《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする

執筆用bot E-021番 

第23話~シラティウスⅢ~

 シラティウスをどう説得して、印を重ねようか。そもそも、シラティウスのチカラを会得するのは正しいことなのか。セイにはわからなかった。



 ただボンヤリと檻の前に居座っていた。シラティウスのほうも、別にセイに出て行けとは言わなかった。心なしか歓迎してくれているようにさえ思えた。



「オレ。ここにいても邪魔じゃないか?」
 と、尋ねてみた。



「話し相手がいるのは楽しい」
 と、返ってきた。



「なんだ。やっぱり地下牢にいると寂しいんじゃないか」



「寂しいけど、レフィーさまや他のメイドたちが遊びに来てくれたりもする。今日は、セイが来てくれた」



「オレ思うんだけどさ」



「なに?」
 と、シラティウスは首をかしげる。



 その仕草はまだ年端のいかぬ幼女のようだった。



「シラティウスが、ここにいるのは、それはそれで迷惑なんじゃないか――と思うんだ」



「どうして?」
 少し不服そうな表情をして見せた。



「レフィール伯爵も心が痛いだろう。なんの罪もない少女を地下牢に閉じ込めてたら」



 レフィール伯爵は、セイに言ったのだ。
 チカラになってやって欲しい――と。



 つまり、レフィール伯爵はシラティウスを閉じ込めておくことを、良しとしていないということだ。



「私はみずから頼んで、ここに入れてもらった。レフィーさまが罪悪感をおぼえる必要はない」



「そうなんだろうけど、人の心はそう単純でもないからな」



 相手が承諾しているからと言って、「はい、わかりました」と割り切れるわけではない。特に心根の優しいものであれば、シラティウスに同情してチカラになってやりたいと思うはずだ。



「まぁ、親切もすぎるとお節介ってことになる。けど実際、シラティウスは外で暮らしたいんだろ?」



 うん、と首肯してシラティウスは続ける。



「でも、外で暮らしたいだなんて、レフィーさまに訴えたことはない」



「口にしなくたって、何となく察してるんだろうさ。レフィール伯爵は頭が良い。慧眼だ。人のことをちゃんと見てる」



「まるで、レフィーさまのこと何でも知ってるように言う」



 シラティウスにそう言われて、セイは頬に血がのぼるのを感じた。



 セイはレフィール伯爵にたいして好意を抱いている。それは恋情とも友情ともつかぬ曖昧なもので、モヤモヤとした感情だった。その抱いているモヤモヤした感情を他人に勘付かれることに、気恥ずかしさを覚えたのだった。



「そりゃ城内の雰囲気を見てればわかるさ。メイドたちはみんなレフィール伯爵にたいして強い忠誠心を持ってる。フォルモルやキリアも強い恩義を感じてるようだったしな」



 フォルモルはシルベ教の襲撃にあい、妹とともにレフィール伯爵に匿われたと言っていた。キリアはもと傭兵団だったが、雇われたと言っていた。そして、シラティウスは旅芸人から救ってもらったという過去がある。



 ついでに言うならセイも、城勤めをクビになったところを拾ってもらった。その件には、感謝している。



「キレイだし、まるで聖女のような人」



「その聖女のような人から、シラティウスのチカラになってくれ――って頼まれてるんだ、オレは」



 セイはそう言って、シラティウスの目を見つめた。シラティウスの白銀の瞳に、セイの姿が投影されていた。



「私の印は、どうしようもない」
 シラティウスはあきらめたように、かぶりを振った。



「ドラゴンになるのは、自分のチカラじゃ抑えきれないのか?」



「出来るときもあるけど、暴走してしまうときもある」



「どれぐらいの頻度で暴走するんだ?」



「頻度とかではない。感情が高ぶると無自覚のうちにドラゴンになる。怒りに反応することが特に多い」



「へぇー」
 意外だった。



 シラティウスの虚静恬淡な態度からは、感情のたかぶりなど想像もできないからだ。もしかして、感情を殺すことを意識しすぎているのかもしれない。



「なに? 変? 私はよく怒るよ」
「よく怒る? ホントウに?」
「ホントウ。私は短気」



 言われてみれば、口先をとがらせたり、頬をふくらませたりはしている。笑ったところは一度も見ていない。



 まだ少女なのだ。
 精神が安定していなくとも、仕方がない。



「で、怒ってドラゴンになったら、止められる者はない――ってわけか」



「そう」



「昔はどうしてたんだ? 北方にいたころは。そのころから暴れてたのか?」



「ママと暮らしてたときは、ママが抑えてくれてたから問題なかった。旅芸人といたときは、ずっと檻に入れられて鎖につながれてたから、暴れることができなかった」



「悪いな、辛い過去を蒸し返して」
「別にいいよ」



 無表情なので気にしているのか気にしていないのか、汲み取りにくい。



「でも、今の話を聞いて1つ妙案を思いついた」



「なぁに?」
 と、シラティウスが鉄格子に寄ってきた。近寄られると良い匂いがした。少女とはいえ、やはり女性だ。



「要するに、シラティウスが暴れているときに、止められるドラゴンがもう1匹いれば良いんだろ?」



「ママがいてくれれば……」
 肌が白いせいか、黒々としたマツゲがハッキリと見て取れる。



「オレと印を重ねれば、オレもドラゴンになれる。シラティウスが暴れればオレが抑える。オレが暴れたら、シラティウスが抑えてくれれば良い。そうすれば、シラティウスがこうして地下につながれてる必要もない」



 その案は考えていなかったのだろう。
 シラティウスは唖然あぜんとした顔をしていた。



「でも、2人同時にドラゴンになったら?」



「そんなことは滅多にない。言っておくがオレは怒ることなんて、ほとんどないからな。それに関しては自信がある」



 ずっとロイラングの王都で、周囲にバカにされてきたが、怒りで我を忘れたようなことは一度だってない。



「鈍感なの?」
「ど、鈍感ってわけじゃないと思うが……」
 遠慮のない物言いをする娘だ。



 シラティウスはしばらく迷っているようだったが、意を決したように切り出した。



「わかった。じゃあテストする」
「なんでも、どうぞ」



 セイならば、そのドラゴンのチカラを制御できる。そう考えているから、レフィール伯爵は印を重ねることをすすめたはずだ。慧眼のレフィール伯爵がそう見ているのであれば、何も問題はないはずだ――とセイは思った。

コメント

  • ノベルバユーザー288193

    鈍感が鈍角になってます

    0
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