女神と天才の異世界冒険譚

たぬきち

帰還

「終わった、終わった」

 俺はオーグレタの死体に近づき、解除スイッチを探す。

 しかし、よく考えたらこいつ服も着てないし、一体どこに……。

「胃の中みたいだね」

 ルネはそう言うと黒いワームホールから、解除スイッチを取り出す。

 それは黄色と黒の縞模様の台に、赤いボタンが乗せられており、更にその上にカバーが付けられている。まさに……いや、むしろ爆破スイッチのようだった。

 調子乗ってドクロマークまでついてるし。こんなものをよく胃の中に入れたものだ。

「マジかよ……何でまた……」

「そりゃこんなものオーグレタにとっては不必要なものだからね。壊したかったんだろうけど、僕が作った物だからね。壊せなくて胃の中に隠したんでしょ」

 なるほど。確かにありそうだ。

「んじゃ、早速戻って押すぞ」

「わかったのじゃ!」

 ルネから解除スイッチを受け取り、アリスに絶対空間の解除を頼む。

「じゃあ、ルネ。また何かあったら頼むのじゃ!」

「あー……まあ暇だったら協力するよ」

「……」

 アリスがルネと別れの挨拶をしている。

 俺としてはもう面倒なのでこういう事は二度とごめんなのだが。マジで。本当に。

「じゃ、真人君。頑張ってね」

「お前もな。……冗談抜きで」

 別にそこまで思い入れがあるわけじゃないが、一応地球は俺の故郷だからな。

「大丈夫だよ、Mark2もいるし」

「ワシも真人と行くのじゃあー!」

 ルネに首根っこを掴まれたMark2がジタバタと暴れている。

 まだ居たのかよ。

「まあ、後三日程度しか維持できないだろうけど、その間はこき使わせて貰うつもり」

「のじゃ!? まさかお主そのつもりで……」

「流石に他の女神のコピーは本人の協力が無いと作れないからさー」

 Mark2はアリスを驚いた顔で睨みつける。

「……まあ、なんじゃ……ワシも地球は大切じゃしの」

「この裏切り者めええええ!」

 バツの悪そうなアリスにMark2は叫ぶが、ドナドナと引きずられて消えてしまった。

「しかし、三日程度じゃあんまり助けになんねーじゃねーのか?」

「まあ、三日だけでもルネはこっちに集中出来るじゃろうし、多分アイツの事じゃから……」

「なんだ?」

「いや、何でもないのじゃ」

 どこか気になる発言をしながらアリスは、絶対空間を解除した。

「っと。こっちは夜だったな」

「じゃな」

「そいじゃ、帰るか」

「そうするのじゃ」

 俺達がそう言って帰ろうとしたその時、

「あんたら、クラスメイトが倒れてるのに無視するなんて、どういう事かしら?」

 俺とアリスの肩を誰かが掴む。

「え?」

 慌てて振り向くとそこには、一人の青年と三人の少女が居た。

 肩を掴んでいる少女以外は、立ち上がる事も出来ないようだが、生きてはいるようだ。

「……クラス……メイト?」

「ワシは覚えとるぞ!」

「え?」

 俺よりアホなアリスが覚えているだと……馬鹿な。

「そう! お主に負けた事をな!」

 俺が必死に少女の顔を思い出そうとしていると、アリスは少女の手から抜け出し、青年の所へ向かう。

「さあ! 再戦するのじゃ! ラック!」

「……この状況で?」

 ラックは両腕の骨が折れ、変な方向に曲がっている。……痛々しい。

「足があるじゃろ、足が! それも駄目なら口が!」

 アリスはそう言ってトランプカードとライトを取り出す。

「いや、ちょっと……ねえ、そこの君からも――」

「あ、思い出した! マリーとエリーとサオリだ!」

「……何でアンタの方が覚えてるのよ」

 俺は残りのマリーとサオリの元へと向かい、怪我の具合を見る。

 どちらも酷いもので二人共歩けそうもない。

 しょうがない。クラスメイトは助けるべきか。

「……よっと」

 俺はサオリとマリーを両肩に抱えると、学園へと歩きだす。

「ちょっ、離して下さいよ! こんな荷物みたいに……」

「うぐっ……振動が響く……」

「アンタなに考えてるのよ。二人は怪我人なんだからもっと優しく……」

 しかし、女子三人には不評のようで俺は一旦、二人を下ろす。

「じゃあどうしろと?」

「うーん……」

 エリーは眉間に皺を寄せながら考えている。

 自分も所々怪我しているようで、辛いだろうに……気丈な奴だ。

「仕方ないわ。こうしましょう……」


◆◇◆

「はぁ……」

 結局、両腕は無事なサオリが俺の背におぶさり、片腕が折れているマリーを抱えて運ぶ事になった。

「まさか、お姫様だっこされるのがこんな冴えない人なんて……」

「落とすぞ」

「何だか父の背中を思い出す……加齢臭か?」

「落とすぞ」

 途中、誤って数度落としてしまったが、何とか俺達四人は学園へと辿り着いた。

 ちゃんとアリスには勝負が終わったら、帰ってくるように伝えている。

「ど、どうしたんてすか! その怪我は!?」

 サルビアの所へ連れて行くと、サルビアは慌てて三人に回復魔術を使う。

 見る見るうちに治っていく三人を見ていると、本当に魔術とは凄いものだと実感する。俺も早めに回復魔術は覚えておいた方が良いのかも知れない。

 覚えられたらだけど。

「それで、一体何かあったんですが?」

「「コイツにやられました」」

 サルビアが心配そうに尋ねると、マリーとサオリの二人が息を合わせて俺を指差す。

「待て待て待て! 俺は運んでやっただけだろうが!」

 何て恩知らずな奴らだ。人間って結構重いんだぞ。一応、女の子だから言わなかったけど。

「運んだって……途中、何回落としてくれやがりましたよね!?」

「少なくとも三回……いや、四?」

 数えてやがったか。しかし、いらんこと言うからだ。

「わかりましたから、本当は何があったのですか?」

「あの、それが……」

 俺を除いて唯一まともなエリーの話によると、一緒に居たあのラックとかいう青年がオーグレタの討伐の依頼を受けていたらしく、四人で挑んだらしいが、当然ボコボコにされてしまったらしい。

 そして、オーグレタが爆発がなんだと言って何故か殺さずにいたところに俺達が登場。

 気づいたらオーグレタは消えていて、俺達だけが居たという話だった。

「……とりあえず、生徒を危険に晒したラックはボコボコにした上で王都とギルドに報告するとして、オーグレタを――」

「勝ったのじゃー! 二十連勝なのじゃー!」

 サルビアがなかなかに酷いことを言っていると、ドアを壊す勢いでアリスが入ってくる。

 その手にはまるで出前か何かのようにボロボロのラックとやらが乗っている。

 そのラックを雑に放り投げるとアリスは、エリー達三人を見て、一瞬固まる。

 そして、

「……えーと、心配したんじゃよ?」

「……アンタ、いい性格してるわ」

「か、回復を…………!」

 アリスの視線が大海原を泳いでいる中、ラックが回復魔術を求める。

 だが、サルビアは残念ながら魔力が無いと首を横に降った。

「…………」

 本当かどうかは……氷のように冷たい目をしているサルビアのみが知る話だ。

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