《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第17話~キリアⅢ~
逃げ遅れた者――というのは、女が25人。少女が8人だった。男はいない。今朝の川の氾濫で、みんなモンスターになってしまったということだ。
「仕方ない。いくらレフィール伯爵でも、川の氾濫までは予測していなかったのであろう。とりあえず、都合33人の女を城の中まで誘導しよう」
キリアがそう言った。
「そうですね」
と、セイはうなずいた。
雨の中33人の女たちを連れて歩いた。石畳のストリートは、軽く足が浸かるぐらいの水がたまっていた。
レフィール伯爵は悪魔の雨に備えて、いろいろと準備をしてきたと聞いている。それでも結局は、こうなってしまった。そうすると、他の国や都市はもっと酷いことになっているだろうと考えられた。
33人の女たちはみんな恐怖と怪訝な目で、セイを見ていた。(この男もモンスターになるのではないか?)(なぜ雨に打たれても平然としているのだろう)そういう目だった。
城に帰ろうとしたのだが、予想外のことが起こった。
跳ね橋があげられていたのだ。
「守り切れんかったか」
と、キリアは歯ぎしりしていた。
それも致し方ない。
セイたちも近寄れぬほど、城門にはモンスターが集っていたのだ。
「どうします?」
「仕方ない。抜け道を使うか」
「中に入る道があるんですか?」
「地下通路になるがな。敵軍に囲まれたときに、物資を運びいれたり、脱出用につくられた道だ。どこの城にもある、いわゆる抜け道というヤツだ。しかし、もう何年も使っていないと聞いているから、ちゃんと通れるかはわからんがな」
「行ってみましょうか」
このまま跳ね橋が開くのを待っていても、いつになるかわからない。そもそも、このモンスターの量では開けることも出来ないだろう。
ちょうどレフィール伯爵から念話がかかってきた。その地下通路を使えという内容だった。
セイたちはカーテン・ウォールをぐるっと迂回して、その抜け道へと向かった。なんの変哲もない物置小屋があった。農具なんかが無造作に置かれていた。その小屋の地面に鉄のトビラがあった。開けると、地下へと続く階段があらわれた。
「こんなところに入口が……」
「まぁ、万が一のときにそなえて、簡単にバレないようにしてあるからな」
先にキリアが入った。
33人の女性が全員入ったことを確認して、最後にセイが入った。トビラを閉めると完全な暗闇になった。
セイは治療魔法で使う白い光を手から出した。便利な魔法だ。多少は明かりにもなる。キリアは、カンテラを持っていたようだ。空気が湿っているせいか点火に苦労していたが、無事にカンテラは灯った。
進んだ。
しかし、70本の脚はすぐに止まることになる。
3匹のゴブリンがいた。地下なら安全だと思って逃げ込んだ男たちがいたのかもしれない。それは良い。たったの3匹だ。キリアがアッという間に処理した。キリアは派手な戦い方をする。渾身のパンチを叩きつけるのだ。
その振動が災いした。
地面が崩れた。
土砂が、道をふさいだ。
「しまった……」
「もしかするとこの雨で地盤が緩んでたのかもしれませんね。引き返しましょう」
と、セイは提案した。
「仕方ないな」
キビスを返した。だが、不幸なことにそちらも土砂によって封じられていた。つまり、閉じ込められてしまった。やわらかい土ではない。岩の塊のような土砂だった。
「えぇいッ。こんな土砂、私がブッ飛ばしてやる」
と、キリアがコブシを振り回していたので、セイはあわてて止めた。
「よしてください。今度はオレたちの頭上に土砂が崩れてくるかもしれません」
前も後ろも封じられたのは不幸だったが、まだ頭の上に落ちてくるよりかはマシだった。さらに振動を起こせば、最悪の事態を引き起こしかねない。
「ん?」
「どうかしましたか」
「しまった。ここはちょうど水掘りの下なのだ。水が――」
ドボドボと水が流れてきていた。
最悪だ。
「困りましたね」
前後は土砂によってはばまれて、上からは水が注いでくる。万事休すだった。
このまま溺れ死ぬのを待つか……。溺れるどころか、雨に打たれて女たちのカラダはすでに冷え切っている。落ちてくる水にいつまで耐えられるか。
せっかくセイは、自分という存在を買ってくれる人に出会った。必要とされるようになった。そんな矢先に死にたくはない。なにより、33人の女とキリアを死なせてしまうのは、あまりに忍びない。
ふと天啓を得た。
「土砂をどかしましょう」
「私の魔法をもってしても、土砂をどかしきるのは難しい。多少は動かせるだろうが……」
と、キリアは首を左右に振った。
黒々としたポニーテールが左右に揺れた。
「2人ならどうです?」
「なに?」
「2人で土砂を撤去すれば、どうにかなるんじゃないですか?」
「2人?」
「オレの〝英雄印〟と重ねてください。そうすればオレもキリアの怪力魔法を使えるようになります。2人で掘れば、道が開くかもしれません」
「あ……うっ……しかし」
と、とたんにキリアの歯切れが悪くなった。
「迷っている場合ではないでしょう。命がかかってます。このままでは水がさらに流れ込んできますよ」
必死だった。
こんな足元を見るような状況で切り出すのは不本意だが、もうその他にこの場を切りぬける手段を思いつかなかった。
