《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする

執筆用bot E-021番 

第53話~クロカミ・セーコ~

「《炎舞》」



 イティカは、両手の平から生やしているフランベルジュで、食いついてくるケルベロスをいなしていた。



 フランベルジュは独特な刃の形状をしている。対象に治りにくい傷を残すためだ。その刃はまるで揺らめく炎のようなので、《炎舞》という技名をつけられた。



 この技はイティカが考案したものではない。「なんか炎が揺らめいてるみたいですね」とザンザとテルデルンから言われたのだ。



(あの2人は無事に村人たちを逃がせただろうか……)



 もうこれ以上は、ケルベロスを押さえつけることはできない。ケルベロスには数本の剣が突き刺さっている。その鎧のように固い皮膚を何本かは突き刺すことができたのだ。しかし、ケルベロスに衰えは感じなかった。むしろ傷つけば傷つくほどに、ケルベロスは猛っていく。



 弱っているのは、イティカのほうだ。



 右肩の肉がえぐられている。ワキバラからも血が出ている。右足の感覚がほとんどない。意識がモウロウとしている。



「どうした? どうした? もう終わりかよ」
 と、ケルベロスの背中でタギールが笑っていた。タギールへの攻撃を何度か仕掛けているのだが、すべてケルベロスにはばまれてしまう。



(ここが私の限界なのか……)



 今までイティカは色んな人の、頭打ち、を見てきた。人の成長には限度がある。



 たとえば、イティカに剣を教えた師範だ。イティカだって独学で剣を覚えたわけではない。師匠がいた。師匠の剣技には何十年という研鑽けんさんを積んできた風格があった。しかし結局は、イティカはその師匠に勝った。そしてその師も「私はこれ以上は強くはなれん」と自覚していた。



 イティカは〝無限剣印〟を持っていた。
 剣術には才能もあったと思う。
 それでも、ここが――。



(私の頭打ちか)



 これ以上は強くなれない。
 ケルベロスに勝てる景色が見えない。



 今までつちかってきた努力が、鉄槌によって叩き潰されていくかのような屈辱をおぼえた。



「人は、悲しい」
 モウロウとする意識のなか、思わずつぶやいていた。



「そう。人は悲しい。だが神の図書館にさえ行くことができれば、そんな悲劇もなくなる」



「またそれか」



「理解しろとは言わねェよ。これで終わりだ」



 ケルベロスが大口を開けて、イティカに迫ってきた。これはもう防ぎきれない。逃げようとはしたが、ぬかるんだ大地がイティカの脚を捕えて離してくれなかった。



(師匠……。どうやら私はここまでのようです……)



 死を覚悟した。
 刹那。



 イティカの目の前に、艶やかな黒髪がなびいた。英雄王の印を持つ青年かと思ったが、そうではなかった。



「君は……」
 彼女はケルベロスの顔面に深々と槍を突き刺していた。



 たしかクロカミ・セーコとか名乗った女性だ。

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