バレかかっているような気がしないでもない。
「はーい。セーコ」
と、亜麻色のベリーショートの娘が慣れなれしく話しかけてきた。
ゴウス・エイン。セーコでいるときと同じぐらいの背丈だ。男になったときのセイに比べれば、すこし小さいぐらいだろう。髪が短いのでボーイッシュな雰囲気があるが、頬の肉付きや瞳のかがやきは女性のものだった。髪を長くしているが、男らしい雰囲気はキリアのほうが強い。
「どうも」
と、セイは警戒心をゆるめずに応じた。
エインは、《愛を求めるもの》のクランを率いるリーダーだった。冒険者の階級は《キングプロテア》に次ぐ《シャクナゲ級》。油断できない。なにせ、男を探し出すことを大義に掲げているクランだ。
「どうだい最近は?」
と肩を寄せてくる。女らしい丸みを帯びた肩が、コツンと接触する。
「どう――って言われても」
変わったことと言えば、エインがよく接してくるようになったことだ。服をめくろうとしたり、やたらカラダを触ってきたりする。
たぶん、男ではないかと疑われているのだ。
「私はこれから、朝食だけど、一緒にどうだい?」
セーコは私たちと一緒に食べるので、とフォルモルとキリアが、エインのことを押しのけた。
「いいじゃないか。一緒に飯を食うぐらい」
「だいたい、貴殿は失礼だ。セーコのカラダを勝手に触ったりして」
キリアが突っかかっている。
他人にセーコと女性の名前で呼ばれるのは、くすぐったいものがある。服を着替えるときや排泄時なんかは、セイはいちいち男に戻っているぐらいだ。自分の胸を極力見ないようにもしている。
「女同士なんだし。問題ないよ」
と、エインが応酬していた。
フォルモルとキリアは、セイが他の女性と接することが気にくわないようなのだ。セイが他の女性と話をしていると、よくケンカになっている。それも「クロカミ・セーコが男なのではないか」――という疑惑のもとになっているのだろう。
いつからこの世界は、こんな桃色にただれてしまったのだろうかとセイはヘキエキした。
「じゃあ、一緒に食べましょうか」
と、セイが仲裁にはいった。
セイは、カルボナーラとトマトサラダを注文した。ギルドで働いているメイド姿の娘が運んできてくれる。
セイは朝からシッカリ食べるほうだ。都市サファリアを拠点にして良かったと思える1つは、料理が美味しいことだった。
「わかっちゃいないねー」
と、エインが言った。
フォルモルとキリアが、セイの左右を陣取っている。エインはセイの正面に座っていた。
「都市サファリアの冒険者ギルドの名物と言えば、出汁巻き卵なんだよ」
「出汁巻き卵?」
「私が奢ってやるから、食ってみなよ」
エインが注文してくれた。
出汁巻き卵が運ばれてくる。
たしかに形の整った卵だった。ナイフで切り分けてみると、中から出汁があふれ出てきた。
「ここの料理人は、出汁巻き卵をつくることだけは天下一品なんだよ。コツはイッサイ触らないことってさ」
「触らない?」
「そう。胴のフライパンで、こう、ポンポンと上手い案配にひっくり返すんだよ。だから、出汁が逃げない。味が凝縮される。ここでしか食えないシロモノだよ」
食べてみた。
「な、美味いだろ」
と、エインが同意を求めてくる。
たしかに美味しかった。甘い卵の味が口のなかでふくらんでいった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
32
-
-
39
-
-
55
-
-
440
-
-
1978
-
-
93
-
-
15254
-
-
124
-
-
0
コメント