REMEDY
発症
……少女と出会って3日が過ぎた日の朝、朝陽が小窓から差し込み部屋の中を明るくする。穏やかな日々が続いている。けして、身体的に安らぐ日はほとほと無い。しかし、少女と過ごす日々は僕に安らぎを与えてくれる。
…無意識に孤独を感じていたが、今まではそれを意識出来ないものと無理に信じようとしていたのかも知れない。
きっと、この少女は自分が僕に何をもたらしてくれたかは分からないだろう。
しかし、僕はこの少女がくれたものを大事に大事に心の中にとめてある。
そう、僕にはこの少女の存在がなくてはならないものなのだ。
「おはよう」
「おはよう」
「今日も良い天気だね」
コクコク
「昨日は忙しかったから、無理だったけど、今日は余裕があるから一昨日みたいに通りをぶらつく?」
コクコク
………
「ねぇ、今日はどこか見たい所ある?」
コクコク
「どこかな?」
「………」
「言ってみて?」
「………」
「あ、この前の店かな?」
…コクコク
「なるほど、じゃあ行こうか」
瞳が少しだけ少しだけ輝いたように見えた
……
「ねぇ、気に入った物はある?」
コクコク
店に入り、彼女の目にとまった物を見る
「これ?」
コクコク
「…そのお花は商品じゃ無いよ、単に店の地面に生えてるだけだよ」
「しんあい」
「しんあい?」
コクコク
「花言葉かな?」
コクコク
そう言って、彼女は花を摘むと僕に渡した。
花弁が薄い桃色の小さな花。茎は細くてもしかっりとしている。けして、店で売られているような華やかさは無い。だけど、可愛らしい、綺麗な花だ。
僕はこの花を押し花にしようと思い、本を買って、それに挟んだ。少しすれば紙が水分を吸って、綺麗な押し花になってるだろう。
「この本を君にあげるよ」
「お花」
「ああ、お花は僕にくれた物だね。でも、僕は不器用だから本もお花も駄目にしてしまうかもしれない。だから、君が持っててくれる?」
コクコク
不意に普段は上がらない自分の口角が上がるように感じだ
「ありがとう、綺麗なお花をくれて。だから、その本は僕からの恩返しだと思ってね」
「おんがえし?」
「そう、恩返し」
コクコク
………
ガカタガタガタ
店が押っ広げていた店先の戸を閉める
人通りが少なくなって、淋しい通りとなった街路を少女と歩いて帰る。
夕陽の照る中、彼女の小さな手を握る。昔見たドラマの親子が手を繋いで歩いている所を思い出す。綺麗な夕陽の中の仲睦ばしい姿が印象的だった。
…………ダッッ…
「…!?どうしたの?急に走りだして。どこに行くの?」
突然、少女が一人手に走って行った。その後を追う。
まだまだ、浅い付き合いながらも、彼女は今まで一度も一人手に行動を起こすことは無かった。しかし、今、何かをはっきりと目指してただひたすら、彼女の中の何かが彼女を突き動かしているように見えた。
いったいどこに向かって、少女は走っているのか……そうして走っている内に少女と出会った寂れた廃村らしい所に来た。そうして、少女はあの倉庫跡のような所に入っていった
「ねぇ、こんな所まで来てどうしたの?」
……
「もう夜になるから、帰らないの?」
……
「ねぇ……」
倉庫跡の奥の方に佇む少女に話しかける
少女からの返答は無く、さらに近くで話そうと思って、僕は倉庫跡の中に入っていく…。
…ギラッ…シュッ―
剣だ…。入口を抜けるやいなや、横から殺気だつのを覚え、その方から距離をとろうと地を蹴るが……不覚にも肘下を斬られた。血が湧き水のように流れる。深く斬られたのだ。
切り落とされ無かったのが幸いである。
瞬時、斬りかかられたことは理解出来たが、それがどうしてか…何故ここに待ち伏せをし、自分を斬らんとする者がいたのか…分からなかった。
「チッ!上手くいかなかったか…」
斬りかかった者が独り言ちる。一体こいつは……?
