ISERAS イセラス

一章 8.分かち合い


「そう、なんか……声を掛けられてるみたいな感じがさ、こいつ直接脳内に! と言うか…」

「ほぉほぉほぉ……、それで?」

「時間が止まる感じがするんだ…。別の世界を見てるような、夢を見てるような…」

「はぁ……」

「で気付いたら相手の首を?こう…貫いてたって感じ?、うーん…これをどう人に伝えればいいんだろ」

残りの準決勝と決勝は後日に行われる為、その後は大人しく家へ帰った。

ラミアさんも、こんな信じられない様な話を茶化すことなくよく真面目に聞いてくれたものだ…。
当の俺がよくわかっていないのだから、弁護も何もあったものじゃない。
事実だとしても証拠はへにょへにょ。

ただ魔が差しただけには収められない’’何かがあった’’と強く訴えはするものの。
結局は『異能力者って言う位だから』と、ラミアさんは若干はぐらかしながら言い収めてしまう。

そんなことよりも彼は、俺の決勝戦の方が心配になっているらしい。
このまま行くと、間違いなくあの恐ろしい殺人鬼……セラ・ミュールと対峙することになるからだ。

そんなこんなで翌日。
ラミアさんは学校まで着いてくることになった。




「お?まさかのラミア登場?」

「うっす!まさかの登場、久しぶりだなぁイサラス!」

この人のことは、気のいい家主の兄さんと捉えてくれればいいだろうか?
イサラスは、気軽に話せる兄貴的存在として見ている…いや、そうであって欲しい、俺達と大差ないほどに若顔だから地味に怖いんだよなぁ…ラミアさん無駄にハンサムだし。

「あれだよね? 何だっけあのー」

「育て親」

「あそう!それや、言い方忘れてた」

確かゼータには、話を聞かせたことあるだけで実際に会わせるのはこれで初めてだ。
自分の親を紹介するみたいでなんかむず痒恥ずかしいなぁ…。
本当の親を知らないから断言はできないけど、多分実の親を紹介する時もこんな感じなんだろうな。

「首だって首!」

「うひぇー……痛そう」

学校全体が俺とメルトの試合の話で持ち切りだ。お陰で俺はヘコヘコしながら廊下を歩かなければならない。
ラミアさんには、噂になっていることをあまり知られたくないんだけどな…。

「居心地悪いぃ…」

俺を支配するのは一体なんだ……?
羞恥心か?……いや違う。
やはり俺に誰かが声を掛けている…自分じゃ無い自分が心の中に居るみたいだ。

「即死攻撃仕掛けるなんて柄じゃないな、レクル」

「ね! てか寧ろあんなに苦戦したの初なんじゃじゃない?」

俺へのイメージが、優男になっていたんだな、いつも見ているイサラスやゼータからは。

相手を即戦闘不能にさせる、所謂 奥の手的な技が出るなんて、大会を見てればざらにあることだけど。
やれリタイアだの棄権だの、俺の相手は滅法めっぽう自棄になって諦める奴が多い。

それに関しての俺の悪いイメージを聞かなかったリャイは、大したことない人だと勘違いして痛い目を見た良い例だろう。

「変に魔が差したっていうか…よく分からない」

「普通にあるからな?そういう話」

やっぱりラミアさんはその言葉で収めようとする。 
それについて彼がはぐらかす理由が俺には分からないのだが…。

「それよりお前、決勝どうするんだ」

「ん?どうする?……おぉ…別に、普通に闘うけど」

「セラとやり合うんだろ? ’’間に合わせない’’みたいなことされたらどうすんだよ」

「…………」

結論から言うとあのセラって奴は、試合の最中で俺を戦闘不能にさせ、何らかの方法で治療を阻ませて結果死なせようとしている。
これ以外に、フェアトーナメントで相手を殺す術が無い上に、逆手に取るには一番効率的なやり方だ。

そう、奴から直接’’殺す’’と宣言されたんだ。
その方法による企みを忌避する他ないだろう。

前に言った通り、フェアトーナメントの試合では戦闘不能という状態異常に陥らせても勝利ができる。
昨日のメルトのように、戦闘不能になった相手は大会自ら蘇生処置を行う。
死んでいようが軽傷だろうが本人が希望するなら全治癒状態、’’戦う前の体’’にまで治療してもらうことが出来るのだ(当然死んでいれば強制的に蘇生される)。
だが逆に言えば、万が一’’処置を行わなない’’なんて事態があれば、倒れた選手はそのまま目覚めず……。

死を顧みない猛者共の集まりなのだ、この大会は。 FPPがあれば簡単に出場できるような、そんな甘いものじゃない。

「何の話?」

「??」

いきなりの身内話で、他の二人は着いてこれていないみたいだ。
が、無理に教える必要も無い。
もし奴が俺に勝てる程の人なら、世間でもっと騒がれていても良いはずだからね。

「だってラミアさん、やるなら大会でバチバチして来いって言ってたでしょ」

「あれは、彼奴セラを帰らせる為の口実だったんだよ!」

「嘘だ! 『ここ 俺んちだから』とかいってた!」

「誰が好きで自分の家を戦場にするかよ!」

「あ、そうか……、ラミアさんの家ボロ屋だから壊れるの心配?仕方ないか!はっはっは!」

「んだと!?」

口論が始まる。

「なーんで学校にまで来て喧嘩してんだろ?」

イサラスは小声でそう言うと、仲裁者みたいな態度で俺達の会話に入った。

「ストップストップ!いい?まずうちらに事情教えよう? 喧嘩が始まった理由すら分からないけど?入りようにも入れないからね? 喧嘩に」

「その前に喧嘩止めない?」

ゼータは、イサラスが喧嘩に混じろうとするのを止めることが出来るだろうか。

似たもの同士俺達。
一昔前、3人であのボロ屋で暮らしていた時も、よく俺とラミアさんは口論になっていた。
そしてそこへイサラスが仲裁に入るのがお約束なのだ。
イサラスが居るから、気が緩んで言い争ってしまうのもあるかもしれない。

「それとね?レクル、…あなたも…、その…ボロ屋住まいでしょ?」

「うっぜぇぇぇぇっ!?」

我慢出来ずこの一言。
前言撤回、全然こいつも喧嘩相手になるわ。
自分ひとりあの家から独り立ちしてるから余計憎たらしい。

「ははは、よく言ったぞイサラス!ボロ屋ボロ屋ぁーっ」

「あぁ…もうツッコミきれねぇ」

ゼータは、呆れ半分でそう言った。
彼が熟練されたこのノリに乗れる日が来るのは、いつになるだろうか…。

肝心なことも居心地が悪いのも全て忘れて、ラミア家は久々の勢揃いを喜び、分かち合うのであった。



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