《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第69話~レリル・ロロナ~
ゴルゴン鉱山近くにあった城跡を、レリル・ロロナは根城にしていた。
城跡と言うべきなのかは、良くわからなかった。城壁も城塔も多少は崩れているが、ちゃんと残っている。今でもちゃんと城ではあるのだ。ただ、治める者がいなくなった。じゃあ、やっぱり城跡と言うべきなのかもしれない。
(いや、でも城だしなぁ……)
と思う。
ぜんぜん跡じゃないのだ。
山賊の砦と化していた。居ついていた山賊はロロナが全員殺した。モンスターもいたが、一緒に処理した。腕やら脚やら肉片があたりに散らばっている。
「とりゃっ」
と、ロロナは落ちてる腕だか脚だからわからない肉片を蹴り飛ばした。城壁に叩きつけられて、地面に落ちた。
山賊に使われていたのだから、城跡と言うべきなのか。でも、使われて機能しているなら、城なんじゃないのか。
「うーっ。わからないのだ」
細かいことが気になり過ぎる。
それがロロナの悪い癖だった。
「また妙なことを考えていたのだな。暗殺者の娘」
このケイテ城のもと城主であるマッシュ・ポトトが問いかけてきた。白髪を真ん中分けにしているので、多少は威厳が感じられないこともない。だが、まぶたの肉がたるんでおり、鼻は丸く、頬がふくれあがっている。針で突いたら爆発するんじゃないかと思う。女性のはずだが、男に見えないこともない。
「ご機嫌ようなのだ。糞デブ領主さま」
「相変わらず口が悪いな。トマト娘」
髪が赤く、瞳が赤く、真っ赤なドレスを着ている。だからトマト娘と呼ばれていた。得物の鎌も赤く塗りこんでいる。返り血を浴びて洗うのが大変だから、服も鎌もすべて赤色で統一することにしたのだ。
「ここは城なのか?」
「城跡だ。もう城主も大臣も使用人も、騎士だっていないのだからな」
マッシュは肉をふるわせてそう返した。
しゃべるとアゴの肉がふるえるのだ。
「でも、城として機能しているのだ」
石で組み上げられた城壁に、ロロナは寄りかかった。
石は冷たかった。
「人がいなければ、城跡だろう」
「でも、城はあるのだ。城壁もあるし、あそこには城門棟もあるのだ。城塔だってちゃんと建っているのだ」
「形はあっても死体と同じだ。人も死ねば意識が失せる。肉体は残っても魂がなければ、それはもう人間ではない。違うか?」
「わからないのだ。でも人間と城は違うのだ。こうして誰かが使えば、城として機能するのだ」
ちッ、とポトトは舌打ちをした。
なんで?
そう疑問を問いかけると、必ずイラダチを向けられる。わからないものは気持ちが悪い。この城も気持ち悪い。
「ていっ」
と、鎌で城壁を斬りつけた。
ロロナの印は、〝斬印〟。ありとあらゆるものを斬ることができる。城壁の一部が砂塵をふきあげて崩れた。これで、すこしはスッキリする。
「糞デブ領主さまに言われた通り、8獣長を殺してまわっているのだ。あと1人で全部片付くのだ」
マッシュの苛立ちが引っ込んだ。満足気にうなずく。
うなずくとアゴが何重にもなった。
「8獣長は特殊な印であったり、強力な印を持つ者が多い。〝英雄印〟を持つ者に印のチカラを与えてはならん」
「それはあれか? 悪魔の雨に降られても、男のままでいられる――とかいうヤツか? そんなヤツがホントウにいるのか?」
男がいる。
不思議だ。
なんでだろう。そこにもまた疑問が沸いてくる。
「いる。私も半信半疑だったが、タギールの召喚したケルベロスを、ドラゴンの姿で即死させたということだった。あの小娘のケルベロスを即死させたのだ。かなり手強いぞ」
「へえ。楽しみなのだ」
「楽しみ?」
ロロナは背負っている大鎌の重みを意識した。
この大鎌に切れないものはなかった。もともとは父の鎌だった。父は漁師だった。この大鎌を引っ掻けて人の何倍もの大きさの魚をとっていたそうだ。最初に殺したのは両親だった。虐待を受けていた。寄る辺がなかった。気づいたら父の持っていた大鎌で、両親の首を刈っていた。
