ISERAS イセラス

三章 2.のじゃロリ


扉を開けると、そこには何’’羽’’? いや、何’’人’’と言った方がいいだろうか? 

いや、あえてここは’’匹’’としておこう。
人間に似てる様で兎に似た、ある意味イコ的な奴らが何匹も目の前に立っていた。

「おぅ…」

「トメスリギ オブド ゲンマ アリィス!!」

ん?幻魔? アリス? ん?なんて?

「カフロス!  セルト レリ ケシュテラビン カメィラ!」

流石に何を言っているかわからない。
というかこの状況どうしたらいいんだ…!
農民に捕まった宇宙人みたいな演技をしたらいいのか…?

「プ…プレタンス ケイドルタ ウロン…」

「アリィス?」

「ジェラコタ ミアッソ ディーズ ルベトン  ギツレー…?」

疑問符が多いところを見ると、何やら相手も状況を理解出来ていない様子だ。
一番初めに地へ足をつけたのはセラだった。そのまま堂々と兎人をかき分けて進んでいく。

「凄いなぁ、何であんな事出来るのか…」

「感心するところじゃないだろ…」

ゼータのツッコミを受ける。

「じゃあ俺はどうすればいいのよっ!?」

「知らんわ…良いから早くついて行けって」

ギドウとサカキを両肩に乗せてDAYSを後に、キラの地へ足を踏み入れた。




「おうっと、あんたらキラ人じゃない無いね?見たことないし?もしかしてもしかしなくても、あのDAYSから出てきたな?セイホー!!」

突然謎の男に話しかけられてギョッとするが、それよりも驚いたのは相手の容姿と言語だ、俺たちエント人と同じ血を感じる。

「人間…。それにDAYSを知っている?」

「あぁあぁ寒かろうに。ははは、’’グロリアス’’までおいで、案内したげるぜYEAH!!」

そしてそのお口も嫌に達者だ。
いまいち特徴を捉えにくい口調だが、俺達を心配してくれているのは分かる。

星が違うんだし、物の見方や喋り方が変わっていてもおかしくは無いか。

「お願いするわ…」

「お?、お嬢さんプリティやなぁ、宿代は要らへんから、come hereしちゃう?」

「は?」

「や…やめろ変態っ、ていうかお前誰だよ!」

危うくお持ち帰りされる所だったセラをゼータが庇う。

「某は我がグロリアスの港を管理する者…、’’サム・リガー’’でござーい。それより嬢ちゃん、Come hereしちゃわない?」

「しちゃわない!」

何故だろうか。
微かに既視感を覚えた気がする。
始めて来た星なのに…。

俺の今の記憶はエントのものしか残ってないから、本当は会っているのに、会っていないと錯覚してしまっているのだろうか?

だが、過去に会っているならそもそも相手が気付くだろう。

「DAYSがどうとか言ってたけど、何か知ってるのか?サムさん」

「知ってるも何もあの船っつたらな…」

「つったら?」

俺が身を乗り出してしまったせいか、
相手も言いかけて止まってしまう。

「……あぁぁ………いやその話はもうちょっち場を整えてからに、な?」

長くなりそうだからなのか、セラに気を取られているのか知らないが、肝心な話を後回しされてしまった。

「お嬢さん、へへっ。食事も任せていいからさぁ、自分家に来ないっすかねぇ。DAYSの話はその後にでも出来るYO」

後者だった。

「な、なによ…?…そんな物で釣られるわけ…」

「釣られそうなフラグ立てんなよセラ、めっちゃ釣られる流れだぞそれ…」

「フラグ立ったフォォォっ!!!!」

うるさいな!
めっちゃくちゃうるさい。

いい加減サムのノリにうんざりして来た所、道外れの茂みからガサっと音を立てて何者かが飛び出てくる。

「あぁっ!?」

「ちょっ」

そいつは、俺とセラの腕を掴んで再び茂みに飛び込んだ。

「ロクな年収稼がない自分が普通のでいい所を奮発して5倍して買ったふかふかのベッドで、共に夜を過ごし、朝を迎えようではないか!あ?」

「あ、もしかして俺に言ってた…?」

ゼータの顔を見ると、サムは何とも言えない真顔を取り戻して、何とも言わず持ち場へ戻って行ったとさ。




「おいっちょっと!!」

「ヴゥヴゥ!!」

そう声をかけると茂みから出てきたその何者かはピタリと足を止め、俺達に顔を合わせた。

ダウンコートのフードを深く被っていて顔は分からないが、女の子だというのは体格で察することが出来る。

だから少し優しい口調で…。

「あんた…!?何がしたいんだよ」

一間置いて、その少女は被っていたフードを脱いだ。

「わらわはジェイドじゃ。’’ジェイド・ソレア’’」

「…っ!」

金よりかは茶に近いバーリーウッド色の長髪を背の辺で二つに分けて結んでいる。
優しそうでいて勇ましい顔立ち(勿論可愛い)に、赤い瞳が似合っている。

「ジェイド…?」

「おぉぉ、久しぶりじゃなセラ!」

「えぇ…セラの知り合いかよ……」

顔を見せたと思いきや、いきなりジェイドと名乗りセラに抱きつく。

「はぁ〜久しぶりじゃなぁ……」

「お、おぉ…」

古風な口調をした彼女は、頬と頬を合わせたり、頭を撫でたり、これでもかとスキンシップを測っている。

「なかなかいい絵だと思います」

一性癖を持つ人には素晴らしい光景に見えるだろう。(俺もわからなくは無い)

