《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第23話~シラティウスⅢ~
シラティウスをどう説得して、印を重ねようか。そもそも、シラティウスのチカラを会得するのは正しいことなのか。セイにはわからなかった。
ただボンヤリと檻の前に居座っていた。シラティウスのほうも、別にセイに出て行けとは言わなかった。心なしか歓迎してくれているようにさえ思えた。
「オレ。ここにいても邪魔じゃないか?」
と、尋ねてみた。
「話し相手がいるのは楽しい」
と、返ってきた。
「なんだ。やっぱり地下牢にいると寂しいんじゃないか」
「寂しいけど、レフィーさまや他のメイドたちが遊びに来てくれたりもする。今日は、セイが来てくれた」
「オレ思うんだけどさ」
「なに?」
と、シラティウスは首をかしげる。
その仕草はまだ年端のいかぬ幼女のようだった。
「シラティウスが、ここにいるのは、それはそれで迷惑なんじゃないか――と思うんだ」
「どうして?」
少し不服そうな表情をして見せた。
「レフィール伯爵も心が痛いだろう。なんの罪もない少女を地下牢に閉じ込めてたら」
レフィール伯爵は、セイに言ったのだ。
チカラになってやって欲しい――と。
つまり、レフィール伯爵はシラティウスを閉じ込めておくことを、良しとしていないということだ。
「私はみずから頼んで、ここに入れてもらった。レフィーさまが罪悪感をおぼえる必要はない」
「そうなんだろうけど、人の心はそう単純でもないからな」
相手が承諾しているからと言って、「はい、わかりました」と割り切れるわけではない。特に心根の優しいものであれば、シラティウスに同情してチカラになってやりたいと思うはずだ。
「まぁ、親切もすぎるとお節介ってことになる。けど実際、シラティウスは外で暮らしたいんだろ?」
うん、と首肯してシラティウスは続ける。
「でも、外で暮らしたいだなんて、レフィーさまに訴えたことはない」
「口にしなくたって、何となく察してるんだろうさ。レフィール伯爵は頭が良い。慧眼だ。人のことをちゃんと見てる」
「まるで、レフィーさまのこと何でも知ってるように言う」
シラティウスにそう言われて、セイは頬に血がのぼるのを感じた。
セイはレフィール伯爵にたいして好意を抱いている。それは恋情とも友情ともつかぬ曖昧なもので、モヤモヤとした感情だった。その抱いているモヤモヤした感情を他人に勘付かれることに、気恥ずかしさを覚えたのだった。
「そりゃ城内の雰囲気を見てればわかるさ。メイドたちはみんなレフィール伯爵にたいして強い忠誠心を持ってる。フォルモルやキリアも強い恩義を感じてるようだったしな」
フォルモルはシルベ教の襲撃にあい、妹とともにレフィール伯爵に匿われたと言っていた。キリアはもと傭兵団だったが、雇われたと言っていた。そして、シラティウスは旅芸人から救ってもらったという過去がある。
ついでに言うならセイも、城勤めをクビになったところを拾ってもらった。その件には、感謝している。
「キレイだし、まるで聖女のような人」
「その聖女のような人から、シラティウスのチカラになってくれ――って頼まれてるんだ、オレは」
セイはそう言って、シラティウスの目を見つめた。シラティウスの白銀の瞳に、セイの姿が投影されていた。
「私の印は、どうしようもない」
シラティウスはあきらめたように、かぶりを振った。
「ドラゴンになるのは、自分のチカラじゃ抑えきれないのか?」
「出来るときもあるけど、暴走してしまうときもある」
「どれぐらいの頻度で暴走するんだ?」
「頻度とかではない。感情が高ぶると無自覚のうちにドラゴンになる。怒りに反応することが特に多い」
「へぇー」
意外だった。
シラティウスの虚静恬淡な態度からは、感情のたかぶりなど想像もできないからだ。もしかして、感情を殺すことを意識しすぎているのかもしれない。
「なに? 変? 私はよく怒るよ」
「よく怒る? ホントウに?」
「ホントウ。私は短気」
