《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする

執筆用bot E-021番 

第75話~ケイテ城の前に~

 マッシュ・ポトトという者は、亡霊をあやつるチカラを持っている。その魔法を使って獣人族長を殺した。そして〝封印〟を奪った。



 さらにロロナに依頼して、8獣長を殺させていたということだ。セイに強力な印が渡らないようにするための、対策ということだった。神の図書館アカシック・レコードという単語も呟いていた――と言う。



 すべてロロナから引き出した証言だ。



「いや、それにしても、よくそれだけの情報を、あの暗殺者から話を聞きだせたな」



 セイにあてがわれた部屋。
 洞窟の一室にて、キリアと2人で話をしていた。キリアはイスに座っているが、セイはベッドに腰かけていた。



「それはまぁ……いろいろとありまして」



 まさか腋をナめまわして、証言を吐かせたとは言えない。異様に甘い味がまだ、セイの舌に残っていた。



「しかし、まさかマッシュ・ポトトの名前をここで聞くとはな。何か因果のようなものを感じる」



 はぁ、とキリアはため息を吐き落とした。



「知り合いなんですか?」



「ここに来る前にすこし話しただろう。私の父は、傭兵団になる前に、この近くの領主に仕えていた――と」



「その領主が?」
「そうだ。マッシュ・ポトトだ」



 キリアはそう言うと、歯ぎしりをした。尊敬する父親を追放した領主なのだ。キリアにとっては、あまり気持ちの良い相手ではないのだろう。



「たしかに何か妙な因果を感じますね」



 エルフ族のケルベロス騒動のさいには、『フォルモルとタギール・ジリアル』という敵対関係が生まれた。そしてここ、獣人族のもとで『キリアとマッシュ・ポトト』という敵対関係が生まれることになったのだ。



「そうとわかればグズグズしてられん。すぐにケイテ城へ向かい、ひっ捕らえに行こうではないか。まだ獣人族の〝封印〟を持っているのであれば、取り返せるかもしれん」



「そうなんですが、もう夜更けでしょう」



 暗い。
 そのうえ霧がたちこめている。外は視界が悪くて迂闊に歩くことさえできない。



「なら、見逃すというのか!」



 まるでセイが悪いとでも言うように、キリアが怒鳴った。



「そうは言ってませんよ。今、ニヤたち獣人族がケイテ城まで行く安全な道を探ってくれているそうですから」



「そうか」
 怒鳴って済まなかった、とキリアはあやまった。



「キリアにとっては、マッシュ・ポトトは親の仇ということになるわけですか」



「そうだな」
「父親に会いたいと言ってましたね」



「そうだ。〝霊媒印〟は?」
 ハッとしたように黒瞳を向けてきた。



「いただきましたよ」



「なら、さっそく召喚してみてはくれんか? 私は、父に謝りたいのだ」



「謝る?」



「私の父をはじめに、傭兵団が悪魔の雨を受けてモンスターになった。そのモンスターを処理したのは私なのだ。そのことを会って謝りたいのだ」



 キリアはそう言うと、唇をかみしめた。



「そうでしたか」



 そう言われると、セイも己の胸を突かれたような気持ちになった。



 セイも今までゴブリンを何匹が殺している。あのゴブリンも、もとは人間だったのだ。あんまりにも変貌しているために何も感じなかった。しかし、考えてみれば、もともと人間だった存在を殺していることになるのだ。



「オレはそこまで考えが回りませんでした」
 自分が冷徹な人間なのかと、気分が暗くなった。



「気にすることはない。モンスターはもはや人ではないのだ。躊躇すればこちらが死ぬ。人だとは思わんほうが良い。身内や友達の場合は別だがな」



「ええ」



 レフィール伯爵に出会うまで、セイには親しい相手という存在がいなかった。だから、鈍感になっていたのかもしれない。



「たしか〝霊媒印〟には形見が必要なのだったな。これで、いけるだろうか?」



 キリアは言うと、懐から錆びついたナイフを取り出した。ゴルゴン鉱山についてイチバンに見せてくれたものだ。



「やってみます」



 テーブルの上にナイフを置いた。以前にニヤが獣人族長の亡霊を召喚したときのように、キリアの父親を呼びだそうと試みた。〝霊媒印〟の使い方はわかる。だが、反応がなかった。



「呼び出せんか?」
 キリアが不安そうな顔をする。



 普段は表情をひきしめているからか、弱っている表情を見るとドキッとするものがあった。



「いえ――なんか――。邪魔されてる感じがします」



「邪魔?」



「〝霊媒印〟の魔法が死者を呼び寄せようとはしているんですが、強いチカラで別の方向に引っ張られているような感覚になります」



 釣りに似ている。
 それも巨大な魚を相手にしている気分だ。



 引っ張ろうとするのだが、魚影すら見えて来ない。それどころかセイのほうが、引きずり込まれそうになる。何度か試みた。最後は糸が切れたように、何も反応しなくなった。



「ダメか」
 と、キリアは肩を落とした。



 そのとき、ケイテ城までの道を確保することができた――とニヤが部屋に入ってきた。

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