何かが吹っ切れた。
細かいことを考えてしまう。考えないようにするには、刈り殺してしまえば良い。そうすれば楽になる。鍛冶屋に頼んで、父の鎌を、もっと扱いやすい形にしてもらった。命を刈り取る形になった。
「私の鎌はすべてを斬るのだ。この鎌を止めれるのか見てみたいのだ」
よせよせ、とマッシュは笑った。
笑うと、また肉がふるえる。
なぜ、人は肉がつくのだろうか。考えてしまう。考えはじめるとイライラしてきて、殺してしまいたくなる。
でも、これは殺せない。
いちおうは今の雇い主だ。
「お前の役目は8獣長を片付けることだ。余計なものに手を出すことはない」
「どうして、〝英雄印〟を持つ男に、印がわたるとダメなのだ?」
「神の図書館を守るためだ」
「なんなのだ。それは」
ロロナはフィルドランタの土地を歩き回ってきた。そんな話は聞いたことがない。
マッシュの声がすこし冷たくなった。
「お前が気にすることではない。ただ1つ言えるのは、神の図書館への接続は、人類の進化につながるということだ」
「意味不明なーのだ」
神の図書館。
いったい何なのか。
気になる。
よくわからないものは潰してしまいたい。潰してしまいのだが、それが何なのかわからないいじょうは、手出しできない。
「だからお前の気にすることではない。お前は何も考えず、最後の8獣長を殺せばそれで良い。すでに2つ目の〝封印〟はここにあるのだ」
マッシュはネコの尻尾のようなものをつかんでいる。尾の先には見たことのない印が刻まれていた。
それが〝封印〟なのだろう。
マッシュが獣人族の長を殺して持ち帰ってきたものだ。
城跡と言うべきなのかは、良くわからなかった。城壁も城塔も多少は崩れているが、ちゃんと残っている。今でもちゃんと城ではあるのだ。ただ、治める者がいなくなった。じゃあ、やっぱり城跡と言うべきなのかもしれない。
(いや、でも城だしなぁ……)
と思う。
ぜんぜん跡じゃないのだ。
山賊の砦と化していた。居ついていた山賊はロロナが全員殺した。モンスターもいたが、一緒に処理した。腕やら脚やら肉片があたりに散らばっている。
「とりゃっ」
と、ロロナは落ちてる腕だか脚だからわからない肉片を蹴り飛ばした。城壁に叩きつけられて、地面に落ちた。
山賊に使われていたのだから、城跡と言うべきなのか。でも、使われて機能しているなら、城なんじゃないのか。
「うーっ。わからないのだ」
細かいことが気になり過ぎる。
それがロロナの悪い癖だった。
「また妙なことを考えていたのだな。暗殺者の娘」
このケイテ城のもと城主であるマッシュ・ポトトが問いかけてきた。白髪を真ん中分けにしているので、多少は威厳が感じられないこともない。だが、まぶたの肉がたるんでおり、鼻は丸く、頬がふくれあがっている。針で突いたら爆発するんじゃないかと思う。女性のはずだが、男に見えないこともない。
「ご機嫌ようなのだ。糞デブ領主さま」
「相変わらず口が悪いな。トマト娘」
髪が赤く、瞳が赤く、真っ赤なドレスを着ている。だからトマト娘と呼ばれていた。得物の鎌も赤く塗りこんでいる。返り血を浴びて洗うのが大変だから、服も鎌もすべて赤色で統一することにしたのだ。
「ここは城なのか?」
「城跡だ。もう城主も大臣も使用人も、騎士だっていないのだからな」
マッシュは肉をふるわせてそう返した。
しゃべるとアゴの肉がふるえるのだ。
「でも、城として機能しているのだ」
石で組み上げられた城壁に、ロロナは寄りかかった。
石は冷たかった。
「人がいなければ、城跡だろう」
「でも、城はあるのだ。城壁もあるし、あそこには城門棟もあるのだ。城塔だってちゃんと建っているのだ」
「形はあっても死体と同じだ。人も死ねば意識が失せる。肉体は残っても魂がなければ、それはもう人間ではない。違うか?」
「わからないのだ。でも人間と城は違うのだ。こうして誰かが使えば、城として機能するのだ」
ちッ、とポトトは舌打ちをした。
なんで?
