ISERAS イセラス

二章 5.懐かしの場所


DAYS(別名:’’2nd PROJECT’’)

かつて、星間を移動する為に用いられた移星船。今でこそ、この工業社会の要となった’’コラプレート’’(RFW反PFW)や’’レコラプレート’’(PFW反RFW)技術のルーツである。DAYSが発掘され、創世主アレスによるEARTHからの贈り物だと崇められる様になったのは この博物館ができる約XX年前 ’’べテラギウス’’最先進国’’ASURA’’に’’ガルト教団’’が出現した頃である。当時は’’世界の出口リブートホール’’まで飛行できるのではないかと多くの研究者を魅了し、社会現象となった。その頃に別名との一致も確証された。

〜尚 本展示物はレプリカです〜
お手を触れないでください

「……だってさ、何言ってるかさっぱり分かんない」

めっちゃ分かりやすくレプリカですって書いてあるけど。

「この記述さ、船が本物だったら嘘書いたって事になるよね」

「そうだな」

「いや、そうだなって……」

身も蓋もないリプをかますラミアさんである。
意外と身近に非常ってあるものだな。
嘘を着いた理由なんて幾らでも思いつける。 だが当然本物だということが事実で、それが公になれば大騒ぎになるだろう。

そのリスクをカバー出来る利得が、その道に転がっていたのだろうか。

下手をしたら悪名高いマフィアに買収されたり、教団からテロを受けたり……。

「…………」

縁起でもない想像をしていて、ふと何かに気がついた。

「……あれ。もし船が動いたとして、その後の博物館はどうなるんだ?……」

こんな巨大なものが一晩で消滅したら、事件所じゃ済まない。
確実に追跡される。
指名手配犯として全世界から追われる羽目に…。

あ、やばい、冷や汗が出てきた、どうしよう。

「潜入は明日の夜だ、館内の構造を大体でいいから把握しとけよ?」

「ちょ待ってラミアさん……。この船飛ぶんだよね? この博物館ってどうなるの?」

「あぁ?……言っただろ?一か八か伸るか反るかだって」

「まじで……?」

ついに常識に囚われる暇なんて無いって所まで来てしまったのか?

