女神と天才の異世界冒険譚
ともだちひゃくにん―アリス編―⑤
「もう一回! もう一回なのじゃ!」
アリスは立ち上がるとそう叫んだ。しかし、
「断る。というか、もうこんな馬鹿みたいな事する必要かないからね」
ラックは一瞥もしないまま、エリー達三人に近づく。
「さて、と。これ何かわかるかな?」
その手には三つの輪が乗せられている。
「……これは……! 隷属輪!」
サオリが驚いたような声を上げる。
「……この輪に魔力を流した後、誰かの首か手足に嵌めたら、その誰かを隷属させる事が出来るアイテムね……」
エリーが解説し、その真意を探るようにラックの目を見る。
「じゃあ、三人にはこれを付けて貰うね」
「はぁ!? 付けるわけないでしょ?」
「頭がいかれてるのですか?」
「拒否する」
ラックの発言に三人は憤慨し、言葉を荒げる。
だが、
「え? 何で?」
「ちょっ、待っ」
「何なのだこれは!?」
三人は手を伸ばし、その隷属輪を手に取ると自身の手首に嵌める。
「……これが僕の特殊魔術、ハッピーライフの力だよ」
ラックは得意気に語り出す。もう、この空間に敵になり得る者はいない。
「運が良いってどういう事かわかるかな?」
「知らないわよ! それよりこれ外しなさいよ!」
エリーは質問には答えず、自身の手首に付けられた隷属輪を外そうとしている。
「口の利き方がなってないな。減点1だ」
パチンとラックが腕を鳴らすと、エリーの手首に付けられた隷属輪が狭まる。
「い、痛いっ!?」
手首の骨が軋み、エリーは思わず悲鳴を上げる。
「運がいいってのはね――「よくわからんのじゃが? とりあえず、お主は敵なのか?」
様子を見ていたアリスが、腕を組んだままラックの言葉を遮り尋ねる。
「うーん、何を持って敵と言うかにもよるけど?」
ヘラヘラと笑うラックの顔は、本人にその気はなくとも煽り耐性の低い、アリスを怒らせるには充分だった。
「いや、聞くまでもないのじゃ。お前はワシの友達を傷つけた!」
アリスの手にはいつの間にか銃が握られている。
コルトガバメント。
七十年以上もの間、アメリカ軍の制式拳銃として使用された日本でも有名な拳銃だ。
アリスの手には少し大きいが、サバゲーもやっているゲーマーのアリスだ。問題ない。
「なんだ……それ?」
「その身で知るのじゃ!」
発砲音と共に発射された弾丸はラックの手首を撃ち抜き、破裂させる。
「うわっ!?」
「きゃっ!」
いつの間にかしっかりとグローブと耳栓を嵌めていたアリス以外は響き渡る銃声に驚いている。
弾が当たったラックは咄嗟に回復魔術を発動させる。
「驚いたな……魔術とも違う、何だそれ」
そういってラックは三人の後ろに隠れる。
「さっさと三人を解放して、ワシと再戦するのじゃ」
アリスは耳栓を外す。ラックの返事を聞くためだ。
「まだ分かってないみたいだね。さっきは発動する暇もなかったから、やられちゃったけど……ハッピーライフを発動した時点でアリスの攻撃が当たることはないよ。最悪、この子達に当たっちゃうかもね」
ラックは三人の裏から出て来るつもりはないようだ。
ラックのハッピーライフは指定した相手に無意識下でラックに都合の良い行動を取らせる能力だ。
ただし、ラックの運の値が相手の運を圧倒的に超えていないと発動しない。近しい値の場合、アリスのように逆らえたり、その行動を起こすように誘導しないといけない。
だからこそ、運を集める為に使用するのが、勝負事で勝つことで相手の運を奪う魔術、ラックスティールだ。
この魔術により彼の二つ名は付いている。
「僕はこれからこの女の子達を賞品に、貴族共から運と金を奪いに行かないといけないんでね。……今度の任務はどれだけ運があっても怖いから」
そう言ってラックは青白い結晶をどこからともなく取り出す。
だが、
「勝ち逃げは許さんのじゃ!」
またもラックの手首がはじけ飛ぶ。
「……君、もし三人に当たったらとか考えないの?」
「……あ、いや、ワシが外すわけないじゃろ!」
動揺するアリス。何故なら図星だからだ。
アリスにとっては、ちょっと会話しただけの間柄の三人でしかない。
さっき友達だ、と言ってみたのも真人から友達を作るように言われたからだ。
それよりも何よりも、負けたままは気分が悪い。アリスの行動理由はそれだけだった。
