REMEDY

形の無い悪魔

応急処置

街のかがやきが眩しい
夕方は活気に溢れていて
辺りを見回せば人々の
しゃべり声、笑い声
僕の今の心情には眩い
ゆっくりと街を一瞥しながら歩いていくと約束していた食事処に着く

ガチャ

「遅かったじゃないか」
「ごめん…考えごとをしていた」
「考えごとって、飯食う前にしたって意味ねーよ!さぁ皆揃ったし、食うぞ!」
「は、はいそうしましょう」
つくえの上には料理の盛られた皿が出揃っていた


カッチャン


「うーん、皆、ここにきてからどれくらいたったけか?」
「どれくらいか忘れましたね~」
「3ヶ月ですよ、えっと、たぶん」
「お!もうそんぐらいたったか!」
「はやいですねー」
食べ終えた頃、皆で来た時の話題で盛り上がった。僕も驚いたものだ。知らない人に急に“あなたは選ばれました。”と声を掛けられた時は。そして瞬く間に見たことのない景色へと辺り一帯変わっていたんだから。そして、“毎日、依頼をこなさないといけない”と言われた。どうやら、こなさないと死ぬらしいがまだ体験したことはない(体験出来るはずもない)。日によって簡単であったり、難しかったりするが、およそ不可能だと思えることは一度としてなかった。
 食事処を出ていつもの宿屋へと向かう

ガチャ

「また明日な!」
僕は部屋に他の人がいると眠れないからと訳を言って・・・・・僕だけ部屋を変えて貰ってる
僕はいつものように汲んできた水筒の水と自作の椿(たぶん)の石鹸で体を洗う
お風呂がないからこんなやり方でしか体を洗えないけど、体を洗えるというだけで嬉しい

カチャ

体を洗い終え、寝るまで少し時間があった。食事での会話が盛り上がったので気分がよかったからか、皆の部屋を久々に訪れようと思った。扉の取っ手に手をかけると不意に中の話声の方に意識がいった
「なぁ、あいつだけ違う部屋に泊まるだろ?まじで、ありゃないわ!まず、俺、あいつんこと嫌いだわ」
「まぁー、その気持ち分かりますよ~。身勝手な振る舞いが多いですもんね。いない方が雰囲気が盛り上がって楽しいです」
「それにそれに!今日の依頼なんかあいつ無しでも絶対達成できたと思います。最近は上手く三人・・での連携もできるようになって危なげなくこなせるようになりましたしたし、あいつだけ連携とらず勝手にやるし、さっさとどっかいってくれって感じです!」

僕は話の内容を聞いてひどく滑稽に思えた
僕のいない所では饒舌の奴にか、又は三人が僕の陰口を本人が聞いてるとも知らず、しゃべり倒していることにか、それとも、僕自身にか わからなかった
僕は取っ手から手を離すとそのまま部屋へと踵を返した。

僕は部屋に帰るとそのまま寝台に突っ伏した。確かに、元々人付き合いは苦手なんだと思う。でも、
 恥ずかしい
皆があんなふうに思っていただなんて知らなかった
 苦しい
独りぼっちの圧迫感がする
 辛い
明日も明後日も僕は気づかないふり・・をして独り生きていくのではないかな

 あのゴブリン達は死ぬまで仲間を想い戦ったのか。死んだ仲間を想い戦ったのか。死んでも仲間に想われていたのか。あの小柄のゴブリンは仲間のことを言っていたのか。
 もしそうなら、僕はあのゴブリン達の一員として生まれてきた方が幸せだったのかな

もとい、僕が無知ならよかったのに


次の日の依頼は“洞穴の中に箱があるか見てきてほしい”というものだった。依頼としては珍しいものである、討伐でも、採取でもなく、“見てきてほしい”というのだから
少し、不穏なものを感じた 


どうやらその感は当たったらしい
洞穴の中に入るとそこにはポツリと真ん中に小さな箱が置いてあった。不意に一人が箱に手を触れると急に何十匹もの大狼に囲まれた。
確かに、触れていい とは言っていなかったがこれではあまりにも、
理不尽である
戦闘に及んでは全く歯が立たない
剣で斬ろうにもはじかれ、当たっても傷一つ付かない。全く、
理不尽である

「すまん!助けてくれ!」
双剣士の一人が狼に深い傷を負うと僕の前の狼の数が少なくなった。どうやら、一人を二人が守ように応戦しだしたことで狼達はこれ見よがしにと三人の方に集中しだしたようだ。今さら三人の方に加勢しても、対峙する相手の強さを鑑みれば、全く意味ないように思えた。そう、思っていると、ふと ある考えが浮かぶ。
 「おい、どこに行くんだよ!」
 「まさか、一人だけ逃げるんですか?!」
 「この人でなしがぁ…」

 僕だけ逃げればいいんじゃないか?

丁度、今僕が相手にしている数はさっきより少ない。それに、出口の方に一匹の狼もいなかった。だいたい、僕を罵った奴らをどうして助けなくちゃならない?

そうして、僕は後ろから聞こえる怒号や悲鳴、断末魔を無視して洞穴から出た。幸い、後ろから追ってくるのはなかった。不思議なことに爽快感があった。が、それ以上につよく罪悪感が混じった何とも言えない気持ちとなった。だから、
 
気にすることをやめて、忘れよう

忘れてしまえば、無知であるのと変わらない。煩わしいことは自身の中に無ければ、
恥ずかしくも 苦しくも 辛いくも
ない
ただ、僕は僕が幸せに成れることだけ思って生きていけばいい

そうして、腑に落ちないと思っていたこともまるで嘘のように無くなった

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