「おい!隠れてる奴ら全員出て来い!!こいつを囲め、囲め!!」
ゾロゾロ…
足音を僅かにたてながら、急に現れた者達が僕を囲む。何処から集められた者達なんだろうか…衣服、武器、雰囲気までも統一感はなく、まるで奈落者の集まりかのような粗悪な集団。
気がつけば、それは既に僕の真後ろにも及んでいた。しかし、未だあれ以来誰一人として斬りかかって来る者はいなかった。雰囲気は個々に違えど、その点に関してのみ規律を守っているように思えた。
「なぁ…あんたはこの状況を、まだ飲み込めてないだろ?」
「……!?」
不意の問いである。
ニヤァ―…
斬りかかった男は歪な笑みをうかべていた。
「なぁ、どうしてこうなったか……それが分かってないんだな?」
男は続けた。
「お前さんは鈍感な人だなぁ?折角だからぁ~、…殺す前に教えてやるよ!」
取り囲んだ男達の中から倉庫の奥側にいた人があの、倉庫の奥に走っていった少女の手首を摑んでこっちに連れてくる。
「おい!連れて来たお前、そいつをこっちに」
はいはい、と指示された男は適当に返答する。そしてそいつは指示した、さっきから喋りかけてくる男の横に少女を並ばせる。
「いいかぁ、俺が今からいいもん見せてやるよ」
饒舌な男は少女に向かって、はっきりと喋りかける。
「これから、この少女は一字一句違えず、話し方すら変えずに俺の言葉を復唱しまぁーす。……私はお人形さんでぇーす!」
「私はお人形さんでぇーす!」
「悪い女に捕まってましたぁー!」
「悪い女に捕まってましたぁー!」
「格好いいお兄さんが助けに来たのにこの女がお兄さんを痛めつけ、終いには、この女は残虐を尽くして私を拉致りましたぁー!」
「格好いいお兄さんが助けに来たのにこの女がお兄さんを痛めつけ、終いには、この女は残虐を尽くして私を拉致りましたぁー!」
「だから、これからこの女を私自ら殺しまぁーす!」
「だから、これからこの女を私自ら殺しまぁーす!」
男は少女に本当に寸分違わず復唱させる。
クスクス
取り巻きが声をもらして笑う。そうして、周りが少し落ち着くのを待って、男は少女の本を持っていない方の手に自らの剣をやり、その耳もとでボソッと語る。
「眼前の女をこの剣で殺せ…」
少女は剣を持つとまっすぐに僕の方にゆっくりとした足取りで向かってくる。
「なぁ、お前はこの少女を殺したり出来ないだろぉ?なんたって、大事にしてたもんなぁ~。俺はずっと見てたぜ。お人形でしかないこいつを連れ回して、着せ替えたり、プレゼントしたり、お人形遊びは楽しかったかぁ~?」
饒舌な男の言ったことに取り巻き達は腹を抱えて笑った。僕はただ呆然とした。
コツコツコツ…―
僕は少女が剣の間合いに入り、立ち止まったことを認識してやっと気が戻った。
少女が剣を掲げて斬りかかる。地面を蹴って避ける。また少女が斬りかかる。避ける。……そうしていくうちに取り囲んでいた者達の目の前まで退いてしまった。…剣をとろうにも手が異常に震えてとることが出来ない。彼女を斬ることを考えると嗚咽がする。…さらに下がろうとすると囲んでいた者達に蹴られ押し戻される。そうして、少女の剣が僕の体を浅くさいた
「おいおい、早く死んでくれよ~!」
饒舌の男が笑いながら言う。
いつの間にか取り囲んでいた者達のいくらかが僕の体を固めて、少女の方に向ける。僕は体の奥底から這い上がってくる感情に支配された。
理不尽だ…。……コロシテヤル…
…………
はっきりとまともな思考に戻った時には僕と饒舌の男一人を残して、他の者達全員事切れていた。酷い有様だ。多くの死体はすべて怯えたような、苦痛なような表情のまま死んでいた。しばらくすると、光に包まれて消えた。
饒舌の男は腕を無くして腰を抜かしていた。
男には表情すら浮かんで無かった。
「ねぇ…」
「………」
「聞いてる?」
「………」
「あなた、誰?」
「………」