「……人質は無意味か」
ラックはしばらく考え込むと、大きくため息をつきアリスに提案する。
「仕方ない、アリス。君が一番運が良いと思う奴を連れて来てくれ。そして、金も最低でも金貨五十枚は持ってくるんだ。それで再戦してあげよう」
「本当か!? あ、いや、それだけじゃなくお主が負けたら三人も解放するのじゃ!」
取って付けたように付け足したアリスは、ソワソワとラックの返事を待つ。
「わかった。約束する」
「じゃあ呼んでくるのじゃー!」
アリスは大急ぎで部屋を飛び出す。
この隙にラックは逃げることも出来るが、それはしない。
何故ならこの形がラックにとっての理想だったからだ。
最初にアリスを見た時は本当に驚いた。運の値が尋常ではない。
長年コツコツ貯めてきたラックよりも多い。それ故にアリスの運だけは完全には奪えなかった。
ラックスティールは賭けられた運の分しか奪えない。
三人のようにラックが圧倒的に多い場合はハッピーライフを使用する為の運を除いても、相手の運の量と同じだけ賭けれた。
分かりやすく数字で表すならこうだ。
エリーの運の総量が300。ラックの運の総量が1000。
ラックはエリーの運の総量を大きく超えていないとハッピーライフが発動出来ないので、300の1.5倍である450は持っていないといけない。
それでも余りは550。エリーの運の総量を超えている。
マリーの時はエリーの300がラックにプラスされているので更に楽だ。
サオリの時も同じだ。
三人とも負けず嫌いだったので、長引いてしまったが結局は負けるための行動を起こしている。
そうして、集めた運で何とかアリスにも勝利したが賭けられた運の量は少ない。
だから、ラックにとってもアリスとの再戦は望ましい、その上、アリスが運が良いと思う奴からも奪えればもう怖いものはない。
「……今度の任務はもう、手段を選んでる場合じゃないんだよね……」
ラックはどこか辛そうな顔でアリス達の戻りを待つ。
そんなラックはこの後思い知ることになる。自身の愚かさを。そして、アリスに関わってしまった不運を。
アリスは立ち上がるとそう叫んだ。しかし、
「断る。というか、もうこんな馬鹿みたいな事する必要かないからね」
ラックは一瞥もしないまま、エリー達三人に近づく。
「さて、と。これ何かわかるかな?」
その手には三つの輪が乗せられている。
「……これは……! 隷属輪!」
サオリが驚いたような声を上げる。
「……この輪に魔力を流した後、誰かの首か手足に嵌めたら、その誰かを隷属させる事が出来るアイテムね……」
エリーが解説し、その真意を探るようにラックの目を見る。
「じゃあ、三人にはこれを付けて貰うね」
「はぁ!? 付けるわけないでしょ?」
「頭がいかれてるのですか?」
「拒否する」
ラックの発言に三人は憤慨し、言葉を荒げる。
だが、
「え? 何で?」
「ちょっ、待っ」
「何なのだこれは!?」
三人は手を伸ばし、その隷属輪を手に取ると自身の手首に嵌める。
「……これが僕の特殊魔術、ハッピーライフの力だよ」
ラックは得意気に語り出す。もう、この空間に敵になり得る者はいない。
「運が良いってどういう事かわかるかな?」
「知らないわよ! それよりこれ外しなさいよ!」
エリーは質問には答えず、自身の手首に付けられた隷属輪を外そうとしている。
「口の利き方がなってないな。減点1だ」
パチンとラックが腕を鳴らすと、エリーの手首に付けられた隷属輪が狭まる。
「い、痛いっ!?」
手首の骨が軋み、エリーは思わず悲鳴を上げる。
「運がいいってのはね――「よくわからんのじゃが? とりあえず、お主は敵なのか?」
様子を見ていたアリスが、腕を組んだままラックの言葉を遮り尋ねる。
「うーん、何を持って敵と言うかにもよるけど?」
ヘラヘラと笑うラックの顔は、本人にその気はなくとも煽り耐性の低い、アリスを怒らせるには充分だった。
「いや、聞くまでもないのじゃ。お前はワシの友達を傷つけた!」
アリスの手にはいつの間にか銃が握られている。
コルトガバメント。
七十年以上もの間、アメリカ軍の制式拳銃として使用された日本でも有名な拳銃だ。
アリスの手には少し大きいが、サバゲーもやっているゲーマーのアリスだ。問題ない。
