《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第41話~アンヌ・チェル~
アンヌ・チェルは恋していた。
5匹のゴブリンを圧倒して、アンヌの傷を癒してくれたクロカミ・セイにたいして――である。
「はぁ……」
桃色の吐息をおとした。
ゴブリンを倒した手際の良さは、まるで黒い嵐のようだった。あの圧倒的な強さ。そして、アンヌの傷を癒してくれた優しい光――。思い出すだけでも、動悸がはげしくなる。
「すんすん」
と雨降るなかアンヌは鼻をひくつかせる。
(セイさまの匂いがする)
都市サファリアのストリートである。アンヌはどうしてもセイのことが忘れられず、追いかけてきたのだった。
村の者たちに止められたが、振り切って出てきた。それにアンヌにはセイを見つける自信があった。
「すんすん」
ともう一度鼻をひくつかせた。
これがアンヌの印チカラだった。アンヌにはその人の魔力の匂いをかぎ取ることができるのだ。カラアゲの匂いにつられる人間のように、あるいは花粉につられる蝶のように、アンヌは魔力の匂いをたどっていた。
(セイさまの匂い……)
それは都市サファリアの冒険者ギルドに続いていた。入る。明るい喧騒がアンヌのことを迎え入れてくれた。
木造の長机やイスが置かれている。部屋の隅のほうに暖炉があった。その暖炉の前に立って、アンヌはカラダを乾かすことにした。
「すんすん……」
ますます強く匂う。
すぐ近くにいらっしゃるのだ。
周囲を見渡す。
武装した女性がいるばかりで、肝心なセイの姿を見つけることができなかった。
(会ったらどうしようかしら)
会いたいという衝動だけでやって来たので、会ってからのことを考えていなかった。
「おっ、どうかしましたか御嬢さん?」
声をかけられた。
プラチナブロンドの美しい女性だった。美しいことには美しいのだが、どことなく作り物めいている。目が大きすぎるせいかもしれない、あまりに整った笑顔のせいかもしれない。
それに、すごく背が高い。
アンヌの2倍ぐらいある。
「えっと……」
「これは失礼。私はこの冒険者ギルドのギルド長をやっている。イティカ・ルブミラルという者だ。ギルド長であり、《キングプロテア級》の冒険者でもある」
「ど、どうも、はじめまして」
なんだかよくわからないが、偉い人なのだと思ったので、あわてて頭を下げた。アンヌも名乗った。
ハハハッ――とイティカは豪快に笑った。
「畏まることはない。アンヌくんは、どうして冒険者ギルドに? もしかして何か困っていることがあるのかい?」
「人を探しているんです」
「人探しか。なら、受付に行ってクエストを発注してもらうように頼むと良い。冒険者たちが受けてくれるはずだ」
「いえ。そういう人探しではなくて――。ここにクロカミ・セイという男の人が来ませんでしたか?」
暖炉の火がパチパチとはぜた。
イティカは怪訝な顔をした。
「この雨だ。男性であればみんなモンスターになってしまっているだろう」
「いえ。この雨でもモンスターにならない人なんです」
「この雨でも、人間のまま?」
「はい」
イティカは思案気に首をひねった。
「まるで神話に登場する英雄王ハーレムのような男だな。……そう言えば、クト村で男が出たとかなんとか」
「はい。その男の人だと思います」
「なら、あのウワサはホントウだったのか。しかし残念ながら、ここに男は来ていない。来ていれば、いまごろ大騒ぎだ。ここにいる女たちは血気盛んだからね。男なんか来たら、セミの抜け殻同然になるまで搾り取られてるところだよ」
「ひっ……」
セイが他の女の手にかかるところを想像するだけで、胸を焼かれるような嫉妬をおぼえた。
「そう驚くことはない。男がモンスターになっちまって、女たちは急に性的に飢えはじめちまってる。生物の本能がそうさせてるのかもしれないね」
パチパチ。
また暖炉の火がはぜる。
「でも、ここにセイさまの匂いが」
「匂い?」
魔力の匂いをかぎわけることができるのだ――とアンヌは説明した。
何に反応したのか、イティカは「良ければ、食事でもおごろう」と真剣な顔をして言った。
