ISERAS イセラス

三章 6.脱線


ラミアがセラのことを知っている。そしてゼータの彼女こと『セラ』はジェイドと面識がある。
なんら筋違いな事は無い。

「あの人、本当知り合い多いと思いません…? 新しい人と会う度にリードされるんだけど…。今回も空想でリードされてるし」

「確かに多いかもしれんな。奴は物語の主人公にも勝る程の大活躍をしていたものじゃから」

運命が導いたのか、偶然の産物なのか。
今俺は非常に都合の良い相手と出会い、話をしている。
これはラミアさんが凄いのか、ラミアと知り合いであるジェイドさんが凄いのか、俺の運が良いのか。
何故か凄く気になった。

暫くラミアトーク、基、お互いの過去話をした後、リンネラへ向かう手順(作戦)を再び頭に叩き込むようにして予習する。

目標(リンネラ)の、位置も中身(何が目的か)も形も分からない俺に、何か手伝える事はあるのか。
当然の如く足でまといとなった。
出来るのは精々あいずちを打つかお茶を出すかのみで、まともな提案を出せるかすら危うい。

それでもジェイドさんは、不甲斐ない俺でも理解できるよう厚情に指南してくれた。

それを基に早速頭の中で整理し、まず始めに、リンネラとは何かの説明から入る。

リンネラとは、惑星ベテルギウス軍事大国『ASURA』から派生した、戦災被害者保護施設’’マルチシュヴァルツ’’を管理する組織だ。
ここキラの首国『ハイランズ』とは連携を取り合う仲で、惑星’’ピック’’の’’ネメシス’’、惑星’’ドレイン’’の『RAID』との三国連合以外では唯一無二にあたる。

それだけあって、リンネラ行きの輸送船も客船も存在する。
しかし、当然ハイランズ政府に正式な申請を行わなければならない。

ハイランズ特許許可局への申請は、常にリンネラが何かしらに絡んでいるらしいが、俺達は問題を提起せざるを得ない状況だ。

そう、奴らは一触即発の化学兵器。
一度でも逆鱗に触れてしまえば、イサラスを連れ戻す機会なんて未来永劫無いだろう。

「偽名とかつかえねぇの?」

「顔を覚えられた以上は無理じゃな、バッチリ証明写真を撮られる」

そもそも、別の星から飛んできた俺達だ。
身分を証明できない時点で手も足も出ないことは確定している。

とは言え、正直この案が通るとは思っていない。 確かにそれが一番安全な策かもしれないが、何しろ別の星から来た部外者なのだ。わざわざ国を利用するという観念自体が薄い。

「元あるコンテンツに頼るのは無しにしよう」

「は?なに、コンテンツ?どういう事だ?」

「道具を自分から作るってことだよ」

「観念を変えるって話……」

セラはともかく、ジェイドさんにも、この戦いがバリバリのギャンブリングだということを分かってもらえたようだ。

負ける可能性のある戦いを嫌う俺には、これ以上なくawayを味わう戦い。
だが、諦めを考える度にイサラスの顔が思い浮かんで離れない。

俺は逃げる道を失った。
皮肉にも掛金は残っている。

「DAYSを使う訳じゃな」

「そう、DAYSをどうにかして動かしたい」

だが、俺のDAYSに対しての前知識はまっさら同然で(それ以前に全般的に知識が薄い)、何に手をつけようにも不安が伴う。

物事の優劣を判断する為の情報や知識を身につけなければ…。

「よしっ、元よりそのつもりじゃ! ならばわらわが…」

「師匠、俺に全てを教えて下さい!」

「す、すべてじゃと…!?」

「全て教えちゃってください、もう全部! 何から何まで」

思った事を隠すのはやめた。
これからは全て解放しよう。
(とりあえずジェイドさんだけにだけど)