言われてみれば、口先をとがらせたり、頬をふくらませたりはしている。笑ったところは一度も見ていない。
まだ少女なのだ。
精神が安定していなくとも、仕方がない。
「で、怒ってドラゴンになったら、止められる者はない――ってわけか」
「そう」
「昔はどうしてたんだ? 北方にいたころは。そのころから暴れてたのか?」
「ママと暮らしてたときは、ママが抑えてくれてたから問題なかった。旅芸人といたときは、ずっと檻に入れられて鎖につながれてたから、暴れることができなかった」
「悪いな、辛い過去を蒸し返して」
「別にいいよ」
無表情なので気にしているのか気にしていないのか、汲み取りにくい。
「でも、今の話を聞いて1つ妙案を思いついた」
「なぁに?」
と、シラティウスが鉄格子に寄ってきた。近寄られると良い匂いがした。少女とはいえ、やはり女性だ。
「要するに、シラティウスが暴れているときに、止められるドラゴンがもう1匹いれば良いんだろ?」
「ママがいてくれれば……」
肌が白いせいか、黒々としたマツゲがハッキリと見て取れる。
「オレと印を重ねれば、オレもドラゴンになれる。シラティウスが暴れればオレが抑える。オレが暴れたら、シラティウスが抑えてくれれば良い。そうすれば、シラティウスがこうして地下につながれてる必要もない」
その案は考えていなかったのだろう。
シラティウスは唖然とした顔をしていた。
「でも、2人同時にドラゴンになったら?」
「そんなことは滅多にない。言っておくがオレは怒ることなんて、ほとんどないからな。それに関しては自信がある」
ずっとロイラングの王都で、周囲にバカにされてきたが、怒りで我を忘れたようなことは一度だってない。
「鈍感なの?」
「ど、鈍感ってわけじゃないと思うが……」
遠慮のない物言いをする娘だ。
シラティウスはしばらく迷っているようだったが、意を決したように切り出した。
「わかった。じゃあテストする」
「なんでも、どうぞ」
セイならば、そのドラゴンのチカラを制御できる。そう考えているから、レフィール伯爵は印を重ねることをすすめたはずだ。慧眼のレフィール伯爵がそう見ているのであれば、何も問題はないはずだ――とセイは思った。
ただボンヤリと檻の前に居座っていた。シラティウスのほうも、別にセイに出て行けとは言わなかった。心なしか歓迎してくれているようにさえ思えた。
「オレ。ここにいても邪魔じゃないか?」
と、尋ねてみた。
「話し相手がいるのは楽しい」
と、返ってきた。
「なんだ。やっぱり地下牢にいると寂しいんじゃないか」
「寂しいけど、レフィーさまや他のメイドたちが遊びに来てくれたりもする。今日は、セイが来てくれた」
「オレ思うんだけどさ」
「なに?」
と、シラティウスは首をかしげる。
その仕草はまだ年端のいかぬ幼女のようだった。
「シラティウスが、ここにいるのは、それはそれで迷惑なんじゃないか――と思うんだ」
「どうして?」
少し不服そうな表情をして見せた。
「レフィール伯爵も心が痛いだろう。なんの罪もない少女を地下牢に閉じ込めてたら」
レフィール伯爵は、セイに言ったのだ。
チカラになってやって欲しい――と。
つまり、レフィール伯爵はシラティウスを閉じ込めておくことを、良しとしていないということだ。
「私はみずから頼んで、ここに入れてもらった。レフィーさまが罪悪感をおぼえる必要はない」
「そうなんだろうけど、人の心はそう単純でもないからな」
相手が承諾しているからと言って、「はい、わかりました」と割り切れるわけではない。特に心根の優しいものであれば、シラティウスに同情してチカラになってやりたいと思うはずだ。
「まぁ、親切もすぎるとお節介ってことになる。けど実際、シラティウスは外で暮らしたいんだろ?」
うん、と首肯してシラティウスは続ける。
「でも、外で暮らしたいだなんて、レフィーさまに訴えたことはない」
「口にしなくたって、何となく察してるんだろうさ。レフィール伯爵は頭が良い。慧眼だ。人のことをちゃんと見てる」
「まるで、レフィーさまのこと何でも知ってるように言う」
シラティウスにそう言われて、セイは頬に血がのぼるのを感じた。