5匹のゴブリンを圧倒して、アンヌの傷を癒してくれたクロカミ・セイにたいして――である。
「はぁ……」
桃色の吐息をおとした。
ゴブリンを倒した手際の良さは、まるで黒い嵐のようだった。あの圧倒的な強さ。そして、アンヌの傷を癒してくれた優しい光――。思い出すだけでも、動悸がはげしくなる。
「すんすん」
と雨降るなかアンヌは鼻をひくつかせる。
(セイさまの匂いがする)
都市サファリアのストリートである。アンヌはどうしてもセイのことが忘れられず、追いかけてきたのだった。
村の者たちに止められたが、振り切って出てきた。それにアンヌにはセイを見つける自信があった。
「すんすん」
ともう一度鼻をひくつかせた。
これがアンヌの印チカラだった。アンヌにはその人の魔力の匂いをかぎ取ることができるのだ。カラアゲの匂いにつられる人間のように、あるいは花粉につられる蝶のように、アンヌは魔力の匂いをたどっていた。
(セイさまの匂い……)
それは都市サファリアの冒険者ギルドに続いていた。入る。明るい喧騒がアンヌのことを迎え入れてくれた。
木造の長机やイスが置かれている。部屋の隅のほうに暖炉があった。その暖炉の前に立って、アンヌはカラダを乾かすことにした。
「すんすん……」
ますます強く匂う。
すぐ近くにいらっしゃるのだ。
周囲を見渡す。
武装した女性がいるばかりで、肝心なセイの姿を見つけることができなかった。
(会ったらどうしようかしら)
会いたいという衝動だけでやって来たので、会ってからのことを考えていなかった。
「おっ、どうかしましたか御嬢さん?」
声をかけられた。
プラチナブロンドの美しい女性だった。美しいことには美しいのだが、どことなく作り物めいている。目が大きすぎるせいかもしれない、あまりに整った笑顔のせいかもしれない。
それに、すごく背が高い。
アンヌの2倍ぐらいある。
「えっと……」
「これは失礼。私はこの冒険者ギルドのギルド長をやっている。イティカ・ルブミラルという者だ。ギルド長であり、《キングプロテア級》の冒険者でもある」
「ど、どうも、はじめまして」
なんだかよくわからないが、偉い人なのだと思ったので、あわてて頭を下げた。アンヌも名乗った。
ハハハッ――とイティカは豪快に笑った。
「畏まることはない。アンヌくんは、どうして冒険者ギルドに? もしかして何か困っていることがあるのかい?」
「人を探しているんです」
「人探しか。なら、受付に行ってクエストを発注してもらうように頼むと良い。冒険者たちが受けてくれるはずだ」
「いえ。そういう人探しではなくて――。ここにクロカミ・セイという男の人が来ませんでしたか?」
暖炉の火がパチパチとはぜた。
イティカは怪訝な顔をした。
「この雨だ。男性であればみんなモンスターになってしまっているだろう」
「いえ。この雨でもモンスターにならない人なんです」
「この雨でも、人間のまま?」
「はい」
イティカは思案気に首をひねった。
「まるで神話に登場する英雄王ハーレムのような男だな。……そう言えば、クト村で男が出たとかなんとか」
「はい。その男の人だと思います」
「なら、あのウワサはホントウだったのか。しかし残念ながら、ここに男は来ていない。来ていれば、いまごろ大騒ぎだ。ここにいる女たちは血気盛んだからね。男なんか来たら、セミの抜け殻同然になるまで搾り取られてるところだよ」
「ひっ……」
セイが他の女の手にかかるところを想像するだけで、胸を焼かれるような嫉妬をおぼえた。
「そう驚くことはない。男がモンスターになっちまって、女たちは急に性的に飢えはじめちまってる。生物の本能がそうさせてるのかもしれないね」
パチパチ。
また暖炉の火がはぜる。
「でも、ここにセイさまの匂いが」
「匂い?」
魔力の匂いをかぎわけることができるのだ――とアンヌは説明した。
何に反応したのか、イティカは「良ければ、食事でもおごろう」と真剣な顔をして言った。
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