女神と天才の異世界冒険譚

たぬきち

アリスのイベント③



「うう……真人……」

「はいはい」

 背中でアリスが苦しげに呟く。言葉の響きからただの寝言の様なものだろう。

 ……それにしても……どうしたものか。

 少なくとも俺はアリスが嫌いではない。では、好きなのか? と、言われるとそれも違う。

 何故ならアリスは確かに可愛いと思っているが、それは妹や弟のような感情だ。

 直接的に言うならセックスしたいとは思えないし、いつも一緒に居たいとも思えない。

 だけど……。

「……私と……神……そして地球……」

「何の夢見てるんだか……。何かSF系のタイトルっぽいけど」

 のじゃ口調がなくなっているということは、普通に寝言だろう。つまり、あの時も途中まではまだちゃんと意識があって言っていた訳だ。

 酒……じゃないけど、あれの力を借りてでも、俺に自分の気持ちを伝えようとしたんだ。俺もそれに応えるべきだ。

 だから、俺もちゃんと言おう。

 アリスが目を覚ましたら。俺の気持ちを。自分の言葉で。

「違う、違う……スプーンはそこじゃなくて……ああ、なるほど」

 それにしても……真面目な話、何の夢なんだろう。

「でも、フォークの方が……楽か」

 食事か? まあ他人の夢なんてどうでもいいか。

「美味しい……真人……食べたい」

「え?」

 ……何だか夢の中の俺が大変な目にあってる気がする。

「それに綺麗……特にこの眼」

「……っ」

 肩に垂れ下がっていたアリスの手が、俺の頬に触れる。

「あ、アリス……?」

「……………………」

 俺は少しだけ、足を早めると急ぎ学校へと戻った。

◆◇◆

「ふー……」

 何とかアリスの部屋へと辿り着くと、そのままベッドに下ろす。
  
 一安心だと一息ついた後で、ふと床を見ると、あの手紙が落ちている。

 ……そういえばこの手紙……。

「っ!」

 慌てて時計を見ると、既に22時を回っている。

「アリス! おい! 起きろ! ルネに連絡を取ってくれ!」

 確かあの手紙は0時を回ると爆発するとか書いていたはずだ。

 しかも、半径13キロ。

「なんだよもー……あ、真人?」

 アリスは起きたようだが、視界がハッキリしていないのか凄い人相で俺を見る。
  
「おい! あの手紙は本当に爆発するのか!? それともお前を助けに来た時点で爆発しないようになってるのか!?」

「…………うにゃあああああ!」

 時間が無いこともあり、慌てて問い詰めるた結果、アリスは叫び声をあげ、布団を被り、閉じこもる。

 何でだよ。この一分一秒が惜しい時に。

「アリス! おい! 聞こえてるだろ! 手紙は爆発するのか!?」

「聞こえんのじゃ! ワシは何も知らんのじゃ! 真人に告白なんてしてないのじゃよー!」
 
 あー……なるほど。こいつ今更照れてるのかよ。

「それはとりあえず置いといて――

「何で置くのじゃよー!? ワシ、だいぶ勇気振り絞ったんじゃぞー!?」

 あーもうどうして欲しいんだよ! この女神。まだ酒が残ってるのか四割増しで面倒臭い。

「あーじゃあ、先に答えるぞ。……アリスの気持ち「やめるのじゃ! のじゃ! のじゃ!」

 俺が返事をしようとすると、アリスは布団から飛び出て来て俺の口を塞ぐ。

 この女神まじでなんなんだ。

「わかっておる! わかっておるのじゃ!
ワシにとってはずっと見てきた相手じゃが、真人にとっては突然出てきた美少女じゃもんな? だから返事はこの冒険が終わった時にしてほしいのじゃ! ただワシは覚えていて欲しいのじゃ! ワシがそのアレじゃということを……」

 さり気なく自信過剰な発言が混ざってるが、まあいい。

 アリスがそう言うならそれもいいだろう。

「…………」

 とりあえず手を離せ、とアリスの手を指差すと、おずおずとアリスは手を離す。

「……とりあえず手紙の件を片付けたい。あれは本当に爆発するのか?」

「らしいのじゃ!」

「……どうすんのこれ?」

 俺は手紙を拾い上げ、アリスに見せる。

「心配無いのじゃ! 解除するスイッチも貰ってるのじゃ!」

 そう言ってアリスは懐を探る。

 何だ、そんなもんがあったのか。慌てて損した。のじゃ率も上がってるし、一安心と言ったところか。

「あれ? のじゃ? のじゃ?」

 そろそろのじゃの使い方を考えさせないといけないような気がするな。

 ……というか嫌な予感がする。

「……あ、不味い。そうじゃ……オーグレタの奴に奪われたんじゃった!」

「は?」

「あやつが何か賭けないと本気になれないとか言うもんじゃから、つい……不味いのじゃぁ」

 アリスは落ち着きなく、右往左往している。

「…………そういうことか」

 やられた。あの野郎……。良いやつだと思ったのに。

 何が気をつけて帰れだ、あの野郎。

「な、何とか取り戻そうとしておったら、お主が来たから……」

 アリスが何か言っているが、聞いてる暇はない。早くオーグレタから取り戻さなければ。

「アリス、とりあえずサルビアに報告しに行くぞ!」

 俺は慌ててアリスの部屋から飛び出て、サルビアの部屋へと向かう。

 最悪の場合、避難しないといけないかもしれない。そうなったら俺達よりもサルビアの方がずっと役に立ってくれるはずだ。

 手紙はとりあえずズボンのポケットに突っ込んでおいた。

「サルビア! 居るか!?」

 サルビアの部屋の扉を叩き、返事を待つこと数秒、慌てたように扉が開く。

「何事ですか?」

 少し驚いた表情のサルビアはアリスを見つけ、微笑んだ。

「どうやら無事助けられたようですね。ラックには会いましたか?」

「ラック? それが誰か知らないけど会ってないと思う。って、そんなことより大変なんだ! オーグレタを早く捕まえないと……」

 慌てる俺に対してサルビアは何故か冷静だ。アリスが攫われた時は結構慌てていたのに。
 
「落ち着いて下さい。オーグレタなら大丈夫です。21時を回った時点で、約束通りギルトへ連絡させて頂きました。すると既にオーグレタの話は把握しており、王都の騎士、先程話したラックが討伐に向かったとの事でした」

 王都の騎士? それは凄いのか? 何だか嫌な予感がするんだけれど……。

 だが、格闘はともかく剣術や槍術と言った武器術では俺よりも上のサルビアが、信頼しているのであれば、大丈夫……か?

「念の為、この辺りで半径13キロに何もない場所とか無いか?」

「そうですね……オーグレタの小屋を抜けた先の林を抜けた先の広大な海となっているので、あの辺りなら周囲に何も無かった気がします」

 駄目だ。なかなかに遠い。……ちっ。とにかく時間がない。とりあえず今はオーグレタのところへ向かおう。

 最悪の場合、アリスにサルビアへと念話して貰えばいいだろう。

「……すみません。とりあえずオーグレタの元へと向かおうと思います。ギルドへの連絡、ありがとうございます」

 俺はサルビアに礼を言って、オーグレタの元へと向かう。ラックとやらが倒していればいいんだけど……。

 ……何か聞き覚えはあるけど、どこで聞いたんだっけ……。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品