そう疑問を問いかけると、必ずイラダチを向けられる。わからないものは気持ちが悪い。この城も気持ち悪い。
「ていっ」
と、鎌で城壁を斬りつけた。
ロロナの印は、〝斬印〟。ありとあらゆるものを斬ることができる。城壁の一部が砂塵をふきあげて崩れた。これで、すこしはスッキリする。
「糞デブ領主さまに言われた通り、8獣長を殺してまわっているのだ。あと1人で全部片付くのだ」
マッシュの苛立ちが引っ込んだ。満足気にうなずく。
うなずくとアゴが何重にもなった。
「8獣長は特殊な印であったり、強力な印を持つ者が多い。〝英雄印〟を持つ者に印のチカラを与えてはならん」
「それはあれか? 悪魔の雨に降られても、男のままでいられる――とかいうヤツか? そんなヤツがホントウにいるのか?」
男がいる。
不思議だ。
なんでだろう。そこにもまた疑問が沸いてくる。
「いる。私も半信半疑だったが、タギールの召喚したケルベロスを、ドラゴンの姿で即死させたということだった。あの小娘のケルベロスを即死させたのだ。かなり手強いぞ」
「へえ。楽しみなのだ」
「楽しみ?」
ロロナは背負っている大鎌の重みを意識した。
この大鎌に切れないものはなかった。もともとは父の鎌だった。父は漁師だった。この大鎌を引っ掻けて人の何倍もの大きさの魚をとっていたそうだ。最初に殺したのは両親だった。虐待を受けていた。寄る辺がなかった。気づいたら父の持っていた大鎌で、両親の首を刈っていた。
何かが吹っ切れた。
細かいことを考えてしまう。考えないようにするには、刈り殺してしまえば良い。そうすれば楽になる。鍛冶屋に頼んで、父の鎌を、もっと扱いやすい形にしてもらった。命を刈り取る形になった。
「私の鎌はすべてを斬るのだ。この鎌を止めれるのか見てみたいのだ」
よせよせ、とマッシュは笑った。
笑うと、また肉がふるえる。
なぜ、人は肉がつくのだろうか。考えてしまう。考えはじめるとイライラしてきて、殺してしまいたくなる。
でも、これは殺せない。
いちおうは今の雇い主だ。
「お前の役目は8獣長を片付けることだ。余計なものに手を出すことはない」
「どうして、〝英雄印〟を持つ男に、印がわたるとダメなのだ?」
「神の図書館を守るためだ」
「なんなのだ。それは」
ロロナはフィルドランタの土地を歩き回ってきた。そんな話は聞いたことがない。
マッシュの声がすこし冷たくなった。
「お前が気にすることではない。ただ1つ言えるのは、神の図書館への接続は、人類の進化につながるということだ」
「意味不明なーのだ」
神の図書館。
いったい何なのか。
気になる。
よくわからないものは潰してしまいたい。潰してしまいのだが、それが何なのかわからないいじょうは、手出しできない。
「だからお前の気にすることではない。お前は何も考えず、最後の8獣長を殺せばそれで良い。すでに2つ目の〝封印〟はここにあるのだ」
マッシュはネコの尻尾のようなものをつかんでいる。尾の先には見たことのない印が刻まれていた。
それが〝封印〟なのだろう。
マッシュが獣人族の長を殺して持ち帰ってきたものだ。
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