女神と天才の異世界冒険譚

たぬきち

オーグレタ④

「うおおおおおおおお! 馬鹿やろおおおおがあ!」

 俺は刀を呼び出すと、オーグレタに斬りかかる。

 こんな事は初めてだ。体が言う事を聞かない。考えて行動しろと頭は言っているのに、体は勝手に攻撃を繰り返す。

 どうやら俺は本気で怒っているようだ。天才だなんだと調子に乗って、失敗し、Mark2に助けられた俺に。

 命のかかった勝負なのに、卑怯な手は使いたくないと馬鹿な事に拘った俺に。

「くっ! 仕留め残ったか……」

 オーグレタの体にいくつもの赤い線が入るが、致命傷には至らない。

 弾かれるような硬い皮膚ではないが、それでも深くまで斬り込めないだけの硬さがある。

「仕方ない……」

「ちっ! 逃げるなよ!」

 オーグレタは自身の初期位置へと瞬間移動する。

 俺の正面、八マス先へ。

 それと同時に手番が切り替わり、俺のターンとなる。

「悪いな、マナト。これからは逃げ回り、魔力の回復に当てさせて貰う」

「……」

 なるほど。瞬間移動を使い、初期位置に戻ったのはその為か。

 奴の周りには俺の駒がいない。確かに逃げ回られたら厄介だろう。

 ……逃げられたらな。

「……のじゃ?」

「な、何故コイツが……」

 手番が切り替わると同時に、オーグレタの横にアリスMark2が現れていた。違いはドレスの色ぐらいか。

「Mark2は駒じゃない。将棋にクイーンはいないだろ? それよりはむしろ、呪いに近い」

「酷い言い草なのじゃー! 誰のおかげで助かったと思っとるんじゃー!」

 将棋では相手の駒を奪えるが、同じようにMark2も奪われてしまった訳だ。

 しかし、Mark2は駒じゃないからな。手駒には行かず、オーグレタの所へと現れた訳だ。

「Mark2! お前の作戦で行く! アレを頼む!」

「わかったのじゃ!」

 Mark2がそう言うと同時に、その手には大きな対物ライフル、バレットM82が現れる。

 相変わらずチートな奴だ。

 バレットM82とはフィクションでもよく使われるセミオート式の狙撃銃である。

「……何だそれは……?」

 オーグレタが顔に焦りを浮かべながら尋ねる。

 何かはわからなくても強力な武器であることはわかるのだろう。

「待ってればわかるのじゃ!」

 アリスはニヤニヤしながら、バレットM82に対して右手のリングを触れさせる。

「……くそ! 何故だ! 何故攻撃出来ん!」

 オーグレタはどうやらMark2を攻撃しようとしているようだが、味方を攻撃することは出来ない。当たり前だ。

「投げるぞ? 真人」

 アリスは武器の登録が終わったようで、俺に向けてリングを投げる。

「バッチコーイ」

「喰らうのじゃ!」

 Mark2は大きく振りかぶると、渾身の力を込めてリングを投げる。

 俺の動体視力でもギリギリ見えるレベルのそのリングは、駒たちの間をすり抜け、俺の手のひらにぶち当たる。

「痛いって! 何するんだよ!」

 手のひらに思いっきりめり込んだリングを外すと、少し血が出てきている 。

 あのやろう。

「人を呪い扱いした罰なのじゃ!」

 アリスはふんっと鼻を鳴らすと、地面に伏せ、なにやらシーツを被る。

「使い方はわかるか!?」

「男ならみんなわかるよ!」

 Mark2の問いかけに当然のように答える。

 男なら誰だって好きな武器を調べて、いつか使うその日を夢見るものだ。

 当然、俺も。

「じゃあ、行くよ!」

 地面にバレット82を設置し、寝転がり、狙いをつける。

 そういえば非殺傷武器になってるはずだが、ヘッドショットすると、どうなるのだろうか。

「試してみるか……」

 俺は照準をオーグレタの頭に定め、大きく息を吐き、そして止める。

 ダァン! と大きな銃声と共に放たれた弾丸は少し狙いが外れ、オーグレタの右肩を吹き飛ばす。

「ぐおおおおおおおおお!」

 オーグレタの汚い悲鳴を聞きながら、俺は一発目の着弾点から、位置の調整を行う。

 幸い、ここは無風だ。高さも水平、距離もそう離れてはいない。

 初めて撃つ俺でも当てる事は出来るはずだ。


◆◇◆


「ふう……そろそろいいか……」

 俺はゆっくりと立ち上がり、駒を動かす。

「ルネ! この場合、どうすればいいんだ?」

 オーグレタの体は現在、頭と胴体を残すのみとなっている。

 あの出血量ならもう少ししたら死ぬだろう。

 結局ヘッドショットは決まらなかった。恐らく、非殺傷武器になっているからだろう。

 俺の腕が悪いわけではない。ああ、そのはずだ。

「とりあえず、Mark2が指すしかないんじゃない?」

「ああ、なるほど」

「真人が相手か、面白いのじゃ!」

 戦況は五分五分と言った所か。オーグレタを疲弊させる為に特攻させたりで、結構駒が奪われている。

 まあ、負けるつもりはないが。

「全駒されても泣くなよ?」

「お主こそな」

 俺とMark2の一局は……後数手と言う所で、オーグレタが死に、終わってしまった。

 仲間の仇を取ろうと、Mark2の前で悔しそうに剣を振る金の歩兵が印象的だった。

「来てたらハチの巣にしてやるところじゃ!」

 そう言ってサブマシンガンを携えたMark2が吠えている。

 ……やっぱり女神はどいつもこいつもチートだ。

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