ISERAS イセラス

一章 9.自称保護者


「あんたらいつもあんな感じだったのか?……」

「いつもって言っても、イサラスが居る時だけな?」

そのイサラスは先程用事が出来たとの事で、俺たちの元を去って行ってしまった。

こんな野郎3人で出店巡りしたって何の面白味もねぇよ!ということで、大人しく休憩所の椅子に陣を取る。
あの’’可憐な華イサラスが舞い降りるまでは…。

脚が痺れるまで待ってやろうじゃねぇの。

「レクルとあのイサラスが同居してたんだもんなぁ…どんな感じだったんだ?」

「知りたいか?仕方ないなぁ、保護者の俺が特別にぶっちゃけてやろう!」

「ちょっとラミアさん?」

なんということだ、ゼータが引き金を引いたせいで早速俺とイサラスが恥をかくハメに…。

名を呼び掛けても、ラミアさんはわざとらしく無視して来るので、仕方なく俺は耳を塞いだ。
聞きたくないからなるべく聞こえないようにする。

「まぁずぅー! 家にぃ帰ったぁらぁ! イサラスのぉ部屋がぁ空いてなぁいかをぉ、かくぅにぃんしてぇ」

「うぉっほほぉぉぉ、やめちくりぃぃぃぃ!!」

声がデカすぎる。
わざわざなんでそんな大声ださなきゃいけないんだよ。

「空いてたらぁ!、中にはいっ……イタイタイタタタ」

ここぞとばかりに髪の毛を引っ張る。
って言うか、そんなことやった覚え無いんだけど?

ラミアさんは呑気に笑いながら俺の背をベシベシと叩くが、俺は全く笑えていなかった。

「変な話捏造しないでよ!」

「いやいや事実だって!」

嘘だ、事実な訳ない!
俺の心がそう言ってるんだぜ!? 
自分に嘘なんてつけるはず…。

「事実じゃ…?」

……あれ?おかしいな、はっきりとその絵面が思い浮かぶような…。
何だこれ、変なの。
でも多分気のせいだよね。

「…うっしゃ…」

見えない所でラミアが渾身のガッツポーズ。

「逆に’’入れなかったら諦められる’’ってとこになんか闇を感じるなぁ……」

「そ、そんなことないって、うん」

だんだん否定できる自信が無くなってきたから、この話題はお開きにして欲しい。
俺がイサラスのこと好いている事実がバレてしまいそうだ。

あとイサラスが戻ってきそうで怖い。

すると、『そうそう』とラミアがゼータに指を指しながら話題を振った。

「そうだそうだ、レクルがイサラスを好きだってこと知ってたか?」

やめちくりぃぃぃ
あんたは恋愛に目覚めた友人をおちょくるちょっとうざくて空気の読めない小学生だよ!

そう言いたくなるのを辛うじて抑え、胸に手を当てて深く呼吸する。

「今更っすよラミアさぁん。…あ、ラミアさんって呼んでもいいか?」

「いや呼び捨てでええぞ。さんつけるのなんてレクルだけで十分だし、ワイもゼータって呼ぶから。いや〜やっぱ知ってたか〜」

なんか、LINOの定型文?

「もうやばいよ、見れば分かる。片思いオーラがもう……こう、何というか凄いと言うか」

「そんなにか?」

もう俺の精神はズタボロだ。
まさかこんな休憩所にエクストラバトルイベントが配置されているなんて…誰が想像するだろうか。

震え混じりの溜息をちょうど吐いた時、俺は目の前に人の影を見た。

イサラスか!?
まさかこの話を聞いて……。

覚悟して首を上げると、そこには予想外の人物がいた。

「あれ」

全然イサラスじゃ無かった。
イサラスじゃ無いけど、知ってる顔。

「…メルトか。なんか用?」

二回戦で苦戦させられた’’メルト・ウェルシュテリア’’。

首をあげると言っても、君達の想像する角度では無い。
こいつの背の高さのせいで、120度近く上を向かなければならなかった。
しまった…首が痛い。

「そう、絶対王者の君に用がある」

「気散じにでも来た?セコンドはいないみたいだけど」

「お邪魔っぽい?……」

ぎりぎり聞こえる小声でそう言ったゼータは、俺達の視界でいきなり、お得意のフェードアウトを披露した。

だがこの男はそんなことはしない、ラミア・ゼンツイ。 
それどころか、まじまじとメルトの顔を見つめているではないか。

「何処かで見た顔だな……」

なんか言ってる。
俺達の会話とは別でなんか言ってる。
俺も流石に真顔になった。

「レクル・ゼンツイって言ったよな?」

「そうだけども?」

「僕の…師匠になってくれ!!」

「…………」

メルトの用件は、こんな俺への切実な教訓欲だった。真っ直ぐな目をしていて、嘘をついているとは到底思えない。

唖然とした俺の手を引いては目を輝かせ、俺に唯ならぬ何かを求めた。

「し、師匠?…俺が?」

「あ!!思い出したぞ!!」

「どうした急にうるさいな!」

友情的なシーン(強制)に強引に割って入るラミアさんは、驚いた顔でメルトに指を差していた。

「あぁあぁあぁ、思い出した思い出した…。クラフトの’’ネイチュレ荘’’で隣だったよなぁお前」

口を開けたまま頷いてラミアさん…。
とっても嬉しそうだ。

話題は反れるが、ここはラミアさんに話を合わせるとしよう。

「何で知ってるんだ?ネイチュレ荘は僕が間借りしてる所だが…。隣……あっ」

「ラミアさん、こいつと知り合いなの?」

どうやらメルトは、昔ラミアさんが住んでいた荘の隣の住人だったらしい。
道理で顔しか覚えていないとか言った訳だ。

場所は、カラミテムイ大陸南部の西の方に位置する’’クラフト’’という町にある。

昔からの有名処で、観光地と言われる場所には博物館やオシャレな雑貨屋等が並ぶ。
デートする時なんかはさぞかしうってつけだ。
俺も昔そこに’’居たこと’’がある。

「FPP34200、クラフト学園のメルト・ウェルシュテリアだ、宜しく」

それはさて置き。
例の、メルトの’’師匠募集’’だが、
俺は快くOK…するはずが無い。

断るに決まってる。
そもそもこいつに教えることなんてこれ以上ない。というか能力の類が違って教えるのが面倒くさそう。

「首をつらぬいたんだよ? 普通憎い奴だと思わん?」

「そんなことないさ、僕は強い人には敷かれる人だからねぇ」

戦った時の印象とはまるで違うな…。
人に対する敬意も、言葉遣いも。
優しささえ感じる

「いや、やっぱり無理だよ。俺に師匠なんて」

「…頼む!僕は強くなりたいんだ!僕とガイアと、君のような監督が居てくれれば、無敵になれると思わない?」

「あんたらは十分出来たファイターとセコンドじゃん?俺の入る余地なんて無いくらいに」

それを聞いた彼は目を丸くして、どこか不敵な笑顔を俺に見せる。

「……分かったよ。あぁ〜あ、せっかく強そうな人見つけたのに」

痛い倒し方をしてしまったせいで、断るのも罪悪感があったが、それも彼の人柄の良さに救われる。

「ひとつだけ教えるけど」

「はい?」

「弱い人にも優しくな」

不貞腐れたように鼻で笑い、彼は輪の中から去っていくのであった。



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