セイはレフィール伯爵にたいして好意を抱いている。それは恋情とも友情ともつかぬ曖昧なもので、モヤモヤとした感情だった。その抱いているモヤモヤした感情を他人に勘付かれることに、気恥ずかしさを覚えたのだった。
「そりゃ城内の雰囲気を見てればわかるさ。メイドたちはみんなレフィール伯爵にたいして強い忠誠心を持ってる。フォルモルやキリアも強い恩義を感じてるようだったしな」
フォルモルはシルベ教の襲撃にあい、妹とともにレフィール伯爵に匿われたと言っていた。キリアはもと傭兵団だったが、雇われたと言っていた。そして、シラティウスは旅芸人から救ってもらったという過去がある。
ついでに言うならセイも、城勤めをクビになったところを拾ってもらった。その件には、感謝している。
「キレイだし、まるで聖女のような人」
「その聖女のような人から、シラティウスのチカラになってくれ――って頼まれてるんだ、オレは」
セイはそう言って、シラティウスの目を見つめた。シラティウスの白銀の瞳に、セイの姿が投影されていた。
「私の印は、どうしようもない」
シラティウスはあきらめたように、かぶりを振った。
「ドラゴンになるのは、自分のチカラじゃ抑えきれないのか?」
「出来るときもあるけど、暴走してしまうときもある」
「どれぐらいの頻度で暴走するんだ?」
「頻度とかではない。感情が高ぶると無自覚のうちにドラゴンになる。怒りに反応することが特に多い」
「へぇー」
意外だった。
シラティウスの虚静恬淡な態度からは、感情のたかぶりなど想像もできないからだ。もしかして、感情を殺すことを意識しすぎているのかもしれない。
「なに? 変? 私はよく怒るよ」
「よく怒る? ホントウに?」
「ホントウ。私は短気」
言われてみれば、口先をとがらせたり、頬をふくらませたりはしている。笑ったところは一度も見ていない。
まだ少女なのだ。
精神が安定していなくとも、仕方がない。
「で、怒ってドラゴンになったら、止められる者はない――ってわけか」
「そう」
「昔はどうしてたんだ? 北方にいたころは。そのころから暴れてたのか?」
「ママと暮らしてたときは、ママが抑えてくれてたから問題なかった。旅芸人といたときは、ずっと檻に入れられて鎖につながれてたから、暴れることができなかった」
「悪いな、辛い過去を蒸し返して」
「別にいいよ」
無表情なので気にしているのか気にしていないのか、汲み取りにくい。
「でも、今の話を聞いて1つ妙案を思いついた」
「なぁに?」
と、シラティウスが鉄格子に寄ってきた。近寄られると良い匂いがした。少女とはいえ、やはり女性だ。
「要するに、シラティウスが暴れているときに、止められるドラゴンがもう1匹いれば良いんだろ?」
「ママがいてくれれば……」
肌が白いせいか、黒々としたマツゲがハッキリと見て取れる。
「オレと印を重ねれば、オレもドラゴンになれる。シラティウスが暴れればオレが抑える。オレが暴れたら、シラティウスが抑えてくれれば良い。そうすれば、シラティウスがこうして地下につながれてる必要もない」
その案は考えていなかったのだろう。
シラティウスは唖然とした顔をしていた。
「でも、2人同時にドラゴンになったら?」
「そんなことは滅多にない。言っておくがオレは怒ることなんて、ほとんどないからな。それに関しては自信がある」
ずっとロイラングの王都で、周囲にバカにされてきたが、怒りで我を忘れたようなことは一度だってない。
「鈍感なの?」
「ど、鈍感ってわけじゃないと思うが……」
遠慮のない物言いをする娘だ。
シラティウスはしばらく迷っているようだったが、意を決したように切り出した。
「わかった。じゃあテストする」
「なんでも、どうぞ」
セイならば、そのドラゴンのチカラを制御できる。そう考えているから、レフィール伯爵は印を重ねることをすすめたはずだ。慧眼のレフィール伯爵がそう見ているのであれば、何も問題はないはずだ――とセイは思った。
コメント
ノベルバユーザー288193
鈍感が鈍角になってます