「良かろう。覚悟を決めよう」
キリアは諦めたように肩を落とした。
「仕方ない。いくらレフィール伯爵でも、川の氾濫までは予測していなかったのであろう。とりあえず、都合33人の女を城の中まで誘導しよう」
キリアがそう言った。
「そうですね」
と、セイはうなずいた。
雨の中33人の女たちを連れて歩いた。石畳のストリートは、軽く足が浸かるぐらいの水がたまっていた。
レフィール伯爵は悪魔の雨に備えて、いろいろと準備をしてきたと聞いている。それでも結局は、こうなってしまった。そうすると、他の国や都市はもっと酷いことになっているだろうと考えられた。
33人の女たちはみんな恐怖と怪訝な目で、セイを見ていた。(この男もモンスターになるのではないか?)(なぜ雨に打たれても平然としているのだろう)そういう目だった。
城に帰ろうとしたのだが、予想外のことが起こった。
跳ね橋があげられていたのだ。
「守り切れんかったか」
と、キリアは歯ぎしりしていた。
それも致し方ない。
セイたちも近寄れぬほど、城門にはモンスターが集っていたのだ。
「どうします?」
「仕方ない。抜け道を使うか」
「中に入る道があるんですか?」
「地下通路になるがな。敵軍に囲まれたときに、物資を運びいれたり、脱出用につくられた道だ。どこの城にもある、いわゆる抜け道というヤツだ。しかし、もう何年も使っていないと聞いているから、ちゃんと通れるかはわからんがな」
「行ってみましょうか」
このまま跳ね橋が開くのを待っていても、いつになるかわからない。そもそも、このモンスターの量では開けることも出来ないだろう。
ちょうどレフィール伯爵から念話がかかってきた。その地下通路を使えという内容だった。
セイたちはカーテン・ウォールをぐるっと迂回して、その抜け道へと向かった。なんの変哲もない物置小屋があった。農具なんかが無造作に置かれていた。その小屋の地面に鉄のトビラがあった。開けると、地下へと続く階段があらわれた。
「こんなところに入口が……」
「まぁ、万が一のときにそなえて、簡単にバレないようにしてあるからな」
先にキリアが入った。
33人の女性が全員入ったことを確認して、最後にセイが入った。トビラを閉めると完全な暗闇になった。
セイは治療魔法で使う白い光を手から出した。便利な魔法だ。多少は明かりにもなる。キリアは、カンテラを持っていたようだ。空気が湿っているせいか点火に苦労していたが、無事にカンテラは灯った。
進んだ。
しかし、70本の脚はすぐに止まることになる。
3匹のゴブリンがいた。地下なら安全だと思って逃げ込んだ男たちがいたのかもしれない。それは良い。たったの3匹だ。キリアがアッという間に処理した。キリアは派手な戦い方をする。渾身のパンチを叩きつけるのだ。
その振動が災いした。
地面が崩れた。
土砂が、道をふさいだ。
「しまった……」
「もしかするとこの雨で地盤が緩んでたのかもしれませんね。引き返しましょう」
と、セイは提案した。
「仕方ないな」
キビスを返した。だが、不幸なことにそちらも土砂によって封じられていた。つまり、閉じ込められてしまった。やわらかい土ではない。岩の塊のような土砂だった。
「えぇいッ。こんな土砂、私がブッ飛ばしてやる」
と、キリアがコブシを振り回していたので、セイはあわてて止めた。
「よしてください。今度はオレたちの頭上に土砂が崩れてくるかもしれません」
前も後ろも封じられたのは不幸だったが、まだ頭の上に落ちてくるよりかはマシだった。さらに振動を起こせば、最悪の事態を引き起こしかねない。
「ん?」
「どうかしましたか」
「しまった。ここはちょうど水掘りの下なのだ。水が――」
ドボドボと水が流れてきていた。
最悪だ。
「困りましたね」
前後は土砂によってはばまれて、上からは水が注いでくる。万事休すだった。
このまま溺れ死ぬのを待つか……。溺れるどころか、雨に打たれて女たちのカラダはすでに冷え切っている。落ちてくる水にいつまで耐えられるか。
せっかくセイは、自分という存在を買ってくれる人に出会った。必要とされるようになった。そんな矢先に死にたくはない。なにより、33人の女とキリアを死なせてしまうのは、あまりに忍びない。
ふと天啓を得た。
「土砂をどかしましょう」
「私の魔法をもってしても、土砂をどかしきるのは難しい。多少は動かせるだろうが……」
と、キリアは首を左右に振った。
黒々としたポニーテールが左右に揺れた。
「2人ならどうです?」
「なに?」
「2人で土砂を撤去すれば、どうにかなるんじゃないですか?」
「2人?」
「オレの〝英雄印〟と重ねてください。そうすればオレもキリアの怪力魔法を使えるようになります。2人で掘れば、道が開くかもしれません」
「あ……うっ……しかし」
と、とたんにキリアの歯切れが悪くなった。
「迷っている場合ではないでしょう。命がかかってます。このままでは水がさらに流れ込んできますよ」
必死だった。
こんな足元を見るような状況で切り出すのは不本意だが、もうその他にこの場を切りぬける手段を思いつかなかった。
「良かろう。覚悟を決めよう」
キリアは諦めたように肩を落とした。
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