女神と天才の異世界冒険譚

たぬきち

学園①

「さて、と」

 殆ど眠れなくとも朝は来る。しょうが無い。確か七時までには教室に向かわなければいけないはずだ。

 俺は手早くシャツを着ると、ネクタイを締め、ズボンを履き、上着を着る。

 一応、昨日汗をかいたのでシャツは洗濯してある。

「行くか」

 まずは食堂で朝飯を食べないとな。甘いものが食べたい。疲れた。


 食堂に着くと、アインとライルとケインが座っていた。こいつらも睡眠はそんなに取れてないはずだが……。

「おはよう」

「おう。おはよ」「おはよー」「昨日は大丈夫だったか?」

 お盆にチョコレートケーキらしきものを五つばかり乗せ、三人と同じテーブルに座る。

 他には今の所誰も来ていない。

「いやー、あの後サルビア先生に回復魔術を頼みに行って……いや、この話は止めよう」

 もう忘れたい。

「それより三人とも元気だな。あの後、すぐに寝たとしても三時間程度しか寝れてないだろ?」

 三人の選んだものはどれも肉類で、朝から食べるには少し重そうだ。

「あー……俺の魔術で起きてても睡眠時と同じ効果が得られるからな」

「え?」

「最初聞いたときは羨ましかったけど、戦闘には余り使えないよね」

「いや、体力や魔力の回復速度も上がるからな。なかなか使い勝手はいいぞ」

 俺の疑問の声は聞こえなかったのか話はどんどん進んでいく。

「ていうか、魔術って炎とかの属性だけじゃないのか?」

「はあ? 何言ってるんだよ。確かに珍しいかも知れないが、名前ぐらいは知ってるだろ? 固有魔術だよ」

「固有魔術……?」

「あ、そう言えばマナト君はそういうのに詳しくなかったね」

 説明するよ。と、アインに聞かされた話は非常に興味深いものだった。

 この世界の住人の半数程度は生まれた時点で、魔術版と呼ばれるカードで自身の魔術の才能を知るらしい。

 この魔術版はそれなりに高価で、庶民には手が出ないが貴族にははした金程度らしい。ちなみに魔術学校へ入学すれば最初に貰えるとのことだ。

 魔術版に素手で触れることにより、その者が持つ魔力量、魔術ポイント、使用出来る魔法がカードに記載されるらしい。

 魔術ポイントとはその人自身が持つ才能の事で、それを使用できる魔法に振り分ける事で、それらの魔法の成長限界が決まる。

 つまり、100pt持っていたとして炎魔法に50、水魔法に30、風魔法に20と振り分ければ、炎魔法はレベル50まで、水魔法はレベル30まで、風魔法は20まで成長することが出来る。

 その割り振りは生まれた時点で親が選択している事が多く、子供をどの方向に成長させればいいかわかるので、大変便利らしい。

 だが、魔術ポイントが少なく才能が無いと思われ、捨てられる子もいるらしい。

 またポイントが豊富でも使用できる魔法もまた、個人で違う。

 炎魔法しか使用できない者もいれば、全属性の魔法を使用できる者もいる。

 そして、さっきライルが言っていた固有魔術。

 これは属性魔術に含まれない特殊な魔法の事らしい。使えない魔術も多いが、強力なものも多いらしい。

「まあ、しばらくはいらないかな」
 
 何か嫌な予感がする。チートの匂いがする。

「そうか? でも、先に知っておかないと使えない魔法の練習して無駄になったりするぜ?」

「今は体術や武器術の方に集中したいから……あ」

 一ついいことを思いついた

「そうだ。格闘の資格試験の時は魔術も使用していいぞ。魔術対策を考えたいし、面白そうだ」

 普通にやってたら俺から資格を取るのは不可能に近いだろうし。うん。

「それはまた随分と余裕だね。あんまり魔術を舐めない方がいいと思うけど」

「そりゃそうだろうけど、まだ年齢も若い奴ばっかりだし、この学校にいるって事は魔術学校へは行ってないってことだろ? じゃあ、そこまで強い魔術を使える奴はいないだろ」

 まあ、いても良いけどな。

「……資格試験が楽しみだな。っと、そろそろ時間だな」

 ケインが時計を確認すると、時間は六時半。後、三十分で教室に向かわなければならない。

「じゃあ、行くか」

 俺達は食器類を返却し、食堂から出て行く。

 ちなみに、チョコレートケーキらしきものはスポンジのないチョコレートケーキだった。普通に全部チョコだった。胸焼けが少しする。

「あれ?」

 教室へ向かう途中、一人の銀髪の少女とすれ違った。

 だが、今彼女が向かっているのは食堂だ。今から食事したのでは間に合わないと思うのだが……。

「あ、もう六時半だけど大丈夫?」

 一応、声をかけてみると彼女はゆっくりと振り返りこちらを見る。

「……大丈夫」

 そして、それだけ言うとまた食堂へと歩き出した。

 俺もそれ以上声をかけることも無く、教室へと向かった。



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