女神と天才の異世界冒険譚
アリスのイベント①
(真人ー! ワシの部屋に来るのじゃー!)
サルビアの部屋へと向かう途中、アリスからの念話が入る。
部屋ならさっき見たが、何か変化があったのだろうか。
慌てて戻るが、部屋に変化は見られない。
(そろそろ着いたか? そこにな、手紙が落ちとるじゃろ?)
まさか……。
(意味不明に見えるかも知れんがな、これは暗号なのじゃ!)
こいつまさか……。
(ワシも慌てておったから、簡単な暗号しか作れなかったんじゃ。何故慌てておったかは……王手じゃ! 詰みじゃ! お主の負けなのじゃー♪)
俺が部屋に来なかった時の為に自作自演を始めやがった。
しかもこれ将棋打ってるだろ。
(手持ちの歩での詰みは禁止じゃと? それどこルールじゃ? 異世界のルールなんて知らんのじゃ!)
地球だよ。お前が作ったはずだろうが。
(あ……、た、助けてくれなのじゃー! もう真人なら解けたはずじゃろ? 早速指定した場所に向かうのじゃ!)
下手な演技しやがって。しかも、一番大事な場所だけ言わねーし。
そもそも俺は怪我してるし、今日の夜はD棟でギャンブルゲームの出店について話を聞きに行くんだ。
明日以降でいいだろ。
(なお、その手紙は今日の夜0時を回った時点で半径13キロを巻き込み、爆発する)
……嘘だな。どう見てもただの手紙だし、アリスも魔術は使えないはずだ。13キロって微妙すぎるし。
(ルネからはそう聞いているのじゃ。まあ、そんな訳でもしも真人がワシを助けに来なかったら、安全の為に21時を回った時点でワシとお主は地球に戻ることにするのじゃ!)
ぐぬう。ルネか……あいつはよくわかんねーんだよなぁ。それにあの時の電話、もしかしてこの手紙作らせてたんじゃ……。
それに今はまだ、戻りたくねーな。
仕方ない。今が夕方の5時……急げば間に合うだろう。
(そろそろ解けたかのう? なんならヒントを……待った! 待ったなのじゃああ!)
……もうちょっと頑張れよ。設定も将棋も。
◆◇◆
「サルビア、アリスが攫われたんだがどこにかわかるか?」
俺は食堂でサルビアを見つけると、そう尋ねる。
「え? 私は何も聞いていませんが、大丈夫なのですか?」
聞いてないのかよ! アリスの野郎抜けすぎだろ。
(その手紙はな、かが、みになって、しは、んになって、あさが、たになって、おわ、りとなるのじゃ! どうじゃ? わかったかのう?)
それはわかってんだよ。場所だよ。場所をいえよ。
「大丈夫……じゃないな。場所がわかんねーと助けにも行けねーし、もしも21時を回ったら元の世界に帰ることになってしまう」
「それはまた……金づるが……」
ボソリと何か聞こえた気がするが、気にしない。今はさっさとアリスの下へと向かわなければ。
「じゃあ、オーグレタって知ってるか?」
「オーグレタ!?」
ガタリと音を立てて椅子から立ち上がるサルビア。
どうやら知っているらしい。
(じゃからのう、その指示に従って手紙を読むと、ワシが攫われたので助けに来てくれとなるのじゃ!)
うるせえな。これ。オンオフを切り替えれればいいのに。
「知っているも何も、オーグレタは魔王軍の四天王の一人、暴虐の魔人ですよ! これは私達でどうにか出来る問題ではありません。ギルドに報告しないと……」
サルビアは立ち上がり、出口へと向かう。
しかし、大事になってしまうのは避けたい。一人で来るように言われてるし。
仕方ない……あいつにはここに連れてきて貰った恩もあるし、少しは芝居に乗ってやるか。
「サルビア! やめてくれ! オーグレタが残した手紙には俺に一人で来るようにと、書いてあった。他のやつの姿が見えれば、アリスを殺すと」
俺は折れていない方の腕を震わせる。握りしめた拳からは血が流れている。
「もし、あいつに何かあったら俺は……」
オーグレタさんごめんなさい。ホントは手紙残したのアリスだし、そんな事も書いてなかったけど。
まあ暴虐の魔人らしいし、いいでしょ。
「真人さん……わかりました。ですが、21時までてす。それ以降はいなくなったあなたに代わって、必ず私達が助け出してみせます!」
サルビアは優しい顔で俺の手を握る。
少し心が痛い。
(あーっ!)
うるさいな。こいつは。びっくりするだろうが。
(そういえば場所を書いてなかったのじゃ! えーと、ここはどこかのう? うーん……おい、オーグレタ。ここどこじゃ?)
それだよ。アリス。やっと気づいてくれたか。
(ふんふん。町外れの小屋? なんじゃ、意外と近いんじゃのう。……あー、確かに遠いと移動で時間が取られてしまうからのう。お主の様に転移が使えれば、話は別じゃがのう)
オーグレタさん、良いやつじゃん。こっちの手間も考えてくれるなんて。
にしても、転移だと? そんなチートに勝てる気がしないんだけど。どうしよう。それに、
「町外れの小屋か……結局どこだよ」
町外れと言ってもこの町も結構広い。その上、方角もわからないし土地勘もない。
(と言う訳で真人、頼んだのじゃ。早く助けに来てくれなのじゃ。ちゃんとそういう感じで頼むぞ)
どういう感じだよ。方角を言えよ。くそ。
「町外れの小屋……ああ、3日前に急に現れた謎の小屋ですね!」
「知っているのかサルビア」
「うむ。町の者たちが不審に思い、私の方に調査を依頼してきたのだ。ノックをしたが返事がなく、面倒だったので魔術で吹き飛ばそうとしたんだが、壊すことはできなかったのだ。かけらも」
何でそのネタを知っているのか気になるが、劇画調になったサルビアが解説してくれた。
サルビアはあの漫画確かに合いそうだ。
「真人さんも知ってるんですね蹴散らせ! 尽く!」
「それは知らない」
一度ルネとは話しておかねばなるまい。そのままパクった方がマシだと言う事を。
「とにかく場所はどこなんだ?」
「えーと、東の町外れにある林の中に開けた場所があるんですが、そこに建ってました」
「わかった! ありがと!」
俺はサルビアに礼を言うと走り出した。ここからはアリスの為にも真剣にいこう。
「待っていろよ……アリス!」
俺は町外れの小屋へと急いだ。だが、途中でジャージが売ってあったので買って、着替えた。戦闘になる可能性か大きいからな。動きやすい服装じゃないと。
「……お腹空いたな」
そして晩飯を食べていなかったので、バイト先のラーメン屋へと向かった。腹が減っては戦は出来ないというからな。なかなか美味い。
「甘い! これが俺のタイガーシュートだ!」
お腹が一杯で動き辛い。少年達がサッカーをしていたので、混ぜてもらった。腹ごなしには丁度いい。怪我はハンデだ。
「ふー。いい汗かいたー」
そして、心地よい疲労感を感じながら自分の部屋へと戻ってきた。
たまには外に出るのもいいものだ。そんな事を考えながら風呂の準備を進める。
(真人、まだかのう? そろそろ20時なのじゃが……)
…………。
無言で時計を見ると、確かにその時間を指している。
ふむ。
「待ってろよ! アリス。必ず助けてやるから!」
俺は全力で走り出した。
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