……………
シュ…―、…ボトッ
男の首が地面へと落ちる。
何を聞いても反応も無いため、切り落とした。そうして、饒舌の男も光に包まれて消えた。残ったのは僕一人。夕日はほぼ完全に沈んで薄暗い。その中、今日買った本を拾い上げ、開く。
お花は変わらず、愛らしいままだった。
…無意識に孤独を感じていたが、今まではそれを意識出来ないものと無理に信じようとしていたのかも知れない。
きっと、この少女は自分が僕に何をもたらしてくれたかは分からないだろう。
しかし、僕はこの少女がくれたものを大事に大事に心の中にとめてある。
そう、僕にはこの少女の存在がなくてはならないものなのだ。
「おはよう」
「おはよう」
「今日も良い天気だね」
コクコク
「昨日は忙しかったから、無理だったけど、今日は余裕があるから一昨日みたいに通りをぶらつく?」
コクコク
………
「ねぇ、今日はどこか見たい所ある?」
コクコク
「どこかな?」
「………」
「言ってみて?」
「………」
「あ、この前の店かな?」
…コクコク
「なるほど、じゃあ行こうか」
瞳が少しだけ少しだけ輝いたように見えた
……
「ねぇ、気に入った物はある?」
コクコク
店に入り、彼女の目にとまった物を見る
「これ?」
コクコク
「…そのお花は商品じゃ無いよ、単に店の地面に生えてるだけだよ」
「しんあい」
「しんあい?」
コクコク
「花言葉かな?」
コクコク
そう言って、彼女は花を摘むと僕に渡した。
花弁が薄い桃色の小さな花。茎は細くてもしかっりとしている。けして、店で売られているような華やかさは無い。だけど、可愛らしい、綺麗な花だ。
僕はこの花を押し花にしようと思い、本を買って、それに挟んだ。少しすれば紙が水分を吸って、綺麗な押し花になってるだろう。
「この本を君にあげるよ」
「お花」
「ああ、お花は僕にくれた物だね。でも、僕は不器用だから本もお花も駄目にしてしまうかもしれない。だから、君が持っててくれる?」
コクコク
不意に普段は上がらない自分の口角が上がるように感じだ
「ありがとう、綺麗なお花をくれて。だから、その本は僕からの恩返しだと思ってね」
「おんがえし?」
「そう、恩返し」
コクコク
………
ガカタガタガタ
店が押っ広げていた店先の戸を閉める
人通りが少なくなって、淋しい通りとなった街路を少女と歩いて帰る。
夕陽の照る中、彼女の小さな手を握る。昔見たドラマの親子が手を繋いで歩いている所を思い出す。綺麗な夕陽の中の仲睦ばしい姿が印象的だった。
…………ダッッ…
「…!?どうしたの?急に走りだして。どこに行くの?」
突然、少女が一人手に走って行った。その後を追う。
まだまだ、浅い付き合いながらも、彼女は今まで一度も一人手に行動を起こすことは無かった。しかし、今、何かをはっきりと目指してただひたすら、彼女の中の何かが彼女を突き動かしているように見えた。
いったいどこに向かって、少女は走っているのか……そうして走っている内に少女と出会った寂れた廃村らしい所に来た。そうして、少女はあの倉庫跡のような所に入っていった
「ねぇ、こんな所まで来てどうしたの?」
……
「もう夜になるから、帰らないの?」
……
「ねぇ……」
倉庫跡の奥の方に佇む少女に話しかける
少女からの返答は無く、さらに近くで話そうと思って、僕は倉庫跡の中に入っていく…。
…ギラッ…シュッ―
剣だ…。入口を抜けるやいなや、横から殺気だつのを覚え、その方から距離をとろうと地を蹴るが……不覚にも肘下を斬られた。血が湧き水のように流れる。深く斬られたのだ。
切り落とされ無かったのが幸いである。
瞬時、斬りかかられたことは理解出来たが、それがどうしてか…何故ここに待ち伏せをし、自分を斬らんとする者がいたのか…分からなかった。
「チッ!上手くいかなかったか…」
斬りかかった者が独り言ちる。一体こいつは……?