「ちょ、ジェイドっ! レクル…いやらしい目で見ないで…」

「み、見ないよ!やめとけあんた! 殺され…ぶごぉっ」

抱きつかれながらも、巧みな前蹴りを繰り出され呆気なく吹っ飛ぶ。




ジェイド・ソレア。所謂’’のじゃロリ’’と言われるやつで、容姿に反して古風な喋り口調を用する。

其処なセラと昔から知人な様であり、基本的に内気な彼女もジェイドと話す時だけ、本来の性格か明るくなる。

’’ハイランズ’’の首都『グロリアス』なる街へ案内してくれる彼女。さっきのサムとか言う暑苦しい男と変わって、こちらとしては喜ばしい限りだ。

「レクルじゃろ? 噂には聞いておる」

「おぉ、これは…割と嬉しい」

お忘れかもしれないが、俺の名前はレクル・ゼンツイだ。
自己紹介をする時にちょっとした覇権を握れる良い名前だと思っている。

「んでこいつらがギドウとサカキ」

「ヴゥヴゥ」

「おぉ!イコじゃな、珍しい。どっちがギドウかサカキか見当つかんが…」

俺の肩に乗った二匹の首をジェイドが優しく撫でる。とても可愛い。
イコももちろん可愛いが、特にジェイドが可愛い。

「……」

如何な…段々とゲスな発想が芽生えてきた。

「んんっ…! そんで俺はゼータ・タスクレイな、。で…ジェイドは何でこいつらレクルとセラを攫うような事したんだ?」

「攫うとは人聞きの悪い! わらわは、サムのあのナンパ癖からそなた等を回避させるために攫ったんじゃぞ」

ジェイドはサムをすっと見据えると、困った様に頭を搔いてそう答えた。

「結局攫ってんじゃねーか…、てか俺も救出しろよ」

「わらわの腕は二本だけじゃからな、3人は無理じゃ」

「酷でぇ!!」

そう言えばゼータは見事に回避出来ていなかったな…。あのまま行けば、ワンチャンサムにお持ち帰りされて……いや、これ以上はまずいな、ただでさえゲスな方向にいきかねないのに…。

考えないようにしよう。

「…ねぇジェイド…そろそろ離れてくれないかしら?…」

「嫌じゃ」

「よく言った」

とにかく絵面が良いし、安全が保証されている気がする。これ以上ない落ち着きだ。

にしても、なんでそこまでしてセラに抱きついてるのだろうか…?もしかしたらジェイドは…。

ゲスな発想が止まらない。

いや、それより一番気になるのは、ジェイドが露骨にフードを被って顔を隠していたことだ。

「もしかしてジェイドさんって有名人…?」

「いきなりさん付け…レクルって変わり身早いよね」

さんをつけられた当の本人は、とても満足気なご様子。

「私も知らないんだけど、ジェイド。貴方ならそれなりに名も知れてるんじゃない…?」

「多少はな。もっとも、そなたらに比べれば屁でもない」

やれやれとジェイドは、セラから離れてレクルの横に着いた。




雑談もまじり混じり、ジェイドにこれまでの経緯を表明した。
ハリウッド映画のような非日常的な出来事が息付く暇もなく、矢継ぎ早に起きたという事を。

連行されてしまった友人の事を。

親身に相槌を打ってくれる所を見るに、彼女の善人感が出てきている。

「…成程。そのイサラスという子を助けに行くわけじゃな?」

「本当はそのつもりだったんだけどな…? 何故か知んねーけどリンネラじゃなくてこの星に着いたんだわ」

「ほう…まぁそれは後にDAYSを確認すれば良いじゃろう。それより、レクルはリンネラへ行った所でどう助けるつもりだったのじゃ?」

「どう助ける…」

正直マジでなんも考えてない。
例の組織にはあの憎き赤髪の男『ケルト』が居る。
いや、それを除いても、他にも敵は多そうだ。

何せリンネラは、世の慈善組織の中でも屈指の支持率を有していると言われ、デイズの政府でさえ、友好関係を築くには恐れ多いと聞く。

「実力で取り返すか?」

言われてしまった。しかしそれに間違いはない。 
フェアトーナメントの一件で奴らに現実を見せられ、不安が高まるが…。
俺は小さく頷いて目を逸らす。

「レクルにならそんくらい出来んだろ」

「それはどうじゃろうな…。イサラスという子がフェアコンに長けていたのならば、恐らくその大まかな目的は、戦争の兵材に過ぎぬ。だが…」

「イサラスが………戦争に…!?」

不穏な話に反応して、鳥肌が立つ。
それと同時に、冷や汗も混み上がってきた。

「なんと、そこからか……。ラミアも罪な奴よのぉ……」

「…え?」

何かを口ずさんだ様だが、その声は小さく、聞き取れなかった。

「考えててもしゃーねーぞレクル、一緒に確かめに行くんだろ?」

元気づけられるように、ゼータに肩を叩かれた俺は、再び小さく頷く。

相変わらずバイタリティ溢れる良い奴だ。

「だよね」

イサラスは、ああ見えても強い。
闘いこそ嫌うが、その実力は恐らく、俺と同格に及ぶ。

大丈夫だ…。
イサラスが天才だということを忘れるな。

「ほれレクル、前を向かんか」

橙色のあたたかい光が目に飛び込んできた。
ん?ていうか本当に暖かい気が…。

「はぁぁ、何だこの街!?あったかいよぉぉ」

極寒の地獄から解放され、つい息が漏れ出てしまう。
天国とは此処の事だったんだ…
ジェイドに感謝の言葉を送る。

「わらわはただ案内しただけじゃぞ?」

これで、なんとか命を繋ぐことが出来そうだ。



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