「なんだ……それ?」
「その身で知るのじゃ!」
発砲音と共に発射された弾丸はラックの手首を撃ち抜き、破裂させる。
「うわっ!?」
「きゃっ!」
いつの間にかしっかりとグローブと耳栓を嵌めていたアリス以外は響き渡る銃声に驚いている。
弾が当たったラックは咄嗟に回復魔術を発動させる。
「驚いたな……魔術とも違う、何だそれ」
そういってラックは三人の後ろに隠れる。
「さっさと三人を解放して、ワシと再戦するのじゃ」
アリスは耳栓を外す。ラックの返事を聞くためだ。
「まだ分かってないみたいだね。さっきは発動する暇もなかったから、やられちゃったけど……ハッピーライフを発動した時点でアリスの攻撃が当たることはないよ。最悪、この子達に当たっちゃうかもね」
ラックは三人の裏から出て来るつもりはないようだ。
ラックのハッピーライフは指定した相手に無意識下でラックに都合の良い行動を取らせる能力だ。
ただし、ラックの運の値が相手の運を圧倒的に超えていないと発動しない。近しい値の場合、アリスのように逆らえたり、その行動を起こすように誘導しないといけない。
だからこそ、運を集める為に使用するのが、勝負事で勝つことで相手の運を奪う魔術、ラックスティールだ。
この魔術により彼の二つ名は付いている。
「僕はこれからこの女の子達を賞品に、貴族共から運と金を奪いに行かないといけないんでね。……今度の任務はどれだけ運があっても怖いから」
そう言ってラックは青白い結晶をどこからともなく取り出す。
だが、
「勝ち逃げは許さんのじゃ!」
またもラックの手首がはじけ飛ぶ。
「……君、もし三人に当たったらとか考えないの?」
「……あ、いや、ワシが外すわけないじゃろ!」
動揺するアリス。何故なら図星だからだ。
アリスにとっては、ちょっと会話しただけの間柄の三人でしかない。
さっき友達だ、と言ってみたのも真人から友達を作るように言われたからだ。
それよりも何よりも、負けたままは気分が悪い。アリスの行動理由はそれだけだった。
「……人質は無意味か」
ラックはしばらく考え込むと、大きくため息をつきアリスに提案する。
「仕方ない、アリス。君が一番運が良いと思う奴を連れて来てくれ。そして、金も最低でも金貨五十枚は持ってくるんだ。それで再戦してあげよう」
「本当か!? あ、いや、それだけじゃなくお主が負けたら三人も解放するのじゃ!」
取って付けたように付け足したアリスは、ソワソワとラックの返事を待つ。
「わかった。約束する」
「じゃあ呼んでくるのじゃー!」
アリスは大急ぎで部屋を飛び出す。
この隙にラックは逃げることも出来るが、それはしない。
何故ならこの形がラックにとっての理想だったからだ。
最初にアリスを見た時は本当に驚いた。運の値が尋常ではない。
長年コツコツ貯めてきたラックよりも多い。それ故にアリスの運だけは完全には奪えなかった。
ラックスティールは賭けられた運の分しか奪えない。
三人のようにラックが圧倒的に多い場合はハッピーライフを使用する為の運を除いても、相手の運の量と同じだけ賭けれた。
分かりやすく数字で表すならこうだ。
エリーの運の総量が300。ラックの運の総量が1000。
ラックはエリーの運の総量を大きく超えていないとハッピーライフが発動出来ないので、300の1.5倍である450は持っていないといけない。
それでも余りは550。エリーの運の総量を超えている。
マリーの時はエリーの300がラックにプラスされているので更に楽だ。
サオリの時も同じだ。
三人とも負けず嫌いだったので、長引いてしまったが結局は負けるための行動を起こしている。
そうして、集めた運で何とかアリスにも勝利したが賭けられた運の量は少ない。
だから、ラックにとってもアリスとの再戦は望ましい、その上、アリスが運が良いと思う奴からも奪えればもう怖いものはない。
「……今度の任務はもう、手段を選んでる場合じゃないんだよね……」
ラックはどこか辛そうな顔でアリス達の戻りを待つ。
そんなラックはこの後思い知ることになる。自身の愚かさを。そして、アリスに関わってしまった不運を。
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