《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第1話~解雇~
「よし、次ッ」
騎士団長がそう叫んだ。
練兵場には、騎士たちが並ばされている。城の内郭に囲まれた練兵場は、緑の芝におおわれている。地の鮮やかな緑とは反して、空は灰色ににごっている。空気も湿り気を帯びている。雨の臭いがする。いまにも降り出しそうだった。
「おい次ッ。クロカミ・セイッ」
「あ、はい!」
名前を呼ばれたセイは、あわてて前に出た。
「ッたく、チンタラしてるんじゃない。そんなんだから、いつまでたっても一兵卒なんだろう」
他の騎士たちから、クスクス、笑い声がさざめく。
「申し訳ありませんッ」
セイは今年で16歳になる。14歳のときに見習い騎士になり、それ以来ずっと雑用をさせられている。実戦に駆り出されたことはない。戦争後の武具回収のさいに盗賊とやり合った程度だ。
でもいつか、戦場に出て武功をあげてやると夢を抱いている。
「今日は国王はじめ、貴族の方々が見学しておられる。気を引き締めろッ」
「はッ」
すこし離れたところ――城壁の上から貴族連中が見守っていた。華美なドレスをまとい、きらびやかな装飾品で着飾っている。まるで見世物でも見るかのように、騎士たちを見下ろしていた。
こちらを指差して笑う者や、談笑している者の姿が見えた。まだ雨は降っていないが、付き人連中が貴族の頭上に傘をさしだしていた。
「今日は、お前の名誉挽回の日でもあるのだからな」
「承知しております」
武芸の優れた者を残して、逆に劣った者を解雇することになっていた。今、行われているのは、それを見定めるためのテストだった。普段は評価されない者でも、こういう日を利用していっきに昇進することがある。
貴族の方々に見られていると意識すると、緊張をおぼえる。落ちつけ、落ちつけ――とセイは胸裏でつぶやいた。
「よし、来いッ」
「はっ」
槍を構える。
石突き側を右手でつかみ、穂先側を左手でつかんだ。穂先といっても、これは訓練なので、先端は布を丸めたものになっている。腰を低く落として、地を蹴った。
いっきに間合いを詰める。
槍を突き出した。
騎士団長はヒラリと身をかわすと、足払いをかけてきた。足払いをマトモに受けたセイは、シリモチをつくことになった。
急いで起き上がろうとしたのだが、眼前に木刀の先端を突き付けられた。
「ひっ……」
眼前ギリギリだった。
あわや突かれるどころだった。
「槍は突いた後にすぐ引くことだ。だいたいお前の構えは腰が低すぎる。間合いを誤魔化すにしても、もう少し腰を高くするものだ」
「はい」
「もう良い。下がれ」
騎士団長はそう言うと、貴族たちのいる城壁へと目をやった。採点が行われる。貴族の方々は点数の書かれた紙をあげた。
「0点」「0点」「0点「1点」「0点」。
20点以下の者は、解雇されることになっている。
「決まりだな」
騎士団長が軽んじるような目を、セイに向けてきた。
「ま、待ってください。もう一度だけ……」
「チャンスは1度きりだ。これはみんな平等に行われていることだ。残念だったな」
一緒にいる騎士たちが、クスクス。
城壁から見下ろしている貴族の方々も、セイのことを指差して笑っていた。ブザマな結果だったからだろう。
あまりに不甲斐ない結果に、顔の火照りを覚えた。今すぐにでも逃げ出したい気分だった。
(終わった……)
いつかは武功を上げるのだと夢見て2年間。ひたすら雑務をこなしてきたが、無駄な努力に終わったようだ。
大の字になって寝転がった。
曇天が見えた。
騎士団長がそう叫んだ。
練兵場には、騎士たちが並ばされている。城の内郭に囲まれた練兵場は、緑の芝におおわれている。地の鮮やかな緑とは反して、空は灰色ににごっている。空気も湿り気を帯びている。雨の臭いがする。いまにも降り出しそうだった。
「おい次ッ。クロカミ・セイッ」
「あ、はい!」
名前を呼ばれたセイは、あわてて前に出た。
「ッたく、チンタラしてるんじゃない。そんなんだから、いつまでたっても一兵卒なんだろう」
他の騎士たちから、クスクス、笑い声がさざめく。
「申し訳ありませんッ」
セイは今年で16歳になる。14歳のときに見習い騎士になり、それ以来ずっと雑用をさせられている。実戦に駆り出されたことはない。戦争後の武具回収のさいに盗賊とやり合った程度だ。
でもいつか、戦場に出て武功をあげてやると夢を抱いている。
「今日は国王はじめ、貴族の方々が見学しておられる。気を引き締めろッ」
「はッ」
すこし離れたところ――城壁の上から貴族連中が見守っていた。華美なドレスをまとい、きらびやかな装飾品で着飾っている。まるで見世物でも見るかのように、騎士たちを見下ろしていた。
こちらを指差して笑う者や、談笑している者の姿が見えた。まだ雨は降っていないが、付き人連中が貴族の頭上に傘をさしだしていた。
「今日は、お前の名誉挽回の日でもあるのだからな」
「承知しております」
武芸の優れた者を残して、逆に劣った者を解雇することになっていた。今、行われているのは、それを見定めるためのテストだった。普段は評価されない者でも、こういう日を利用していっきに昇進することがある。
貴族の方々に見られていると意識すると、緊張をおぼえる。落ちつけ、落ちつけ――とセイは胸裏でつぶやいた。
「よし、来いッ」
「はっ」
槍を構える。
石突き側を右手でつかみ、穂先側を左手でつかんだ。穂先といっても、これは訓練なので、先端は布を丸めたものになっている。腰を低く落として、地を蹴った。
いっきに間合いを詰める。
槍を突き出した。
騎士団長はヒラリと身をかわすと、足払いをかけてきた。足払いをマトモに受けたセイは、シリモチをつくことになった。
急いで起き上がろうとしたのだが、眼前に木刀の先端を突き付けられた。
「ひっ……」
眼前ギリギリだった。
あわや突かれるどころだった。
「槍は突いた後にすぐ引くことだ。だいたいお前の構えは腰が低すぎる。間合いを誤魔化すにしても、もう少し腰を高くするものだ」
「はい」
「もう良い。下がれ」
騎士団長はそう言うと、貴族たちのいる城壁へと目をやった。採点が行われる。貴族の方々は点数の書かれた紙をあげた。
「0点」「0点」「0点「1点」「0点」。
20点以下の者は、解雇されることになっている。
「決まりだな」
騎士団長が軽んじるような目を、セイに向けてきた。
「ま、待ってください。もう一度だけ……」
「チャンスは1度きりだ。これはみんな平等に行われていることだ。残念だったな」
一緒にいる騎士たちが、クスクス。
城壁から見下ろしている貴族の方々も、セイのことを指差して笑っていた。ブザマな結果だったからだろう。
あまりに不甲斐ない結果に、顔の火照りを覚えた。今すぐにでも逃げ出したい気分だった。
(終わった……)
いつかは武功を上げるのだと夢見て2年間。ひたすら雑務をこなしてきたが、無駄な努力に終わったようだ。
大の字になって寝転がった。
曇天が見えた。
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