「おい!隠れてる奴ら全員出て来い!!こいつを囲め、囲め!!」
ゾロゾロ…
足音を僅かにたてながら、急に現れた者達が僕を囲む。何処から集められた者達なんだろうか…衣服、武器、雰囲気までも統一感はなく、まるで奈落者の集まりかのような粗悪な集団。
気がつけば、それは既に僕の真後ろにも及んでいた。しかし、未だあれ以来誰一人として斬りかかって来る者はいなかった。雰囲気は個々に違えど、その点に関してのみ規律を守っているように思えた。
「なぁ…あんたはこの状況を、まだ飲み込めてないだろ?」
「……!?」
不意の問いである。
ニヤァ―…
斬りかかった男は歪な笑みをうかべていた。
「なぁ、どうしてこうなったか……それが分かってないんだな?」
男は続けた。
「お前さんは鈍感な人だなぁ?折角だからぁ~、…殺す前に教えてやるよ!」
取り囲んだ男達の中から倉庫の奥側にいた人があの、倉庫の奥に走っていった少女の手首を摑んでこっちに連れてくる。
「おい!連れて来たお前、そいつをこっちに」
はいはい、と指示された男は適当に返答する。そしてそいつは指示した、さっきから喋りかけてくる男の横に少女を並ばせる。
「いいかぁ、俺が今からいいもん見せてやるよ」
饒舌な男は少女に向かって、はっきりと喋りかける。
「これから、この少女は一字一句違えず、話し方すら変えずに俺の言葉を復唱しまぁーす。……私はお人形さんでぇーす!」
「私はお人形さんでぇーす!」
「悪い女に捕まってましたぁー!」
「悪い女に捕まってましたぁー!」
「格好いいお兄さんが助けに来たのにこの女がお兄さんを痛めつけ、終いには、この女は残虐を尽くして私を拉致りましたぁー!」
「格好いいお兄さんが助けに来たのにこの女がお兄さんを痛めつけ、終いには、この女は残虐を尽くして私を拉致りましたぁー!」
「だから、これからこの女を私自ら殺しまぁーす!」
「だから、これからこの女を私自ら殺しまぁーす!」
男は少女に本当に寸分違わず復唱させる。
クスクス
取り巻きが声をもらして笑う。そうして、周りが少し落ち着くのを待って、男は少女の本を持っていない方の手に自らの剣をやり、その耳もとでボソッと語る。
「眼前の女をこの剣で殺せ…」
少女は剣を持つとまっすぐに僕の方にゆっくりとした足取りで向かってくる。
「なぁ、お前はこの少女を殺したり出来ないだろぉ?なんたって、大事にしてたもんなぁ~。俺はずっと見てたぜ。お人形でしかないこいつを連れ回して、着せ替えたり、プレゼントしたり、お人形遊びは楽しかったかぁ~?」
饒舌な男の言ったことに取り巻き達は腹を抱えて笑った。僕はただ呆然とした。
コツコツコツ…―
僕は少女が剣の間合いに入り、立ち止まったことを認識してやっと気が戻った。
少女が剣を掲げて斬りかかる。地面を蹴って避ける。また少女が斬りかかる。避ける。……そうしていくうちに取り囲んでいた者達の目の前まで退いてしまった。…剣をとろうにも手が異常に震えてとることが出来ない。彼女を斬ることを考えると嗚咽がする。…さらに下がろうとすると囲んでいた者達に蹴られ押し戻される。そうして、少女の剣が僕の体を浅くさいた
「おいおい、早く死んでくれよ~!」
饒舌の男が笑いながら言う。
いつの間にか取り囲んでいた者達のいくらかが僕の体を固めて、少女の方に向ける。僕は体の奥底から這い上がってくる感情に支配された。
理不尽だ…。……コロシテヤル…
…………
はっきりとまともな思考に戻った時には僕と饒舌の男一人を残して、他の者達全員事切れていた。酷い有様だ。多くの死体はすべて怯えたような、苦痛なような表情のまま死んでいた。しばらくすると、光に包まれて消えた。
饒舌の男は腕を無くして腰を抜かしていた。
男には表情すら浮かんで無かった。
「ねぇ…」
「………」
「聞いてる?」
「………」
「あなた、誰?」
「………」
……………
シュ…―、…ボトッ
男の首が地面へと落ちる。
何を聞いても反応も無いため、切り落とした。そうして、饒舌の男も光に包まれて消えた。残ったのは僕一人。夕日はほぼ完全に沈んで薄暗い。その中、今日買った本を拾い上げ、開く。
お花は変わらず、愛らしいままだった。
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