《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第53話~クロカミ・セーコ~
「《炎舞》」
イティカは、両手の平から生やしているフランベルジュで、食いついてくるケルベロスをいなしていた。
フランベルジュは独特な刃の形状をしている。対象に治りにくい傷を残すためだ。その刃はまるで揺らめく炎のようなので、《炎舞》という技名をつけられた。
この技はイティカが考案したものではない。「なんか炎が揺らめいてるみたいですね」とザンザとテルデルンから言われたのだ。
(あの2人は無事に村人たちを逃がせただろうか……)
もうこれ以上は、ケルベロスを押さえつけることはできない。ケルベロスには数本の剣が突き刺さっている。その鎧のように固い皮膚を何本かは突き刺すことができたのだ。しかし、ケルベロスに衰えは感じなかった。むしろ傷つけば傷つくほどに、ケルベロスは猛っていく。
弱っているのは、イティカのほうだ。
右肩の肉がえぐられている。ワキバラからも血が出ている。右足の感覚がほとんどない。意識がモウロウとしている。
「どうした? どうした? もう終わりかよ」
と、ケルベロスの背中でタギールが笑っていた。タギールへの攻撃を何度か仕掛けているのだが、すべてケルベロスにはばまれてしまう。
(ここが私の限界なのか……)
今までイティカは色んな人の、頭打ち、を見てきた。人の成長には限度がある。
たとえば、イティカに剣を教えた師範だ。イティカだって独学で剣を覚えたわけではない。師匠がいた。師匠の剣技には何十年という研鑽を積んできた風格があった。しかし結局は、イティカはその師匠に勝った。そしてその師も「私はこれ以上は強くはなれん」と自覚していた。
イティカは〝無限剣印〟を持っていた。
剣術には才能もあったと思う。
それでも、ここが――。
(私の頭打ちか)
これ以上は強くなれない。
ケルベロスに勝てる景色が見えない。
今までつちかってきた努力が、鉄槌によって叩き潰されていくかのような屈辱をおぼえた。
「人は、悲しい」
モウロウとする意識のなか、思わずつぶやいていた。
「そう。人は悲しい。だが神の図書館にさえ行くことができれば、そんな悲劇もなくなる」
「またそれか」
「理解しろとは言わねェよ。これで終わりだ」
ケルベロスが大口を開けて、イティカに迫ってきた。これはもう防ぎきれない。逃げようとはしたが、ぬかるんだ大地がイティカの脚を捕えて離してくれなかった。
(師匠……。どうやら私はここまでのようです……)
死を覚悟した。
刹那。
イティカの目の前に、艶やかな黒髪がなびいた。英雄王の印を持つ青年かと思ったが、そうではなかった。
「君は……」
彼女はケルベロスの顔面に深々と槍を突き刺していた。
たしかクロカミ・セーコとか名乗った女性だ。
イティカは、両手の平から生やしているフランベルジュで、食いついてくるケルベロスをいなしていた。
フランベルジュは独特な刃の形状をしている。対象に治りにくい傷を残すためだ。その刃はまるで揺らめく炎のようなので、《炎舞》という技名をつけられた。
この技はイティカが考案したものではない。「なんか炎が揺らめいてるみたいですね」とザンザとテルデルンから言われたのだ。
(あの2人は無事に村人たちを逃がせただろうか……)
もうこれ以上は、ケルベロスを押さえつけることはできない。ケルベロスには数本の剣が突き刺さっている。その鎧のように固い皮膚を何本かは突き刺すことができたのだ。しかし、ケルベロスに衰えは感じなかった。むしろ傷つけば傷つくほどに、ケルベロスは猛っていく。
弱っているのは、イティカのほうだ。
右肩の肉がえぐられている。ワキバラからも血が出ている。右足の感覚がほとんどない。意識がモウロウとしている。
「どうした? どうした? もう終わりかよ」
と、ケルベロスの背中でタギールが笑っていた。タギールへの攻撃を何度か仕掛けているのだが、すべてケルベロスにはばまれてしまう。
(ここが私の限界なのか……)
今までイティカは色んな人の、頭打ち、を見てきた。人の成長には限度がある。
たとえば、イティカに剣を教えた師範だ。イティカだって独学で剣を覚えたわけではない。師匠がいた。師匠の剣技には何十年という研鑽を積んできた風格があった。しかし結局は、イティカはその師匠に勝った。そしてその師も「私はこれ以上は強くはなれん」と自覚していた。
イティカは〝無限剣印〟を持っていた。
剣術には才能もあったと思う。
それでも、ここが――。
(私の頭打ちか)
これ以上は強くなれない。
ケルベロスに勝てる景色が見えない。
今までつちかってきた努力が、鉄槌によって叩き潰されていくかのような屈辱をおぼえた。
「人は、悲しい」
モウロウとする意識のなか、思わずつぶやいていた。
「そう。人は悲しい。だが神の図書館にさえ行くことができれば、そんな悲劇もなくなる」
「またそれか」
「理解しろとは言わねェよ。これで終わりだ」
ケルベロスが大口を開けて、イティカに迫ってきた。これはもう防ぎきれない。逃げようとはしたが、ぬかるんだ大地がイティカの脚を捕えて離してくれなかった。
(師匠……。どうやら私はここまでのようです……)
死を覚悟した。
刹那。
イティカの目の前に、艶やかな黒髪がなびいた。英雄王の印を持つ青年かと思ったが、そうではなかった。
「君は……」
彼女はケルベロスの顔面に深々と槍を突き刺していた。
たしかクロカミ・セーコとか名乗った女性だ。
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