REMEDY

形の無い悪魔

薬効

赤々とした夕日が差す
辺りは温かな赤みをおびていく
閑散とした雰囲気より今は
僕と少女を温かな雰囲気が
包んでいるように感じた


    「君、名前は?」

  「……、わかんない」

    「どこから来たの、お家どこ?」

  「わかんない」

    「…ねぇ、これからどうしたい?」

  「わかんない」

    「行きたいとこは?」

  「わかんない」


じゃあ、一緒に来てと言うと

コクコク

と頷くだけ
そうして、彼女は立ち上がろうとすると転けそうになって、
不意に彼女の手を握って支えた

なんだか、手の温もりが心地よくて、
つぶらな瞳の愛くるしい、
お人形さん・・・・・みたいな彼女を放っておけなくて、
その手を握ったまま街へと向かう

    「お腹空いてない?」

  「空いてない」

    「喉渇いてない?」

  「渇いてない」

会話が上手く弾まない。
僕が人付き合いが不得手であるからかな?
でも、彼女はちゃんと僕の語りかけたことに返答をくれる。
不思議と彼女からは

 いやなもの

を感じられなかった

裏があるような言葉も
濁った表情も
人を見下す態度も

全く感じられなかった。

ただ、何もないかのように透き通る瞳が綺麗だった。


……

ーーガチャ

    「ここで一緒に寝泊まりできる?」

  コクコク

    「じゃあ、ここが君の新しい我が家だよ!」

  コクコク

いつもの宿に彼女を連れて帰って来た。何一つ変わった様子もないのに、何処となく、普段の閑散とした部屋がなぜだか、家具に天井、床や壁が無機物的に見えず、まるで生き物のように見える。こそこそ話でもしているかのように。

 (…新しい住人だ!)
 (なんだか、大人しそうな子だな~)
 (いつもの人もいるね)
 (あの人は僕たちを気にしないね)
 (新しい子は大事に扱ってくれるかな~?)
 (さぁ?知らないね)
 (壁なんか、汚されたりしてね…)
 (それを言うなら、箪笥はまた、角が折れるんじゃないかぁ?)
 (え、いやだなー。いつもの人が既に足を2回もぶつけて、片一方の角はもう無いんだよ)
 (最後のもなくなるかもね)
 (ふふ、これからあの子も僕たちと暮らすんだね)
 (そうだね、長く一緒に暮らせるかな?)
 (そうであって欲しいね)

……
彼女と部屋で軽くおしゃべりをした。そうして、陽が傾いて来たから、一緒に食事をしに行った。…一通り食べ終えた時、不意に今日の依頼がなんだったか、思い出せなくなって、見てみたら、『未解決』になっていた。
人助けは彼女を助けたのだから、したはずだと思っていたが…どうやら、それは人助けに入っていなかったようだ。仕方なしに宿屋の女将さんにお手伝いをさせて頂いた。

……

    「おはよう」

  「おはよう」

    「よく寝れた?」

  コクコク

    「飲み物、飲むかい?」

  コクコク

……ゴクッゴクッ

    「美味しい?」

  コクコク

    「食べたいものある?」

  「ない」


陽射しが小窓から入り、薄明るい部屋の中ただのんびりとしていた。身体的には暖かくかんじないが、部屋の中がまるで春の陽気にでも包まれたような気がした。それが胸の奥までゆっくり、深々と沁みるように温めてくれる。なんとも、気持ちが良い。




    「お外に買い物にでも行こう。」

  コクコク


………
街に出て、道なりをぶらぶら、少女と歩いていく。出店の並ぶ通りに差し掛かると普段は見向きもしない店々を見て廻った。
 様々な品を並べて、鮮やかに彩られた店先がずらっと並ぶ通りは綺麗であった。
 この少女と一緒に居ることでまるで、今まで見てきた物がまったく新しく、美しく見える。

 きっと、暖かな陽気が僕の心を包んでくれてるからだろう


ーキラキラ

 持ち上げたペンダントが陽の光に照らされて輝く。

 雑貨屋に立ち寄って、少女に何か手ごろな物をあげられないか?と店内を一緒にぶらついていた。そうして、ペンダントを見つけ持ち上げて彼女の首にかける。


    「どう、このペンダント、好き?」

  コクコク



 いつも薄らと笑みを浮かべていた少女がこの時ばかりは一際、笑みをこぼしたように見えた。

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