「すごい信頼だな…レクル、もう好きだろこれ」

「もう大好きジェイドさん、今すぐ嫁にしたいよ!!」

「ま、待て待てっ!一旦落ち着くんじゃレクル!…言わずともわらわは協力するつもりじゃ」

そうだ、俺には甘えが足りなかったんだ。
甘えを受け入れてくれる場所がなかったんだ。
ドS性癖もイサラスへの好意も、全て放出してしまおう。

「極限地で甘やかした結果よね……」

「ジェイドもすげえと思うけどなぁ…」

引き気味なリア充二人は、最もな苦笑いを見せる。
なかなか話が進まない事を許して欲しい。




DAYS船内にて、ジェイドさんの責任で調査を行う。
それにしても、彼女の計り知れないこの権限の正体は何なのだろうか…。

今一番の大きな謎といえばこれである。

「うぅむ…やはりそうじゃろうな…」

コントロールパネルとモニターを見合わせながら、手早く操作する。

「レイドの成分が欠乏してるでしょ…」

残りの燃料を表した様なゲージに指をさして、それとなくセラが、ジェイドの一言に同意する。

欠乏と言うからには燃料が足りないということなのだろう。
直接リンネラへ飛べなかったのにも合点がいく。

「セラは分かっておったか。この希釈度でよくここまで行けると思ったものじゃなラミアよ…」

「なんか危ない事でもあるの?」

まるで俺達が既の所で助かったかのような言い回しだ。 確かに危険が危険を呼ぶ大災難だったことには間違いないが…。

「そもそも『DAYS』という船はな、外部エネルギーが無くても動ける物なのじゃ」

「燃料が要らない!?何だそれ、やば…」

俺も心の中でゼータと同じ反応をした。
エネルギーを与えなくても動くとは、これまた驚きだ。

「やばいじゃろ」

車、船、旅客機、一般の移星船でも何かしらの燃料や電力が必要だ。それは一般化されるとか規則とか以前に、世界の物理論に基づいている、所謂’’あたり前のこと’’だ。
だが、『その筈だった、今まではそうだった』へ今正に俺の考えが変わろうとしているのだ。

「いや、すげーわDAYS…」

「じゃが、レイドという液体が必要なんじゃな、これが」

「結局要るんかい!」

ゼータのツッコミの精度が段々と落ちてきている気がする。やはり彼女か…気恥しいのか…。

と言うか、まぁレイドが欠乏してると言っていた時点で、何かしらが必要なのは分かっていた。
それほど驚くことでは無い。

「レイド…」

聞き覚えのある単語だ。
たしかフォトンベルトで習ったような…。

世界共通の万能液’’レイド’’。
商標の『レイド』の意味は、そのままだが’’液体’’から来ている。
一般に大衆が購入するような物では無く、特別なライセンスの取得や、名うての薬剤師にでもならない限り手に出来ない代物だ。

しかし、レイドにはもうひとつ意味があると教えられた。

〜レイド人種〜
第二のフェアコン、或はフェアコンの先祖とも呼ばれるこの人種は、俺たちの使うフェアコンとは全く別の類の異能力’’フェアウェイトレスネス’’(通称:フェアレス)を持つ。
純粋な心からしたら、興味もあるし、会いたいとも思う。
だが世はそう簡単にはいかないらしく、何故かレイド人種は害の対象と扱われ、疎外されている。

「わらわは…、個人的にはあまり好きな物ではないがな…。その液体が無ければ、世は大変な事になる」

「言っちゃうと、DAYSが拒絶反応を起こす…」

「それって要は、飛ばなくなるってことか」

「そうじゃな…。厳密に言えば、正確にそなた等を目的地へ飛ばす確率が、極端に減る…って所かの」

つまり糧としている訳ではなく、危険性を抑える為の安定剤に使っている訳だ。

まるで生きているかのような扱い方だな…。
取り敢えずそれは理解するだけにしよう。

「俺達を飛ばすって…どゆこと?DAYSは?」

「DAYSは飛ばぬ、飛ぶのはそなた等だけじゃ」

何かよく分からなくなってきた。
飛ばない移星船、飛ぶのは俺達だけ…

「ワープ装置か!」

「こう言っては怖いと思うがな…『コピー』されたんじゃ。DAYSとは’’存在’’じゃ。何もひとつでなければならない理由は無くてだな────」

「ジェイドそこまで、…また脱線する気?」

セラがジェイドの話を無理やり遮る。
話が長くなりそうだとは思ったが、しょんぼり気味のジェイドさんを見て少し可哀想に思う。

「あぁ…すまぬ、レイドの取得方法を先に教えないとじゃな。知識共有欲がつい炸裂してしまったのじゃ」

割と聞き入って居たので残念だが、そういう訳にも行かない。
ここはセラの言い分が正しいだろう。



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