《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする

執筆用bot E-021番 

第84話~幕間Ⅴ~

「あとはドラゴンハンターのシドが、蜥蜴族の〝封印〟を持って帰ってきたら、すべてそろうわけか」



 マッシュは、タギールの背中に語りかけた。タギールはエルフの生首と獣人族長の尻尾をしまいこんでいた。すりつぶしかけの薬草が酸味のキツイ臭いを放っている。天井には蜘蛛の巣がかかっている。よくこんな部屋が許されるな――と思った。



「それにしても、その〝完全印〟というのは、我ら3人だけ享受するものなのか? それとも、このシルベ教の者たちもか? 生き残っている女たちにも与えるのか?」



「詳しいことまでは、わかんねェよ」



 とりあえず、3人で様子を見る。みんなで分け与えられるようであれば、分け与える。そういったことをタギールは言った。



 もし1人だけしか手に入れられないのだとしたら、そのときは他の者を出し抜けば良いかとマッシュは思った。



「シルベ教の内部はどうなっておる?」



「悪魔の雨に降られて教皇はモンスターになった。次期教皇は誰にするか――って、口論中だ」



「誰になるのだ?」



「わかんねェよ。いちおう枢機卿である私も候補に入ってる。神の図書館への接続を試みるべきだって言ってる連中は、私のほうについてくれてる。それに反対してる勢力もある」



 シルベ教も一枚岩ではないのだ。



「まるで貴族の派閥争いだな」
「ンな感じだ」



 タギールは関心がなさそうに言う。だが、本心は違う。マッシュにはそれがわかる。タギールは次期教皇の座を虎視眈々とねらっている。そういう目をしている。



 無事にふたつの〝封印〟を金庫のなかにしまうことができたようだ。よっこらせ、とタギールはマッシュのほうに顔を向けた。



「それで何の用事だ? 何かトンデモナイ発見をした。そういう顔をしてるぜ」



「バレておったか」
 マッシュは言われて、肉付きの良い自分の顔をナでた。




「何を見つけた?」
「〝英雄印〟の男に会った」



「!」
 タギールの目が見開いた。
 上体を乗り出してくる。



「くわしく話せ」
「わかっておる」



 ケイテ城でクロカミ・セイとキリア・ユーナと対決したことを話した。



「〝怪力印〟の女か。たしか私のケルベロスを倒したときもいたな」
 と、悔しそうにタギールは顔をゆがめていた。


 
 机上にあったハチミツのかたまりを無造作に口の中に放り込んで、かみ砕いていた。



「〝英雄印〟を持つ男は、おそらくキリア・ユーナと行動を共にしているのだ」



「フォルモルって女も一緒だ」
 とタギールが言った。



「あの女たちを見張っておけば、〝英雄印〟の男がどこにいるのか見つけられるはずだ」



「そうだな」



「すでに〝無限剣印〟と〝斬印〟を会得しておった。早いうちに処理しておかないと厄介なことになるぞ」



〝英雄印〟を持つ者は、〝封印〟すら会得できるのだ。せっかく神の図書館へ接続することができても、〝英雄印〟を持つ者に邪魔されてしまう可能性が大きい。そしてなにより、新人類になるのに男は必要ない。



 個人で完璧な存在になれるのだから、男など必要ないのだ。



 悪魔の雨が男を排除した。
 それはすなわち、新人類になる権利は女にのみ与えられているということに違いない。



「処理――暗殺か?」
「そうだ」



 まっこうから戦って勝てる相手ではない。ドラゴンになってケルベロスを食い殺したともタギールから聞いている。悪魔の雨が振る前に探し出して始末しておくべきだった。



 毒殺。
 だまし討ち。
 そういった手口が効果的だろう。



 そのためには〝英雄印〟を持つ男の居場所を見つけ出さなければならない。



「〝無限剣印〟や〝斬印〟。充分に強力な魔法だ。しかし、ドラゴンになるというのは、もしや……」



「どうかしたかよ」
 イラダチのふくまれた怪訝な表情を、タギールは向けてきた。



「ドラゴン族がバックについているということは?」



「知らねェよ。それこそシドの領分だろう」



「そうだな」
 と、マッシュはうなずいた。



 暗殺者であるレリル・ロロナを手放してしまったのが、いかにも惜しい。マッシュの調べによると、獣人族の牢屋から脱獄したらしいのだが、足取りがつかめない。



「とりあえずシドに急がせるしかねェ」
 タギールはそう言った。



 マッシュもタギールも、そしていま蜥蜴族のもとへ向かっているシド・アラインも、大の男嫌いだった。男性恐怖症とさえ言える。だからこそ、神の図書館への接続という目的のために団結できているのかもしれない。

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