DAYSに目を向けながら、俺は息を呑んだ。

「ラミアが言うなら大丈夫でしょ? ……レクルは常識に囚われ過ぎ」

「そうかな……」

俺が心配する事なんて、ラミアさんについて行く時点で必要の無い物だったって事なのだろうか。

その時の俺のラミアさんを見る俺の目は、輝いてはいなかっただろう。

「置いてけぼりなんだけど?」

The 常識人のゼータだけは、今も尚目を点にし続けている。




忘れかけていたこの臭い。
嗅覚と記憶の関係って凄い。
数年も前、それに何日か過ごしただけな筈なのに、その時の出来事が鮮明に思い出せる。

前も説明した通りここ’’ネイチュレ荘’’は、ラミアさんの元家、元居候先だ。
彼は当時から、大家の’’イデア’’さんとは仲が良かったそうだ。

ラミアさんもそうかもしれないが、大分ご無沙汰だから俺も少し緊張が混じっている。

「イデア居るか?」

「おやおや、久々ですねラミア。元気にしていましたか?」

低音ボイスな上によく響く、そして、さながらバーのマスターかのような落ち着き。

「そうすると彼は…。レクルさんでしたか?」

「お久しぶりです、イデアさん」

「え?レクルも知り合いなんか?」

と言っても、会うのはこれで数回目くらいだけど。 ’’これくらいの面識で更に久々’’だと、ちょうどソワソワして落ち着かなくなるレベルというのをおわかり頂きたい。

疑問な顔をするゼータに軽く説明しているうちに、宿泊する部屋も決まる。

「しかし、何故またここに…。まぁ…何となく想像はつきますが。デイズでも、またおいたをしたのですね?」

「お、おいた!?いやいやそんなこたぁ…ない、かも知れないが。色々あったんだよ、察せ」

「何があったのですか?」

「察せって!」

「ふむ…」

構って貰えず残念そうなイデアさんを放って階を上がり、キーホルダーに印字された部屋番号を探す。

セラの居る部屋に寝るという悲劇的な現実に若干の戸惑いが残るが、ひとまず羽を伸ばす。
伸ばさずには居られない。

「ぐぁぁ……まだ右腕が怠い」

片手持ちで、ああも刀を振り回すのはやめよう。いつか神経が千切れてしまいそうだ。

そんな俺に寄り添ってくれるギドウとサカキ。

「ヴゥヴゥヴゥ」

「俺を労ってくれるのはお前達だけだよ…。ほら、大好きな’’イコ缶’’」

「よい……しょ!!ちょ、レクル手伝え」

どデカいスーツケースを一旦置いたと思ったら、いきなり俺に助けを求めてくるラミアさん。

いやー重そうだ、一体何が入ってるんだろう。

「Zzzz」

「寝たふりすんなレクル!手伝えよ!」

「あ、んじゃ俺手伝うよ」

御手洗から戻ってきたゼータが玄関から顔を見せると、そう言ってスーツケースに手を伸ばす。

「んぉ!!…ん? なんだよぉ床とひっついてるじゃんこれぇ」

「冗談言うな」

「え…ラミアの冗談じゃないの?まじで床から離れないよ?これ」

ゼータとラミアさん二人でかかってもまだ重そうにするって事は……。

「今腕使ったらやばいなぁ、死ぬなぁ」

「ちっ、しゃーねぇ奴だな…。ほらゼータ後もうちょいだ、せぇえの!」

「ほぉい!!……だぁぁはっ」

ドスンと音を立てて謎のスーツケースが地面に足を着けた。
ケースのファスナーを勢い良く開けて、中身を着実に出し揃えていくラミアさん。

「カメラ、水筒、寝具……あ、これスマホの充電器な」

「お! 気が利くなラミア」

「ちょ、これ俺の充電ケーブルじゃん!?」

黒色の目立つケーブルを見て、俺は直ぐに自分のだと気づいた。
慣れた手捌きで変換プラグにケーブルをぶっ刺すと、コンセントの場所を探す。

だがそこで重大な問題が発生した。

「あれ、もう刺さってる……」

「残念だったなレクル、さっきの仕返しだ」

「……!!まさか俺に充電させない気!?嘘だよな!?」

スマホを握りながら、その場でへなへなと項垂れる。
こんな事なら出かける前に充電しておくんだった……。

充電はまだ残されていないかと必死に電源ボタンを連打し、抗った。

「もうやめてレクル、とっくにスマホの電力はゼロ……」

そう言ったセラは、虚ろげに自分のスマホにケーブルを刺した。
そして何事も無かったかのように画面をタップし始める。

「いや、スマホ持ってたんかよ!」

「そっちじゃねーだろ…」

ゼータのツッコミは、俺レクル・ゼンツイのスマホ復活の話にとどめを刺した。




陽が沈み、星の光に照らされる。
ネイチュレ荘の屋外カフェテリアにて豪華な夕食を食べ進めながら、ちょっとした作戦会議を行う。
目安として、作戦実行は明日の閉館後となっている。

「当たり前だが、警備員の巡回や監視カメラはバリバリ仕事してる」

「確かに見た、特にDAYS目掛けて疑いを眼差したカメラが何台も」

死角を用いてどう掻い潜りながら進むか。エントミュージアムに到着する以前は、そういった作戦が出る予想だったが、今そもそもの『死角が存在しないのではないか』という可能性が出てきてしまった。
凄まじい警戒度だ。

ネット上に、本物かどうか疑うスレッドすら一件も見当たらない理由をその時理解した。

「まぁそれはいい」

「え、いいって……あの数だと10m範囲にも近づけないと思うけど?」

「いいんだよ」

「お、おお。そっか、いいか」

’’これ’’と言った策がラミアさんの中には浮かんでいるのだろう。
余裕を持って作戦会議は次のステップへ。

「問題は、DAYSを動かすまでの時間稼ぎだ。警備員にうろちょろされてちゃ困る」

「どれくらいかかりそう?」

「多分5〜10分だな、早く見積っても……」

いくら広い館内であっても、これでは巡回路を一周される前に起動するのは厳しい。
従って、難解な問題に揃って上を見上げながら考える。

「だって、どうするゼータ?」

「マジで美味い……いつぶりだろうか…こんな豪華な食事に会えたのは」

「おい」

「あ、すまん、…なんか言ったよな」

食い物の事になるとゼータがボケに回るということを忘れていた。
にしても趣味が食事とは何とも羨ましい…馬鹿っぽいけど。

ラミアさんも『しょうがねぇなぁ』と笑いながら、唐揚げにレモンをかけ始める。

「いいぞゼータ。折角のゴージャスディナーなんだから、もう、無心で食いまくれ!」

「はむぐぅぉお!!」

「ラミア、私唐揚げにレモンかけないんだけど……」

その後は明日に備えて、十分目まで腹をゴージャスで満たした。



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